ゆずは
と、次の瞬間には、金木犀の懐かしい香り」
「ゆかり」
と、思うと、板倉の頭は混乱してきた。
いまにも、
「カオス」
という雰囲気で、
「ゆずは」
という女性を見ていると、頭がパノラマのようになってくる。二度と会うことのできない、ゆかりのイメージ。
そして、彼女がつかさだと思うと、
「つかさという女性とも、もう二度と会えないような木がしてきた」
と感じた。
だが、今、目の前にいるのは、ゆずはという女性である。
彼女には、
「つかさであり、ゆかりでもある」
という感覚が現れているように思うのだが、それは、
「ゆかりという、太陽のような女性が死んだことで、ゆずはの中で覚醒が起こり、影としての、つかさができあがり、つかさは、影の力で、板倉を呼び寄せたのではないだろうか?」
ということを考えるのだった。
もちろん、ゆずはは、ゆかりでも、つかさでもない。ただ、二人をそれぞれに、
「愛していた」
と思ったのだ。
だが、
「二人は死んだのだ」
と思うと、あらためて、ゆずはの気持ちが分かるような気がした。
板倉は、ゆずはに対して、
「これは、どうもご丁寧に。初めまして、板倉と申します」
というのであった……。
( 完 )
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