ゆずは
という思いを抱いてしまいそうで、おかしな気分になってくるのだった。
だが、このような思いが、
「もう二度と会えない」
という事実が、いかに夢に対しての影響を与えているのかということは分からない。
遭えないという思いが、
「さらなる彼女への想いに至るというのか」
あるいは、
「会えないことで、必要以上な感情を持つ必要などなく、辛い思いが、心の中に漂っているということになるのだろうか?」
ということであった。
ゆかりのことを考えていると、いつも、
「まるで寝落ち状態だ」
と思うようになる。
ゆかりのことを考えていた時間が長かったのか、短かったのか、それが自分でもよく分かっていないのだった。
そんな中において、先ほどの鼻の通りのよさと、くしゃみが出る感覚で、不意に感じてきた匂いがあった。
「これがゆかりの匂い」
と、そう思うと、
「なるほど、だからゆかりのことを思い出したんだ」
と、いまさらながらに自分が
「匂いフェチ」
であるということを思い出したのだった。
大団円
そんな匂いフェチだと最近思うようになった、板倉だったが、
「自分が匂いフェチだ」
ということに気付いたのが、
「夢の中だった」
ということと、
「匂いというものが、嫌だとは思わなくなったのが、次第に時間とともに」
ということに気付き始めたというのも、何か皮肉な感じがするのだった。
ゆかりの匂いが次第に薄れていくのを感じると、今度、思い出したのが、
「つかさの匂い」
だった。
ゆかりが、金木犀のような甘い香りだったのと違い、つかさの香りは、
「柑橘系の香り」
だった。
部屋の芳香剤にも、柑橘系を使っていたので、さほど、意識はなかったが、つかさのしていた香水の香りは、違和感がなく、スッと入ってこれるものを感じた。
匂いの心地よさを、さりげなく感じられるようになると、
「これほど、自然な関係もないな」
と思うようになった。
何といっても、
「癒しの時間を、買っている」
というと、違和感があるように感じるかも知れないが、実際問題として、
「それ以上でもそれ以下でもない」
と言ってもいいだろう。
つかさの柑橘系の香りを嗅いでいると、
「つかさの身体がいとおしい」
という瞬間を思い出して、たまに、身体が反応することもあった、
思い出すことは、しょっちゅうなのだが、身体が反応するというのは、そのうちの少しだったのだ。
別に、あの時の、
「飽きた」
というのが現認というわけではない。
どちらかというと、
「つかさとは、普通の付き合いをしてみたい気がするな」
という感覚だったのだ。
「もし、つかさが彼女だったら、どんな交際になるだろう?」
と思うと、
「ゆかりとのようなことはないような気がする」
と思うのだった。
つかさと一緒にいた時を思い出した。
一緒にいる時は、あの部屋を。
「狭い」
と感じたことはなかった。
他の店を知っているわけではなかったが、
「ちょうどいい広さ」
だと思っていたが、少し足が遠のいてしまうと、
「ああ、だんだん狭くなってくるような気がするな」
と思うと、バーでいつも一緒になる女性を気にしていると、
「やはり、つかさに似ている気がするな」
と感じるのだった。
化粧が濃いというわけではないが、いつものつかさのように、
「ナチュラルメイク」
というわけでもない。
店内が暗く。その明かりで、見える、
「光と影」
それが、印象深く感じられるのだった。
そして、彼女を見ていて、つかさに感じていたのも、柑橘系の香りだと思うのだった。
想像が許されるのだったら、
「そういえば、つかさには妹がいると言っていたが、この女性が、つかさの妹だと思うというのは、あまりにも突飛なことだろうか?」
と思ったのだ。
さらにもっというと、ゆかりにも、どこかつかさに似たところがあった気がする。
だから、隣の女性を見て想像したのが、
「ゆかりとつかさ」
だというのも分かる気がする。
もっとも、板倉には、思い出す女性というと、この二人しか思い浮かばないのだから、それも当たり前のことだと言ってもいいだろう。
それを思うと、
「どっちが、より近いのだろう?」
と思うのだが、見れば見るほど、
「甲乙つけがたい:
と感じるのだ。
二度と会うことができず、遠い過去にありかかっている、ゆかりであるが、この店にきて、彼女の顔を見ていると、
「嫌でも思い出してくる気がするのだ」
と感じていた。
もちろん、つかさに対してのイメージの方が圧倒的に高い。いつでも会おうと思えば会えるわけだし、身体も重ねた仲だというのは大きいだろう。
「身体を重ねたといっても、それは商売上のこと」
と言われればそれまでだが、板倉には、いや、つかさの方でも、
「それだけの関係ではなかった」
と感じるだろうことを、想像していた。
彼女が、
「何か、つかさの影響を、大なり小なり受けている」
ということであれば、板倉の中で、つかさへの思いが大きくなってくることを感じたのだ。
「ゆかりの妹は、姉に対す手コンプレックスを持っている」
という話を聴いたことがある。
しかし、今はもう、その姉がこの世の人でないということで、コンプレックスは解消さ荒れたと思っていたが。実はそうではなかったという。
あくまでも、コンプレックスというものは、自分で解消しなければいけない。
「他力本願」
であったとすれば、自分でも、
「どこまでが、コンプレックスなのか分からない」
もっといえば、
「コンプレックスの正体を分かろう」
としていることを放棄する。
という感覚だと言ってもいいかも知れない。
妹は、
「姉がいなくなったことで、自分が何を目指していいのか、その目標を見失ったのだ」
ということだという。
そして、家族に聞けば、
「家出をして、今どこにいるのか分からない」
ということでもあった。
昔、妹と会ったことはあったが、まだ、高校生の女の子で、眼鏡を掛けていて、頬も赤かったことから、
「田舎の女子高生」
というものを地で行っている。
という感じだったのだ。
あれは、いつだっただろうか? つかさとの何度目かの時であったが、
「実は、私には姉がいて、亡くなっているのよ」
ということであった。
「どこか、境遇が似ている」
ということで、余計に、つかさのことを意識したのかも知れない。
しかし、つかさは、
「絶対に、自分の正体を明かすことはしないが、何か分かってもらいたいことでもあるかのようだ」
と思うようになっていた。
それがどういうことなのか?
そのことを考えていると、最近のバーで見かけた女性の顔を見ると、
「どこかで見たような」
と感じさせられた。
「板倉さん?」
と名前を呼ぶ、彼女に、ビックリして振り向くと、その顔は、つかさではないか?
「つ……」
と言いかけると、それを遮るように、
「私は、新宮ゆずはと言います」
というではないか?
その時に、つかさに感じた柑橘系の匂いを感じた。
「いや、待てよ?」