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サナトリウムの記憶

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 実際に一人で行くのを想像すると、想像というよりも、妄想が膨らんでくるようで、
「彼女ができるかも知れない」
 などと、少しでも考えたとすれば、
「この考えは、もし、彼女ができなかったとしても、余計なことを考えたから、バチが当たったというように考えれば、実に都合のいい考えになる」
 と言えるものだった。
 実際に、旅行に出かける前に、もう一度予約状況を聞いてみると、
「あれから、2,3組増えたくらいですね」
 ということであった。
 それくらいであれば、満員ということはありえないし、女性グループでもいれば、嬉しいな」
 と感じるのだった。
 ただ、相手もグループだと、こっちは一人なので、
「仲良くなるすべはないか」
 というのであった。
 旅行当日になると、表はキレイに晴れ上がっていて、
「現地の天気は快晴で、気温も湿度も快適だ」
 ということであった。
「これは、本当に旅行日和だ」
 ということで、
「最初の計画通りだ」
 ということは間違いないのだった。
 旅行の第一段階は、大成功だといえる。
 第一段階は、旅行に出かける前、こちらを第一段階だといってもいいのか、難しいところであったが、天気が悪くて、体調を崩すことを思えば、何ぼかましだといってもよいだろう。
 電車は、なかなか来ないし、バスも2時間に一本というところで、なかなかの、
「秘境」
 といってもいいのだろうが、ホテル側は、あくまでも、
「秘境」
 というと、抵抗があるようだ。
 だがm贔屓目に見て、都会の人間からすれば、
「秘境」
 でしかない。
 しかし、それはそれで悪いことではない。
 それは、あくまでも、
「旅行者」
 ということで、それこし、
「一期一会」
 つまり、旅で出会う人は、その時だけの付き合いということなので、田舎であっても、毎日住んでいるわけではないので、
「田舎」
 と言われてしまうと、とんでもない田舎に引きこもっているということを感じさせられることになるのだ。
「このあたりに住んでいる人がどういう気持ちなのか、聞いてみたいものだ」
 ということを考えていた。
 田舎に住んでいると、どうしても、都会暮らしに憧れるが、そうなると、どうしても、田舎というものが、鬱陶しくなる。
「田舎育ちだ」
 といってしまうと、
「自分が恥ずかしくなる」
 であったり、
「なるべく田舎の言葉を喋りたくない」
 ということを考えていたりすると、
「そんな自分が恥ずかしくなるというそんな自分が、情けなくなるのだ。

                 森に入る

 これは、まるで、ちょっとした、
「マトリョーシカ現象」
 で、
 小さくなっていく人形が、いつも間にか、ゼロに近づいていることを感じると、
「これ以上情けなくなることはない」
 と感じるのだ。
 どんどん小さくなっていくうえで、最後までゼロになってしまわないことが情けない。
「早く、ゼロになってくれれば、これほど気が楽なことはない」
 と考えるのだが、結局は
「限りなくゼロに近い」
 という存在にしかならないことが情けないのだった。
 旅行のその日は、キャリーケースを引きずりながら、歩いていると、
「まるで都会の人間のようだ」
 と思うのだが、次の瞬間、
「田舎者が都会者のふりをして、情けなくないのか?」
 と考えさせられることで、
「田舎に旅行に来たんだな」
 と感じることが、よかったと思うのだった。
「電車に1時間。そしてバスで、約2時間、かなり奥まったところに、写真にあったような、大きな湖を囲むような森があるなんて」
 と考えるのだ。
 まるで、古代史の、
「古墳時代にあった、天皇陵」
 のようなものが見えてくるはずだ。
 というイメージをずっと持っていたのだ。
 確かに、奈良や飛鳥に近づくと、大きな天皇陵があるので、ここのような、駅地であれば、
「本当に、古代古墳が存在するのだろうか?」
 と感じるのだった。
 旅館の人の話によると、
「バスは、最寄りのバス停があるにはあるが、そこから宿までは結構あるので、最寄りのバス停まで、マイクロバスでお迎えに伺います」
 ということであった。
 どうやら、バス停は、森の近くにあり、停留場は、
「憩いの泉前」
 というのだという。
「泉というには、あまりにも大きすぎるのだが、元々は、富士五湖に通じるもう一つの湖であり、そこが、富士五湖に比べれば小さい」
 ということで、だったら、
「泉でいいだろう」
 という話になって、じゃあ、
「憩いの泉」
 にしようという話になったのだという。
「憩いの泉」
 というバス停までくると、その時バスの中に乗っているのは、あと2人だけ、
「この先、どこまで行くのだろう?」
 と思えるほどで、その先にあるのは、欲わからなかった。
 バス停を降りると、なるほど、バスの少し前に、マイクロバスが泊っている。
 といっても、自分一人だけを載せるのに、マイクロバス一台というのは、実に贅沢なものであった。
 バスに乗り込むと、表から見るよりも、かなりこじんまりとしたマイクエロバスで、それだけ、まわりが大きいのか、小さいのか、何かの錯覚を感じさせられた気がしたのだった。
「こんにちは。よろしくお願いします」
 といって挨拶をすると、運転手は、頭を少しだけ下げる形であいさつをした、
 変に堅苦しい挨拶をされるというのも、鬱陶しいが、ここまで無作法であれば、さすがに気分を害するというものであった。
 しかし、運転手は、別に悪気もなければ、失礼だという感覚もない。あくまでも、
「これが当たり前だ」
 といってもいいようである。
 秋元が、バスの手前の運転手の反対側に座ると、バスが扉を閉めて、
「では、発車します」
 と、相変わらずの不愛想な感じで発射したのだった。
 当然、運転手は何も言おうとしない。
 どうせ、話しかけてくることはないだろう。
 と思っているとまさにその通りで、黙っていればいるで、自分がイライラしてくるのを感じたが、決して、文句を言わないようにしようと思うのだった。
 運転手が何も言わずに走っていると、スピードだけがやたらに出ているような気がした。
 実際には、さほどのスピードが出ていないのを感じると、、まわりの木々が、想像以上に大きくなってくるのを感じると、森に囲まれた道を少し進んでいたが、こちらも、まるで、
「木々のトンネルの中を、吸い込まれるように進んでいる」
 というように感じられた。
 今度は、スピードがどんどん増してくるように感じ、気が付けば、森の中に入っていく、細いあぜ道のようなところに入っていった。
 こんなところを走るのに、スピードなど出すわけにもいかず、ゆっくりと入っていくことで、今度は、まわりが、どんどん迫ってくるような大きな木々に見えてきたのであった。
 前を見ていると、さっきまで見えていたと思った入り口が、急になくなったかのようにで、隣の道を進んでいくと、今度は、さっき見た道の戻ってきたかのように感じたのだった。
「一周回って、戻ってきたのだろうか?」
 という感覚になり、
「見えているそこにあるのは、本当にさっきの道なのだろうか?」
 ということであった。
作品名:サナトリウムの記憶 作家名:森本晃次