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ゆずは

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 と思っていないと、まるで、自分のハッキリした性格が、うまくいかせているのではないか?
 というような、勝手な思い込みに行かせることが、往々にしてあったりするだろう。
 そうやって、付き合うようになると、どうしても、最初は、
「優柔不断で決めることも決められない」
 というレッテルと相手に貼られてしまう。
 しかし、それでも、付き合っている時の女性は、
「ちゃんと相手を立ててくれる」
 ということなので、男は、それ以上何も望もうという感じにはならないのだ。
 そう思うと、本当は、女性に道を掴まれているということが分からずに、
「うまくいっているのは、自分のおかげだ」
 ということで、その先を有頂天になって見つめるということになるのであった。
 しかし、有頂天になっているというのは、えてして、あまりいいことではない。
 特に男性が有頂天になると、下手をすれば、
「女性に洗脳されている」
 と言っても過言ではなかったりする。
 それを思うと、
「ちゃんと男を立ててくれているはずの女性が、少しでも、そうでもなくなってくると、優位性は崩れている」
 と言ってもいいだろう。
 それを思うと、洗脳されている状態を、ひょっとすると、お互いは、分かっていて、スルーしているのかも知れない。
 というのも、
「このまま洗脳されている」
 ということを感じることが、問題ではないということであれば、それでいいのだが、もし、間違って、簡単な話で済まされないことであれば、洗脳状態をあらわにして、
「あなたは、私のいうことを聴きなさい」
 というようにしないと、
「これ以上、最悪なことになったら、どうしようもない」
 というのだ。
 いうことを聴かせようとするには、相当、相手に
「潜在的なショック」
 いわゆる、
「脅迫観念」
 というものを植え付ける必要がある。
 それには、一度、相手を絶対に肯定しないという、
「全否定」
 というやり方が必要になってきたりする。
 しかし、洗脳したり、脅迫観念を与えるには、相手に対して、
「自分を否定されている」
 ということの、恐ろしさや、どうしようもないという考え方を植え付ける必要がある。
 それが、
「相手への全否定」
 であるのだ。
 そんな状態において、
「会社の仕事だけではなく、私生活まで全否定されてしまうと、どうすることもできなくなるだろう」
 それを考えると、
「俺への脅迫観念を抱かせた、ゆかりという女は、俺にとっては、これ以上恐ろしい女はいない」
 ということになるだろう。
 それが、別れる時の、その理由を聴けるわけもないと思えるその瞬間に繋がっていくのであった。
 それを考えると、
「俺たちがなぜ別れなければいけなかったのか?」
 ということが分からない。
 ひょっとすると、悪かったのは、板倉の方で、彼女は、わざとそれを言わないでいてくれただけなのかも知れない。
 それくらいの気は遣える女性だったので、別れることになったとしても、そうなると、彼女の方に悪きはまったくなかったことだろう。
 そうなると、相手に対しての、
「好き嫌い」
 というよりも、自分のプライド、あるいは、性格的なことが影響していたのではないかと思うと、板倉の方も、大いに反省しなければいけないところも多いだろう。
 しかし、結果としては、自然消滅のような形になってしまった。
 何も言えるわけはないが、今のところ、自分でもいえるのは、
「優柔不断なところが災いしたのだろうか?」
 ということであった。
 彼女と別れてからも、何度か付き合った女性がいたが、自然消滅というのは、何度かあったようだ。
 そのたびに、理由が分からないということが結構あったが、その理由が分からず、結果、わけがわからず別れることになったというのもあった。
 それを思うと、
「ゆかりとの別れは、しょうがなかったということで本当にいいのだろうか?」
 と思ったが、確かめるなど、できるわけもなく、もちろん、自分のプライドも許さなかった。
 そんなゆかりの訃報を聞いたのは、別れてから、二年が経った時だった。
 その知らせを持ってきたのが、彼女に対してのライバルとなった。元親友だった。
 親友はすでに、別の女性と結婚していたのだが、どうやら、ゆかりとは、連絡を取り合っていたようだ。
 もちろん、奥さんもゆかりのことを知っていて、夫婦ぐるみでの付き合いだったということだった。
 二人が、まったく関係のない仲であれば、板倉も、親友と仲がいいままだったかも知れないが、さすがに、別れた彼女に関してライバルだった相手で、しかも、別れてからも友達関係でいる親友と、仲を続けていくことはできなかった。
 しかも、親友はすでに、結婚している。結婚自体が悪いというわけではないが、既婚者とは、親友でなくとも、なかなか付き合うのが難しいと、板倉は感じていたのだった。
 ゆかりの死因は、
「交通事故」
 だったという。
 状況の詳しい話は分からないが、彼女が悪かったというわけではなく、完全に、
「車が飛び出してきた事故だった」
 ということであった。
 即死だったようで、それを聴いた時、
「苦しまずにいったのは、よかったんだな:
 と、悲しむよりも先に、そんなことを考えてしまった自分に、軽い自己嫌悪を感じてしまっていたのだ。
 もう一つ腹が立ったのは、
「彼女が死んだ」
 という話を聴いたのは、何と、葬儀が終わってからのことだった。
 親友に、
「どうして、もっと早く教えてくれなかったのか?」
 と聞くと、
「お前がまだ彼女のことをショックに思っていたら申し訳ないからな」
 と言っていたが、果たしてそうなのか。
 そのことをこれ以上詮索するつもりはなかった。
 確かに、少しは、まだ尾を引いているのは無理もないことだと思うが、その気持ちをまわりが勝手に想像し、最終的に教えてくれなかったというのは、自分でも、少し苛立っているのだった。
 そして、実際に、彼女の家に、焼香に行ったのは、葬儀の三日後になった。
 慌ただしかったという雰囲気はすでに消えていて、仏壇に、お供え物と、彼女の遺影が飾られているのを見ると、悲しいというよりも、
「これで、完全に、この世で出会うことはできなくなったしまったんだな」
 という思いがよぎるのだった。
 板倉は、仏壇で手を合わせ、楽しかった思い出を思い出そうと試みた。
 しかし、思い出すことができなかった。
「なぜなんだ? 頭の中ではまだまだくすぶった思いがあって、思い出そうおいう意思がなくとも、頭の中に自然とよみがえってきたものが、いざ思い出そうとすると、それができないなんて」
 と感じるのだった。
「あなたとは、もう終わったの」
 と、遺影が言っているように見えた。
 遺影に映っている彼女は、決して笑っていない。いつもの、キリッとした表情だ。
「ひょっとすると、本当のゆかりの笑顔を知っているのは、この俺だけだったのではないか?」
 という思いがよぎった。
「俺だったら、遺影にこの写真は使わないな」
 と思った。
 付き合っている時、何度も撮った写メの中のゆかりの表情は、本当に笑いかけていた。
作品名:ゆずは 作家名:森本晃次