小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ゆずは

INDEX|3ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

「三すくみがすでに壊れている」
 と悟った。
 本当は、寂しかったのだが、
「どうせ崩れてしまっているのであれば、告白もしやすい」
 と感じたのだ。
 少なくとも、
「この三すくみが崩れた要因の中に、自分がいることはない」
 と、板倉は考えていて、
「それなら、告白もやむなし」
 と思うようになったのだった。
 ゆかりを呼び出して、告白をしようとすると、覚悟を決めるまでは、そうでもなく、
「俺は、意外と覚悟を決める時って、バサッと一刀両断いできるくらい、肝が据わっているのかも?」
 と思ったが、実際に面と向かうと、あったはずの覚悟がどこに行ってしまったのか、
「後戻りできないのか?」
 という当たり前のことを、後悔するくらいまでに、焦りがあったのだった。
 それでも、
「俺と付き合ってほしいんだけど」
 と、再度その場で決めた覚悟で、うまく告白を決めたのだった。
 それを見て、最初から板倉を好きだったゆかりの方も、
「ありがとう、よろしくお願いします」
 と返してくれた。
 ゆかりの方も、きっと自分の気持ちを押し殺すのに大変だったかも知れない。
 ただ、ゆかりの方は、
「願ったり叶ったり」
 ということで、
「その思いは、夢のようだった」
 に違いないだろう。
 ゆかりとしては、相思相愛だったことに、感激したことだろう。有頂天になっていたに違いない。
 そんな二人が付き合い始めると、どうしようもなくなるのが、親友だった。
 彼は、二人の幸せそうな様子を、黙って見ていられるほどの、
「聖人君子」
 ではない。
 自分でも、
「俺は、そんないいやつじゃない」
 ということを、板倉によく言っていたが、
「俺はそんなにお人よしじゃないからな?」
 と言い始めたのは、どうやら、
「親友が、自分がゆかりを好きだという気持ちに気付き始めた頃だった」
 ということのようで、すかさず、親友は、
「板倉をけん制した」
 と言えるのではないだろうか?
 板倉はそんなことを知らずに、
「何言ってるんだよ。お前がいいやつなのは分かっているさ」
 と、さぞ当たり前のことのように言ってのけたが、それが逆に親友を追い詰めているということに気付いていなかったのだ。
 追い詰めているというよりも、
「孤独を煽っている」
 と言った方がいいかも知れない。
 特に、相手には板倉に、異常なまでのライバル心が燃えがっていることを分からなかったというのも、
「どれだけ天然なんだ」
 と言えるほどだったのだ。
 そもそも、
「何をもって、天然というのか?」
 ということが、あまりよく分かっていなかったので、そのあたりが問題だったのではないだろうか?
「天然というと、どういうことなのか?」
 と思う。
 下手をすると、天然に見えることが、
「人を傷つける」
 ということにつながるのではないかと考える。
 自分が、誰かを好きになって初めて感じる、
「嫉妬」
 であったり、そのことに対しての自己嫌悪。
 さらに、まわりに対しての気の遣い方から、
「自分がジレンマに陥っているのではないか?」
 という感情。
 それらが渦巻いている状態が、
「人を好きになる」
 という感情に付随しているものではないだろうか?
 というのも、
「人を好きになるということがどういうことなのか?」
 というのを、知らない人がいたとしようか?
「人生のうちで、恋愛感情を抱くことというと、無限の可能性と同じくらいにある。しかし、初めて恋愛感情を抱くというのは、数としては、ゼロか一しかないのだ」
 ということである、
「数がゼロの場合は、生涯で一度も恋愛経験を持つことがない」
 ということを示していて、
「数が一の場合は、生涯で一度以上、上限は無数にある」
 と言ってもいいだろう。
 つまり、恋愛感情と同じように、
「すべての初」
 というのは、
「オールオアナッシング」
 ということになるのであった。
 つまりは、親友は、まだ今までに彼女がいたことがないと言っていたので、その言葉を信じるのであれば、彼の初めての恋愛は、
「ゼロ」
 ということになる。
 しかし、板倉の場合は、今までに、あったかどうかは分からないが、今回のゆかりのおかげで、今までゼロだったものが、一に昇格するということで、めでたいわけであったのだ。
 もっとも、板倉が言わないので、初の恋愛が、元々ゼロだったのかというのは、分からないことであった。
 板倉の告白で、ゆかりも、二つ返事で、当然のごとくの、
「両想いカップル」
 の誕生だったのだ。
 だから、ゆかりも、元々は分からないが、一になったことだけは間違いなかったのだ。
 告白したのは、板倉だったが、主導権はいつも、ゆかりが握っていた。
 デートする場所も、デートの時の行動も、すべてがゆかり主導だったのである。
 板倉は、それでもよかった。逆に、それくらいの方が気が楽だと思っていた。
 どこかものぐさなところのある板倉は、
「相手が導いてくれるのであれば、それに越したことはない」
 と言えるのだった。
 男としては、若干優柔不断なところがある板裏は、正直、他の女性からは、あまり好かれている様子はなかった。
 理由は、一目瞭然で、まさしくその優柔不断なところだったのだ。
 好きになった女性は今までにもいただろうが、
「告白なんてできない」
 と思った時、
「このまま自分の意識から、好きになったという事実を消し去りたい」
 という感情があるのだった。
 つまりは、好きになったはずなのに、感情を意識的に消し去ることで、好きになったという事実も消えてしまうのだ。
 それを思うと、
「好きになった」
 ということが重要なのか、告白し、それが成功して付き合い始めるのが重要なのだろうか?
 ということを考えると、
「好きになった」
 という事実の方が重要だと思うのだ。
「ゆかりが主導権を握って、優柔不断な板倉をリードしている」
 というのが、二人の間の感覚であり、その関係が、
「うまくいっている」
 と言ってもいい感覚だったのだ。
「ゆかりという女が、あれほど生き急いでいるかのように見えたのも、今となっては、分からないでもなかった」
 と言えるだろう。
 世の中には、
「女性の方が強い」
 という関係の方がうまくいくと言われていることが多いというのは、
「暗黙の了解」
 のようなものなのかも知れない。
 と思うのだった。
 ゆかりという女性を、今の親友から見ると、
「ゆかりって、本当にあのままの性格だったんだよな、猪突猛進というか、だから、危なっかしいという思いもあるんだけど、ゆかりだったら大丈夫という気持ちも大きかったりするんだ」
 というに決まっている。
 それに関しては、板倉も同じで、板倉自身も、自分の優柔不断さには自覚があったのだ、
 しかしその自覚をしっかり感じていたのは、
「ゆかりに告白してのことだった」
 と言えるだろう。
 ゆかりに告白する時、
「実際に緊張はするだろう」
 と思っていたが、ここまで緊張するとは思っていなかったというほどに、思っていなかったものが、実際には、本当にここまで緊張するとは思わなかった。
作品名:ゆずは 作家名:森本晃次