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記憶喪失の悲劇

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 だから、もう、風俗のことは頭から消えかかっていた。
「あの世界は、夢だったんだ」
 という感覚になっていたのと、自分の中で抱いている、
「いちか」
 という女性のイメージに、
「拾ってきたオンナ」
 のイメージは、あまりにもかけ離れていた。
 それなのに、一番最初に、感じた、
「似ている」
 という感覚はどこから来たのだろう?
 そんなイメージを感じながら、目の前にいる女性を見ていると、一度、
「気のせいか」
 と感じてしまうと、最初に、
「似ている」
 と感じたあの感覚が薄れてくるのを感じるのだった。
 しかも、彼女は記憶を失っていた。その度合いがどれほどのものなのか分からなかったが、顔を見ている限り、その性格や、普段の彼女を想像するのは困難だった。
 だから、あれだけのオーラを発していた、
「いちか」
 という女が、まさか彼女であるということに、よく最初に感じたと思うのだ。
 しかも、あの時感じたのであれば、そこから、どんどん、いちかとしてのイメージがかけ離れていくというのもおかしな話で、それだけ、似ているという感覚があったのを、
「ウソだ」
 と感じるということなのだろう。
 三十郎は、いちかをどうするか、考えあぐねていた。
 階を見る限りでは、視線が普通に焦点が定まっていないことから、明らかに、
「記憶喪失である」
 ということは分かっている。
 そういう意味では、警察に届けるか、病院に連れていくなどの方法があるだろう。
 しかし、どちらも三十郎にはできなかった。
 だが、一つ気になるのは、
「彼女が、昨夜、なぜあんなところにいたのか?」
 ということである。
 外傷があるわけでもなく、ただ、あの場で倒れていたのだ。考えられることとして、
「どこからか、車で連れてこられて、そこで、車から、放置されたのではないか?」
 ということであった。
「放置されたとすれば、何者が何の目的で彼女を放置したか? 下手をすれば、記憶喪失というのも、その連中にされたことなのか?」
 ということであった。
 そんないちかという、
「風俗の女性」
 ということをハッキリと思い出すよりも、彼女が、
「女性記者」
 として、諜報活動的なことをしていたという方が、先に分かることになるのだが、それはひょんなことからだったのだ。

                 女性記者の悲哀

「私は、どうしてここにいるのだろう?」
 つかさは、目が覚めると、知らない部屋にいて、そこに一人の男が眠っていることに気付いた。
 つかさは、その時、自分が、
「いちかとして、風俗嬢もしていた」
 ということすら覚えていない。
 だから、目の前にいる男性が、自分の客だったということも分からなかった。
 頭の中に、あの風俗のお部屋のイメージはまったくなく、別に自分が、生娘のような、恥じらいだらけの女性だという感覚はなかったが、部屋のことも、記憶からなかった。
 自分が風俗嬢だという意識がなくても、記憶の中に、意識のない部屋の記憶などが残っていて、
「ここはどこだったのだろう?」
 という意識があってしかるべきなのに、その意識がまったくなかったのだった。
「私は記憶を失っているんだ」
 というのは、目が覚める前から分かっていたような気がする。
「では、その失っている記憶は、どこに行ってしまったというのか?」
 とも考えてみたが、それよりも、
「記憶がないことを、
「理不尽だ」
 という感覚でいるのは分かっているのだが。それよりも却って、
「意識の中に、ぎこちなさを感じながら、何が理不尽なのか。その正体が分かりかねるところが、おかしな感覚に連れていく」
 というのであった。
「自分が、あの場所で助けられた」
 ということは、ここにいる男性に聴いた。
 そして、警察が病院で迷ったが、とりあえず、部屋に連れてくることにしたと言われた時、一瞬、ゾッとしたものを感じたが、彼が、襲ってこなかったことで、
「この人は信用できる」
 と感じた。
「どうやら私は、決定的に相手を信じないタイプの人間だったようだ」
 と感じたのだ。
 それも当たり前のことで、諜報活動など、その意気でなければ、できないことだからであった。
 だから、この人に対して、この場面で、
「私は記憶喪失だ」
 ということを告げたのだ。
 そういっておけば、少なくとも、この男が襲ってくることはないと思った。
 もちろん、出会ってすぐに、相手の男のことなど、簡単に分かるはずなどないだろうが、つかさの中で感じた思いは、間違っていないように思えるのだ。
 つかさは、失った記憶の中で、なぜか思い出すものがあった。
 それが、
「城めぐり」
 というものであった。
 たぶん、記憶が普通にあった時、きっと、結構好きだったのだろう。
 その中でも、
「お城」
 というイメージが強く、
「どこのお城がよかったのか?」
 ということを考えると、それまで忘れていた記憶を徐々にではあるが、思い出していた。
 その記憶は理路整然としていて、もはや、
「この記憶に間違いない」
 と感じさせるものだったのだ。
 さらに、お城の光景は頭の中に、次第に鮮明になっていくのを感じた。
 しかも、城一つ一つに、豆知識的な情報があり、それを覚えているのだ。
「いや、この場合は、記憶を失わなかった」
 と言った方が正解なのかも知れない。
「日本のお城というと、他の国にはない。日本固有の文化だといっても過言ではない。特に、現存と呼ばれる施設は、奇跡に近い。それも、天守というと、12しか現存は存在しない」
 ということであった。
 江戸時代には、
「元和堰武」
 ということを平和の象徴として、
「一国一城令」
 を出して、
「第一回目の危機」
 ということになった。
 それまで、100年以上に渡っての、群雄割拠の戦国時代。
「下克上」
 というものが蔓延る中、油断していると、いつ足元をすくわれるか分からない。
 それが、配下の者からうける、
「謀反」
 であったり、するものは、何がどうきれいごとを言っても、
「裏切り」
 ということにしかならなかったのだ。
 鎌倉時代までは、戦を始める時、
「やぁやぁ、我こそは」
 といって、一騎打ちが主流だったのは、当時は武士といっても、
「出てきたばかり」
 ということで、
「戦で、卑怯なことは許されない」
 ということから、
「夜討ちは、卑怯だ」
 という、武士が起こってきた当初で、都での
「軍事クーデター」
 のようなものの、大将であったり、参謀球というのは、公家だったのだ。
 武士はそれに従うだけ。
 しかし、頭の中では、
「そんなことをしていては、相手に夜討ちをされて、気が付けば、攻めこまれていた」
 ということで、後になって慌てても、
「時すでに遅し」
 ということになるのだ。
「保元の乱」
 などというのが、代表的なものだったに違いない。
 しかし、
作品名:記憶喪失の悲劇 作家名:森本晃次