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ゆずは

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「テクニックには、力などはいらない。力の入れ具合とタイミングが分かっていればいいんだ」
 ということであった。
 その日が、風俗が初めてだということを正直にいうと、つかさは、素直に喜んでくれた。
「ありがとう。私を選んでくれて嬉しいです」
 と、本当に喜んでいたのだ。
「私ね、姐御肌に見えるらしくて、そのおかげで、童貞さんが結構来てくれるんですよ。嬉しいんだけど、童貞キラーというように言われるのが、正直恥ずかしくて」
 といって、はにかんでいたのだ。
 心底恥ずかしそうにしているその笑顔には、
「私、本当は、このお仕事大好きなの。ただ、お客さんによっては、私の宣材写真を見て、何か事情があって、この仕事をしているように見られることがあって、本当はそれが嫌なの。別に宣材写真では、真面目な顔をしているので、面白くなさそうに思っているんでしょうけど、そんなことはないのよね」
 というのだった。
「つかささんは、どうしてこのお仕事が好きなんですか?」
 と聞くと、
「昔から、人を癒すことができればいいと思っていて、もっともっとこの業界を目立たせたいと思っているんだけど、一人じゃどうしようもないので、とにかく真面目にすることでお金をためて、自分のお店を持って、好きなような経営ができれば、それに越したことはないと思っているのよ」
 というのだった。
「私が、お店を持った時。このお仕事が好きな女の子と、癒しを本当に求めてこられるお客さんに楽しんでほしいと思っているの」
 というではないか。
 板倉は、つかさの常連客となった。
「毎月はさすがにきついが、2カ月に一度くらいは、いいのでは?」
 と思うようになった。
 板倉は、自家用車を持っていない。都心部では、車を必要としないし、下手に都心に車を乗り入れると、渋滞に巻き込まれたりするからだが、一番の問題は、
「駐車場があい」
 ということであった。
 車で通気しても、会社があるビルには駐車場がない。
 となると、会社の周りの月極め駐車場に止めるしかないのだが、そうなると、従者城代がバカにならない。
 それを思うと、その分が浮くわけだし、さらには、維持費などにどうしても、お金が掛かったりする。
 そういう意味で、
「車に興味がない」
 ということは幸いだと言ってもいいだろう、
 嫌でも仕事をしていれば、会社の車での移動は避けられない。会社でも嫌というほど車に乗るのに、プライベートでも乗るのは、いい加減嫌気が差してくるのだった。
 それでも、
「車が好きだ」
 という人がいるが、
「そういう人はそれで構わない」
 ということであった。
 会社から、風俗街までは、結構近かったりする。歩いても行ける距離で、通勤途中と言ってもよかった。
 会社が終わってから、軽く食事を済ませて、立ち寄るというのが、パターンになっている。
 もう二回目以降は、予約をして行っている。
 ネットで予約をするのであれば、彼女の予定が出る頃に合わせて、自分の予定を確認すればいいわけだ。
 今は、ちょうど、そんなに残業もないので、予定は普通に立てられる。そういう意味では、ありがたかった。
 つかさは、店の中では、いうほど、予約で埋まるというようなことはなかった。
 さすがに、終わってみれば、
「空き時間はなかった」
 ということはあるだろうが、その日の朝には、半分近くの時間が余裕がある状態だったりする。
 当日でないと、予定が分からない人もいるだろうから、
「基本的には、当日予約」
 という人もいる。
 板倉も、今は暇な時期だから、数日前から予約を入れることができるが、当日予約しかできなければ、
「予約も簡単に取れないかも知れないな」
 と思うのだった。
 それでも、埋まらなかったら、お客さんの中には、
「フリーで」
 という客がいれば、その客をあてがわれる。
 彼女の方も、別に、
「ナンバーワンでないといけない」
 というわけでもなく、
「私は、自分のお店を将来持ちたいとは思っているけど、だからと言って、ナンバーワンにこだわることはないの。計算しているお金が稼げれば、ランキング上位である必要はないし、それよりも、一人一人の常連のお客さんを大切にしたいと思っているというところかしら?」
 というのだった。
「それは立派な考えだと思うよ。ナンバーワンよりも、オンリーワンでいいんじゃないか?」
 と、以前どこかの看板で見た宣伝文句をいうと、
「そう、その通りなのよ」
 と、感激していたのだった。
 そんな板倉だったが、しばらくして知り合った女性が、元風俗嬢であることを、しばらくの間、板倉は気づかなかった。

                 時系列の曖昧な感覚

 つかさに一時期、のめり込んでいた板倉だったが、半年もすれば、店にもいかなくなった。
 正直、給料とお店の値段を考えれば、いくらボーナスがあるとはいえ、まったく貯金ができない状況を、さすがに憂いてくるのであった。
 さらに、言い方は悪いが、
「つかさに慣れてしまった」
 のだ。
 つかさという女性のテクニックは、男性を引き付けるものが十分にあるのだが、ある程度までくると、
「その身体に飽きてくる」
 と言ってもいいだろう。
 男性の身体と女性の身体の圧倒的な違いがあり、その違いというのは、
「賢者モード」
 と呼ばれるものが、男性にはあるということであった。
 それは、男性特有のもので、
「性行為を行った時、男性が絶頂に達すると、その後に襲ってくる倦怠感のようなものから、急に我に返ってしまい、何かの罪悪感のようなものを感じる瞬間があることである」
 もちろん、男性にも、
「個人差」
 というものがあり、賢者モードがすぐに切れる人もいれば、数十分も続く人もいる。
 昔の映画などで、ラブホで愛し合った男女が、お互いに達した後は、同じように、脱力感を感じるのだが、女性はまたすぐに求めることができる。
 しかし、男性はそうはいかない。倦怠感が襲ってくると、身体中の血液が逆流しているかのような虚脱感であったり、さらに、身体の奥から、何かがこみあげてくるのだが、そこまでなのだ。
 性欲が旺盛な時は、身体の一点に、興奮が集中することで、興奮をさらに高めることができるのだが、
「賢者モード」
 の時は、その
「一点への集中ができないのだ」
 ということだった。
 つまり、
「賢者モードでは、生殖器が役に立たない」
 といってもいい。
 しかも、身体中が敏感になっているので、女性が、男性を慕って、身体のしがみつこうとしても、男は感じすぎるため、しがみつかれると、却って、気持ち悪さがこみあげてくるので、なるべく、離すようにしている人もいるだろう。
 何しろ、シーツが肌に当たるのも、気持ち悪いくらいだ。
 だから、今ではできないが、以前であれば、枕もとの灰皿を近づけて、タバコを吸うような仕草が、よくドラマなどで描かれたものだった。
 そんな賢者モードを、どのようにすればいいのか、考えてみた。
 だが、時間が経たないと、どうしても、身体に力が入らないのだから、どうしようもない。
 中には、賢者モードなどなく、
「何回でもできる」
作品名:ゆずは 作家名:森本晃次