力の均衡による殺人計画
その事件も、同じ署内での殺人事件として、別の捜査本部が立ち上がっていた。こちらの事件が、殺人事件だと認定される前は、そっちの事件の方が問題は大きかったのだ。
そちらの事件に対しても、少し関わっていた数名の刑事は、その事件で殺された男が、
「誰かと浮気をしていた」
という事実は掴んでいたのだが、それが誰かということは、まだ捜査中だった。
しかし、こちらの殺人事件が勃発したことで、ここの奥さんと関係があったなどとは誰が考えることだろう、
それを思うと、
「この事件が、どういう様相を呈しているのか?」
ということが分からなかったのだ。
その時の事件の顛末というのは、
「あれは、半月前のことであった。一人の男性が、自宅マンションで殺されているのが発見された。その男は、無職に近い形だったが、捜査すると、暴力団関係者の経営する店の、用心棒のような人間だった」
ということである。
見た目は、普通だったので、捜査をしないと、
「まさか、暴力団関係者だったなんて」
ということである。
被害者の男は、確かに見た目は分からないし、そんなにガタイがいいわけでもない。一見では、暴力団関係者とも、用心棒とも見えなかったのだ。
見た感じは、そんなにひどいやつでもなく、もっと言えば、
「もし、暴力団関係であっても、チンピラ程度だ」
ということであろう
それを思うと、
「何か、うちわの喧嘩か何かによる衝動的な犯行」
ということで、
「この事件の解決までは、すぐだろう」
というのが、ほとんどの捜査員の一致した意見だった。
しかし、実際に捜査してみる、どうにもハッキリしないことも多かった。
確かに、人間関係もそんなになく、犯人を絞るとすれば、そんなに難しくもないと思われた。
しかも、それほど目立つわけでもなく、人間関係もさほど、ややこしくなかった。
そういう意味でも、
「事件解決は時間の問題」
と言われていたのだ。
だが、容疑者が数名に限られ、彼らのアリバイが捜査された時、その数名の容疑者が、全部消えるということになったのだ。
そう、
「全員にアリバイがある」
ということだったのだ。
そのせいで、
「事件は、振り出しに戻った」
と言ってもいい。
最初こそ、
「簡単に犯人が見つかる」
ということになっていたにも関わらず、
容疑者が絞られてきて、これからという時に、暗礁に乗り上げてしまったのだ。
こうなってしまうと、それ以降の捜査が先行きがつかなくなってしまい、捜査は、急に、
「どう進めていいのか分からない」
ということになったのだ。
事件をどうすればいいのか?
と考える前に、
「あまりにも見えていることだけにこだわろうとしたからなのかも知れない。もう少し、初心に却って、いろいろさらに周囲を見渡してみる必要があるのではないか?」
という本部長の意見で、さらに、広く被害者を見ることにした、
ただ、遠回りをしたのは確かであり、しかも、最初と捜査方針の転換をするというのは、厄介なことだった。
本当はその決断をした本部長が一番、
「無念だ」
と思っていることだろう。
「理不尽だ」
というところまで考えている。
何と言っても、それまでに時間を10日近くも費やしていた。
「時間の無駄」
ということを意識して極力失くそうという本部長の考えからいけば、本当に無駄なことをしたと思うことだろう。
そんな捜査において、また一から捜査をしなければいけない捜査員も、ショックは隠しきれないようで、この捜査に関しては、
「ほとんどの人が、大きなショックを受けている」
と言ってもいいだろう。
そのショックというものが、どういうものなのかというと、
「捜査員、それぞれに、犯人が誰かということを推理して、その通りになることを考えているので、自分が、捜査した相手にアリバイがあるとなれば、心の中で拍手するレベルであろう。だから今回もよかったと思った」
と感じる。
「しかし、実際には、
「容疑者すべてに、アリバイがあった」
ということで、
「捜査が却って事件を面倒臭くした」
ということで、
「自分でも、どうすればいいのか?」
ということを考えてしまうのだった。
そんなことを考えていると、
「一体、この事件は、どのような解決を見るのだろう?」
と考える。
すると、
「この事件は、一筋縄では解決しないような気がするが、逆に、見えない何かがいきなり出てきて、急転直下、解決に導く」
ということではないかと思うのだ。
しかも、その急転直下が、
「我々警察の手によるものではない」
ということになれば、
「果たして、事件が解決した時の憔悴感は、ハンパなものではないだろう?」
と考えられるのだ。
だから、捜査員も、それなりにショックは受ける覚悟で当たらないといけないということを覚悟しないといけないのではないだろうか?
この被害者の名前は、村上信夫と言った。
近所のスナックの常連で、ほぼ毎日いた」
というのだ、
客からすれば、
「あの人毎日いたけど、あそこのオーナーか何かじゃないのか?」
と、いろいろな意見もあったが、一番多いのは、この意見だった。
だから、やっているこおはチンピラでも、見た目は、落ち着いた男で、変な言い方をすると、
「見掛け倒し」
ということになるのだろうが、事実、それ以上でもそれ以下でもなかった。
しかも、別にママさんと関係があるというようなウワサもない。
「うまく隠しているのでは?」
とも思われたが、男もそんなに器用なわけでもないし、それよりもママの性格が、
「好きになったらとことん」
というほど、感情をあらわにするタイプなので、そうではないということになると、
「本当にウワサはウワサでしかないんだ」
ということになるだろう。
もちろん、ママが重要参考人であり、アリバイも入念に調べられたが、調べれば調べるほど、彼女に殺害の動機もなかったのだ。
むしろ彼に死なれることは、デメリットが大きい。それだけ、用心棒としての彼に期待していたと言ってもいいだろう。
被害者は、ナイフで刺され、自宅の玄関付近で死んでいた。
宅配業者をよく利用していたので、宅配の荷物がよく届いていたのだが、家に届いても、誰も出てこないのだから、表に見持つが重なって、さすがに、
「まるで引っ越し荷物のようだ」
と言われるようになったので、それも厄介なことであり、結局、管理人が、警察に届け、結果、中をあけてもらい、そこで殺されている被害者を発見したということだった。
そういう意味で、第一発見者は管理人と、一緒に入った警官ということになる。
「まさか、死んでいるなんて」
と管理人もビックリしていた。
「殺人事件が起こったなど、今までになかったことですから」
というが、
「そんなに事件が起こったりはしない」
と刑事は、それを聞いて、そう思うのだった。
管理人に被害者のことを聞いても、
「正直よく分からないんですよ。物静かだし、部屋にいるのか、出かけたのかも、あまりよく分からないかんじですね」
というのだった、
作品名:力の均衡による殺人計画 作家名:森本晃次