力の均衡による殺人計画
と、幸恵は感じたが、孝弘を見ると、その様子は、顔は笑っておらず、引きつった笑いが、それぞれに中途半端で、映っているという雰囲気だった。
そんな頃だった。
「親父が、後妻をもらうらしい」
という。
幸恵は、少し揺らいだ気持ちだったが、すぐに、
「悪い癖」
が顔を出した。
それは、異常性癖からくるもので、
「この二人の、秘め事を聞いてみたい」
という衝動に駆られていた。
「盗聴器セットなど、いくらでもネットで買うことができる」
と思っていて、こういうことを頼める友人はいるので、その人にお願いし、入手してもらうと、早速、義父の部屋にセットした。
その頃、もうすでに義父に対して、愛情に近いものを感じていたが、この異常性癖と、自分の本音とは、違うものだと感じていたのだ。
それを、一緒に考えたとすれば、幸恵は、この家での生活が、今の時点で、すでに先ゆかなくなっていたことだろう。
毎日のように、
「どうやって抜け出そう」
と思ったかも知れないが、
実際には、そういうことではなく、
「どうやって楽しもう」
ということを考えられるようになるのも、
「この異常性癖のおかげだ」
と考えるようになった。
だから、彼女には、罪悪感というものがない。むしろ、
「私が平和なら、皆争うことや平穏な日常が損なわれることはない」
ということであった。
実際には、
「都合のいい解釈」
をしているわけだが、それが言い訳であっても、自分なりの理由だとすれば、それでいいと思うのだった。
だから、罪悪感はないわけであって、ただ、バレた時には、どうなるか?
ということをほとんど考えたことはなかった。
さすがに、捜査をしに来た刑事に、そんなことを言えるわけもなかった。
しかも、いざとなった時、幸恵は、部類の勘の良さであったり、頭の回転を見せる。だから、義父が殺されたと分かった時、すぐに、盗聴器を接収していた。自分の中で、決して警察に疑われることがないような隠し場所に隠しておいたのだった。
「これで、証拠は残らない」
と思っている。
盗聴器の存在を知っているのは、誰もいない。その時点で、
「ちゃんと隠しさえすれば、分かることは決してない」
と思っていたのだった。
幸恵は、盗聴器のおかげで、
「義母が不倫をしているのかも知れない」
と分かった。
「どうしたものか?」
と考えたが、まず最初に頭の中から消したのは、
「義父を悲しませるような考えや行動」
ということであった。
それをしてしまっては、すべてにおいて、ロクなことはない。誰一人として、いいことはないといえるだろう。
特に、その中でも、
「義父に対してだけは、ひどい目に合わせたくない」
という思いがあった。
義父がいたからこそ、この家に来れて、そして、
「異常性癖のおかず」
にもできると考えていた。
前述のように、
「異常性癖における義父と、いつもの義父とでは、別の発想だ」
ということであった。
しかも、義父が、義母を責める時、
「あんなに豹変するなんて」
とビックリした。
その日は、盗聴を始めてから、結構経っていたので、
「そろそろマンネリ化してきたので、少しこれからは控えようか?」
と思っていた頃だったのだ。
しかし、
「控えなくてよかった」
と感じた。
まさか、
「あんなことが聞けるなんて」
と思ったからで、しかも、普段はおとなしいというか、冷静沈着だと思っていた人が、
奥さんを厳しく、責めているのだった。
それには、さすがにビックリしたが、見えなかったが、
「普段見せない顔を、二人ともしていたことだろう」
と感じたのだ。
しかも、ある程度、奥さんを追求したうえで、まったく黙っていた奥さんに、さすがに疲れたのか、少し黙っていた義父だったが、いきなり聞こえてきたのが、
「ムチ」
だったのだ。
「何なの? これは」
と幸恵はビックリした。
今まで、飽きるくらいまで聞いてきた二人の秘め事であったが、こんなのは初めてだった。
きっと、二人とも、お互いに初めてだったことだろう。
しかし、
「性癖がなければ、こんなことができるはずはない」
と。7幸恵は考えていたが、まさにその通りだということだろう。
幸恵にとって、義父は、
「憧れの人だ」
といっていいだろう。
最近では、恋愛感情まで感じるようになってきたのだから、その存在は、かなり大きくなっているといっても過言ではない。
それを思うと、
「私は、何を見せられているのだろう?」
と感じた。
「このメス豚」
となじっているその声は、息遣いまで感じるほどに興奮しているようだ。
そして、それにこたえるかのように、悶える義母のまるで、
「女豹」
を感じさせるその雰囲気に、
「これ以上、もう何も感じない」
と思った二人に、
「完全に騙されていた」
と感じ。どこか悔しい思いもあったのだ。
「SMの世界」
というもは、今までにも何度か目の当たりにしたことはある。
水商売していた頃、
「SMショー」
のあるような、バーに連れていかれ、そこで、ショーを見たことがあったからだ。
その頃には、自分の異常性癖は分かっていたので、少々のことには驚かない、
SMと言っても、
「どうせ、演技だ」
と思っていたからで、
「演技というものは、いくら、まわりが興奮しようとしても、自分たちが興奮できないのだから、気持ちが伝わらない」
というものである。
演技であっても、セックスのように、人に見せるものではないといっても、そこに興奮というものが存在すれば、
「私の、異常性癖は、反応するのだった」
と言えるのではないだろうか?
と感じるのであった。
SMショーというものを見た時、
「あれは演技だ」
と思った。
それから、
「わざと表に出す、ストリップや、SMショーのようなものであったり、映像として、興奮を与えるAVのようなものは、本当の興奮を与えるものではない」
と思うようになったのだ。
そこへもってきての、自分のあの。
「異常性癖」
であるが、
「恋愛感情よりも、興奮が先に来る」
という感情が、この世には存在するのであって、それが、
「異常性癖の正体なのではないか?」
と感じるようになったのだ。
異常性癖というものは、基本的に、
「身体が一番反応するところが、瞬時にして反応する」
ということが絶対条件だ。
しかも、どうして、反応するかということまで分かっている必要がある。
なぜなら、普通の性癖でも、
「恥ずかしい」
と感じるものが、当たり前だと思われるからであった。
「真剣に感じていれば、同じ声であっても、異常と正常では、相当に違う」
と言えるだろう。
もっといえば、
「異常と正常の違いって何なのだろう?」
と考える。
「バカと天才は紙一重」
というが、
「異常と正常も紙一重ではないだろうか?」
それぞれに極端に別々のものであれば。
異常と、正常に限らず、その間に存在するのが、
「異常性癖」
のように、上に、
「異常」
という言葉をくっつければ、様になってきているということであろうか?
作品名:力の均衡による殺人計画 作家名:森本晃次