力の均衡による殺人計画
「事故か、事件かも分からないのに、被害者という言い方もおかしいんだがな」
と感じていたのだ。
それでも、彼としては、
「事件ということにしたい」
という考えなのか、それとも、状況から勝手に事件だと思ってしまったのかのどちらかだろう?
と思うのだった。
今回の、
「二組でいい分が違う」
というのはどうだおる?
普通であれば、
「受け取る側の受け取り方一つで、まったく違う受け取り方になる」
という発想は間違いないだろう。
そして、その気持ちも間違いではないだろう。
それを考えると、
「どうも、政治家ということを考えると、わざとそのようにしているのかも知れないよな」
と感じていた。
政治家というものは、
「二枚舌や、三枚、四枚とたくさんの舌と持っている」
と言われるが、まさにその通りではないだろうか?
それだけ、
「家族というものを信用していないか?」
あるいは、
「どちらかを信用していて、どちらかは、ほとんど信用していないのか?」
ということになるのであろう。
そんなことを考えると、
「どっちが、信用できるのだろう?」
と考えた。
しかし、それは、
「刑事が見た目」
と、
「ご主人が見た目」
とで、見え方も、立場も、経験も、まったく違っているだけに、何かの作戦を取るとしても、その発想は、いろいろあるに違いない。
「やはり政治家というと、何か贔屓目に見てしまいそうで、まったく違った雰囲気になるのではないだろうか?」
と感じるのだった。
ただ、話を聴いている限りでは、
「ご主人に対しての見方は、かなり違うようだが、行動に関しては、そんなに違うという感覚ではないようだ」
聴いた話によると、御主人は、寝る時間は比較的遅いということだった。
息子夫婦は、
「不眠症じゃないのかな?」
という話をしていたが、奥さんは、ハッキリと、
「ええ、不眠症です」
と言っていた。
ご主人は、自分のまわりでも、一部の人にしか、自分のことを話していないのかも知れない。それが今の奥さんであり、息子夫婦であっても、自分のことをペラペラしゃべるということはないのではないだろうか。
それを思うと、
「ある程度の不眠症というのは、信憑性があるな。そう考えると、あそこにあった薬は。睡眠薬だと思ってもいいんだろうな」
というと、奥さんと話をした刑事が、
「それは間違いないというような話をしていました。しかも、御主人は、薬を飲む時は、誰にも見られるのを嫌がるそうで、一度、奥さんが、意識的にではないけど。薬を飲もうとしているのを見て、相当起こったらしいんです。それで奥さんもビックリして、御主人が、何かコソコソとしているようなら、黙って放っておくことにするといっていましたね」
ということであった。
「じゃあ、御主人は、結構秘密主義なんだろうか?」
と聞くと、今度は息子夫婦に聞いた刑事が口を挟んだ。
「その通りのようです。特に、自分の部屋には、誰かを入れる時、必ず数分表で待たせるんだといいます。何やら片付けているのか分からないそうなんですが、その状態を見ると、相当な神経質だと思っているということでした」
「それについて、奥さんは何も言っていまかったかい?」
と聞かれた奥さんを担当した刑事が、
「いや、詳しくは聴いていないですね。でも、奥さんがいうには、元々医者だったので。自分の身体のことはよくわかっているようだと言っていました。医者の不養生とかいうじゃないですか。でも、御主人は、自分の身体のことが分かっているせいか、最近は、結構健康には気を付けていたようです」
というのだった。
これについては、息子夫婦も分かっていて、
「そうです、お父様は、よく健康にいいものを気にしていたようで、私にも、何か健康にいいものを作ってほしいと言われたことがありましたと言ったそうです」
というのを聞いて、
「そのあたりは、奥さんは知っているんだろうか?」
と聞くと、
「ハッキリとは分かりませんが、私は知っているのではないかと思いますね」
という。
「それはどうしてだい?」
と聞くので、
「あの奥さんは、我々が想像しているよりも、相当、いろいろ知っているような気がするんです。私が何かを質問しようとすると、その内容が分かっていたかのように、即座に答えが返ってくる。そんな素質のようなものがあるのかも知れない。そう思うと、僕らには分からない何かを分かることができるんでしょうね。だから、この家のような異様な雰囲気でもここまでこれたような気がするんです」
というと、
「なるほど、確かに、あの奥さんは、息子夫婦とも、わだかまりがなさそうだ。関わっていないというのもその秘訣なんだろうけど、それだけで、よくうまくやっていけるといえるものはないかと思うんですよね」
というではないか。
「息子夫婦は分かっているのかな?」
と聞くと、
「ええ、分かっているような気が私はしますね」
ともう一人の刑事がいうのだった。
捜査本部が開かれ、今のような話が報告されたのだが、そこに、鑑識からの報告も飛び込んできた。
捜査本部が開かれたのは、
「自殺よりも、他殺の方が強いからだ」
ということであった。
その大きな理由としては、死体のそばに転がっていた薬が、表題通りの睡眠薬だったからだ。
その睡眠薬は、確かに服用しすぎると、
「死に至る」
というものであるが、実際の死因は、
「青酸カリの服用によるもの」
ということで、明らかな服毒であったのだ、
「睡眠薬を飲んで、毒を煽る」
というのはおかしいだろう。
というのも、確かに、
「苦しむのを少しでも和らげるため」
ということであれば、青酸カリのような即効性のある毒を服用すれば、睡眠薬が効いてくる前に苦しみだすのだから、睡眠薬の効果はまったくないわけで、しかも、
「毒と睡眠薬を一緒に飲むなど、普通は考えられない。却って、苦しみを増すだけではないか?」
ということであった。
「自殺する人だって、そのことを分からないわけではないだろう」
ということで、
「今回の事件は、他殺の可能性が高い」
ということになった。
もちろん、自殺の可能性がまったくなくなったわけではないが、その両面からの捜査ということになったのだ。
ただ、鑑識からの知らせで、
「彼の部屋から、毒物らしきものは発見されなかった」
ということだった。
刑事が調べた時も、それらしきものはなかった。ということになると、やはり、他殺ということになるのであろう。
それを思うと、他殺の線が、濃厚だということになるのだ。
死亡推定時刻は、推定通り、深夜の日付が変わる前後ではないかということであった。その時の家族のアリバイ、そして、被害者のその日の、特に、その前後の行動などを中心に調べることになったのだ。
そんな状態において、さらに調べを進めていると、違う意味での、見方が出てきたのだった。
というのが、
「奥さんが浮気をしているのではないか?」
という疑惑だった。
そして、その相手というのが、何と、半月前に殺されていたのだった。
作品名:力の均衡による殺人計画 作家名:森本晃次