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自己バーナム

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 別に、
「早く孫の顔が見たい」
 などというプレッシャーもなかった。
「こういうのは、授かりものだから」
 といって、擁護してくれるくらいで、至れり尽くせりの、それぞれの実家だったといってもいいだろう。
 日下部の方は、それだけに、離婚の原因が分からない。
 奥さんの実家に赴いて、まるで、
「まな板の鯉」
 のごとく、その場で凍り付いてしまったかのようで、何もできないでいると、
「私は、娘がどうして、実家に帰ってきたのかという理由は、ハッキリとは聞いていないし、まったくの想像でしかないので、何も言えないが、真一君には、離婚の原因について、自分なりに考えられることはあるのかね?」
 と聞かれたので、
「いいえ、それがまったくないんですよ」
 といって、少し前のめりに答えた。
 それは、
「理由を知らない」
 という両親も自分と同じように知りたいと思っているからだと感じたのだ。
 しかし、実際には正反対で、
「私には分からなくても当然だが、君に分からないでどうするんだ?」
 ということが言いたかったのかも知れない。
 つまりは、
「同じ分からないということであっても、君と私とでは立場が違うんだ」
 と言いたいのだろう。
 それも、
「結婚したいといってきた時、私のこれまで娘を育ててきた立場を君に継承したわけだから、ここで分からないというのは、無責任だ」
 と言いたいのだろうと思うと、日下部は、顔から火が出るほどに今の自分が恥ずかしいと思うのだった。
 それが、義父の目を瞑って何も言わなかったのは、
「口を開けば、怒り心頭になるのではないか?」
 と感じたからではないだろうか?
 もし、口を開いて、罵詈雑言を浴びせていたとすれば、その後いくら冷静になったとしても、お互いに決まづくなり、何も言えなくなってしまうことだろう。
 それを考えると、
「もうどうすることもできないところまで来ているのではないか?」
 と感じるようになり、
「最初は、あわやくば、両親に自分の味方になってもらい、説得して帰らせようと思っていたのだが、それが正反対である」
 ということが分かったのは、父親の次のセリフを聴いたからである。
「今まで、父親を睨んだことがなかった娘が、今回帰ってきた時、こちらが、咎めたわけでもないのに、睨みを聞かせてきたのを見た時、これはただ事ではないと感じたことからだった」
 という。
「それだけ、彼女は思い詰めていた」
 ということだろうか?
「私たちは、それを見た時、今ちょうど、自分の中の気持ちを整理したんじゃないかと思ったんだよ。人というのは、何を言われても、腹を立てる時期がある。それは、すべてにおいて百パーセントの時じゃないかと思うんだ。少なくとも、何かあった時、その絞殺範囲が決まっているとすれば、その境界線ギリギリまでいくことはない。つまり境界線が見えないにも関わらず境界線より、かなり手前だと感じるのは、それだけ、余裕をいうものを見たいと思っているからではないだろうか?」
 と父親は言った。
 それを聴いた日下部は、
「なるほど、必ず、元に戻るだけの余力を残した状態で、生活しているということになるのではないか? と考えるんですよ」
 というのだった。
「そうなんだ」
 だが、それは女性側の方で、男性側は、どちらかというと、
「ゼロか百か?」
 ということを考えているのではないか?
 そう考えると、
「旦那である、自分にも、その理由が分からない」
 ということになると、
「娘が頑固だ」
 ということなのか、
「夫である彼が、分からなければいけないことを分かってあげられないということが問題だということなのか?」
 ということが、問題となるのだった。
「確かに結婚してから、すぐに別れる」
 ということでよく言われる、
「成田離婚」
 というものよりはマシだと思う。
 しかし、だからといって、
「娘が実家にいきなり戻ってきて、父親を睨みつけるような状況は、いいわけではないだろう」
 というのが、父親の考えだった。
 明らかに、あの目は、
「放っておいて」
 という思いと、
「私の気持ちは誰にも分かるはずがない」
 という苛立ちの想いとが重なったものではないか?
 という義父は感じているようだ。
 一見。
「相反するもの」
 というような気持ちを表した様子に思えるが、その実は、その根底で繋がっているのではないだろうか?
 しかも、相手は自分の父親だ。
 ただでさえ、
「理解してほしい」
 といつも一番に感じていた父親なので、余計に、睨みというものが、その両極性をいかに映し出すかということをも思わせるのであった。
「複雑な表情ではなく、睨みつけるという、強烈であり、インパクトのある表情ではあるが、その根底を理解してくれるのは、肉親である両親しかいない」
 と考えたのだ。
 少なくとも今回のことで、
「やはり、旦那と言えども、他人なんだ」
 ということである。
「結婚したから、同居しているから」
 といっても、気付かないところは気づかない。
 それは、
「血のつながりのない二人が結婚したからといって、血が混じり合うわけではない。もし、まじりあうのだとすれば、それは子供が生まれた時であり、その性格は、
「子供に受け継がれる」
 ということになるだろう。
「DNA」
 などという、
「身体の設計図」
 といっても過言ではない、
「遺伝子」
 というものが、受け継がれるのは、子供でしかないのだ。
 そういう意味で、結婚してから、子供が生まれる。子育てともなると、どうしても、
「母親の仕事」
 ということになる。
 今でこそ、男性も育児休暇ももらえたり、
「イクメン」
 などという、
「育児をする男子」
 という意味で、男が子育てに参画すうrというのが、もはや当たり前になってきた時代において、
「世の中の男性としては、イクメンなどと言われ、ちやほやされたり、肝心な時に助けてくれないくせに、こんな時だけ、会社に補助をする政府」
 というものを、毛嫌いしている男子も少なくないだろう。
 そんなことをするから、女性は図に乗って、
「男性が育児もできない」
 と、言い出す女性も多いことだろう。
 奥さんが実家に帰ってからというもの、離婚が成立するまでに、約1年が掛かった。日下部が、
「ゴネた」
 というのも当然のことであった。
 何といっても、
「離婚の理由はハッキリとしない」
 というのが、その一番の理由だったからで、
「理由も分からないのに、どうして離婚しなければいけないのか?」
 ということであった。
 実際に、その頃には、
「離婚しない理由が何なのか?」
 と考えるようになっていた。
「最初の頃は、どうして離婚しなければいけないのか?」
 ということを探していたはずなのに、なぜか、いつの間にか、
「離婚をしない理由」
 という方に、その理由への責任転嫁というものを考えるようになっていたのだ。
「何かの理由」
 というと、
「その何かという方と、反対の方に近づいたから、そう感じるのだ」
 といってもいいだろう。
「なぜ、離婚しないといけないのか?」
 というのは、
「離婚をしたくない」
作品名:自己バーナム 作家名:森本晃次