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サナトリウムの記憶

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 ということで、社員への扱いが、ある程度、今までから比べればであるが、
「神対応」
 に近づいていた。
 今までは、残業代もくれないような会社だったので、その話も、労働基準局からの指導もあって、過去数年分の残業手当を支給するように言われたようだ。
 もちろん、
「会社側の人間には、最初から残業手当のようなものはなく、それは課長以上であり、それ以外の社員には、支給された。
 結構な額を貰えるひともいたようだが、秋元くらいでは、そこまではなく、それでも、一週間分くらいの旅行で、遠くに行かなければ、十分に賄えるくらいの額だった。
 最初は、
「貯蓄でもしようか?」
 と思ったが、
「やっぱり、癒しを求めて旅行に行こう」
 と思い、
「富士山が見えるところがいい」
 ということで計画したあのだった。
 秋元が済んでいるところからでも、富士山は見えなくはないが、見える感じのところで、「富士山の反対側がいい」
 と感じたのだ。
 富士山のまわりは、富士五湖などというような、湖があったりして、景色がいい。
 ただ、今回、行ってみたいと思っていたところが実は最初からあった。
 かつて聞いたことがあったのだが、そこは、
「森に囲まれた湖で、まるで日本ではない。どちらかというと、西洋の城が見栄てきそうな、キレイなところだ」
 ということであった。
 その場所を、聴いたのは、まだ学生の頃で、学生時代に、
「彼女ができたら、一緒に行きたい」
 と思っていた場所で、残念ながら、学生時代に彼女ができなかったということで、一緒に行くことはなかったのだ。
 ということで、ずっといけていなかった場所だったので、残念だと思うながらも、ずっといけず、残念に思っていたのだ。
 しかも、就職した会社もブラックで、彼女をつくるどころか、
「いつ、会社を嫌になって辞めるか?」
 ということになるか、
「身体を壊して、出社できなくなるか?」
 というような悲惨な末路しか想像がつかなかったので、
「彼女をつくる」
 などということは、夢のまた夢だったのだ。
 そんな中において、今回、
「これまでの残業手当未払い分が戻ってくる」
 ということであるが、もちろん、全額が戻ってくるわけでもなく、貯蓄するとしても、それはそれでよかったのだが、それ以上に、
「何か気分転換がしたい」
 という意識があったことから。
「旅行に出よう」
 と思ったのだ。
 本来であれば、
「彼女ができれば」
 という気持ちもあったのだが、それを考えてしまうと、
「いつまで経ってもいけるわけはない」
 ということで、
「それだったら、現地で女の子がいれば、仲良くなりたいな」
 というくらいのつもりでいたが、考えてみれば、そんなに人気のあるところではなく、どちらかというと、密かな、
「隠れ家的なオアシスのような場所」
 ということで、
「女性に期待をするのは無理だ」
 ということでもあった。
 実際に、予約を入れると、今のところ、
「今は予約は一組しかいない」
 ということで、10部屋くらいはありそうなとことろだったので、ちょうどいいくらいだと思っていた。
 当日まで、数日あるので、まだ予約を、絶賛受付中ではあるが、いくらなんでも、満室になるということはなさそうだ。
 しかも、
「隠れ家的なところ」
 ということで、観光ブックにも、すべての本に乗っているわけではなく、一社くらいが載せている程度で、
「これであれば、本当に客が集まるとは思えないな」
 ということであった。
 実際に、宿に電話をしてみると、
「うちは、隠れ家のようなところだ」
 ともいっていた。
「隠れ家という言葉を使うと、秘境のようなところに思われるかも知れませんが、そんなに田舎ではありません。皆さん、気軽に来ていただけますが、かといって、団体が来たり、騒ぐような人が来るということもありません。そういう意味では、そんな派手なところということでもありません」
 ということであった。
 ただ、一つ言っていたのが、
「もちろん、関係の建物の関係ではないですが、近くに、珠海の入り口のようなところがあるにはありますが、そちらには入らないようにとお話はさせえいただいていますね」
 ということであった。
 確かに樹海というと、正直、少し怖いところもあり、以前であれば、
「何かの事件が発生した時、近くで犯人が目撃されたり、あるいは、近くで犯罪があったりした場合は、樹海の捜査は行われていた」
 のであった。
 そして、ある一定の時期くらいは、ほとんど、捜索をすれば、行方不明者が、かなりの確率で見つかっていたのだった。
 だが、その頃というのは、ちょうど、時代的に、高度成長時代が終わって、公害問題であったり、好景気の間に訪れる不況時代だったりして、
「零細企業の倒産」
 などというものが、結構頻繁だった頃で、
「樹海で死んでいた」
 というのも結構聞いたものだった。
 そういえば、
「自殺の名所」
 というのも、全国にはたくさんあった。
 飛び込みなどでは、北陸の、
「東尋坊」
 であったり、
「富士の樹海」
 というのも有名だった。
 そんな場所では、基本的に、
「死体は見つからない」
 ということも多かったので、それを題材にした、探偵小説関係が多く描かれたりしたのだ。
 戦後のトリックなどを使った、
「本格派探偵小説」
 さらには、耽美主義であったり、恥辱殺人などと言った。
「変格探偵小説」
 などという時代の小説があり、その後に出てきた。
「社会派推理小説」
 などというものが増えてくると、その頃には、当時の、社会問題や社会風刺のような話が描かれていたのだった。
 そのため、
「自殺の名所を舞台に使った小説も多く、その後くらいからテレビドラマとして出てきた、
「2時間サスペンス」
 などというと、
「断崖絶壁が出てきて、そこで、探偵としての刑事、あるいはルポライターなどの人が、そこで、事件解決をして見せるのであった」
 事件解決の場面が、
「どうしていつも同じ、断崖絶壁なのか?」
 ということはさておき、そこで謎解きが行われると、犯人は、
「動かぬ証拠」
 を突き付けられて、言い逃れはできない状態になっているのだった。
 それが、
「自殺ブーム」
 と言われる世情への皮肉のようなものだったのかというと、何とも言えないが。
「2時間ドラマというと、なかなか毎回、事件を起こして解決しなければいけないわけで、同じようなシチュエーションが出てくるのは仕方がない」
 と言えるだろう。
 しかし、これを逆手に取って。
「探偵小説と、断崖絶壁」
 というワンパターンを、事件解決の手段として考えることができないだろうか?
 ということであった。
 確かにワンパターンではあるが、探偵の種類を変えたり、探偵の本職に関係するような事件展開であったりと、それぞれに発想も浮かんでくるというものである。
 今回は、結局、誰と一緒に行くわけではなく、一人の旅行にすることにした。
 そもそも、
「彼女と一緒にいくのでなければ、一人でいく」
 ということは前々から決めていたので、
「最初から考えていたこと」
 ということで、何も言わなかったのだ。
作品名:サナトリウムの記憶 作家名:森本晃次