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未来への警鐘

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「都合の悪いこと」
 というわけではなく、むしろ、
「自分が憶えておかなければいけないということだ」
 ということになるのだった。
 それを思えば、治子にとって、その時が、確実に、
「自分の人生の数ある中の一つの分岐点であった」
 ということなのだろうと思うのだった。
 だから、この時、医者への不信感が決定的になった。
「自分に都合の悪い診断は、信じなければいいいんだ」
 と思うようになり、その根拠として、
「やぶ医者というものは、一定数いる」
 ということを感じているからだ。
 世間でもいっていることだし、それを治子は、この時に、
「自分は身をもって経験しただけだ」
 と感じたのだった。
 だから、自分が、
「セックス依存症」
 であるということを否定し、忘却の彼方に追いやっていたが、それを、
「拾ってきた男に思い返されることになった」
 というわけである。
 しかも、彼は記憶喪失、
「記憶を封印している」
 という意味では、お互い様ではないか?
 と感じるのだった。
 それが、治子の考えであり、男が今日、ここにいるということが、ただの偶然では片付けられないことではないかと、治子は感じたのだ。

                 大団円

 男は、そのまま治子を蹂躙し、治子を凌辱した。
 とこう書けば、治子が、
「男に犯された」
 ということになるのだろうが、そういうわけでもなかった。
 途中からは治子も、男の腕に抱かれ、自分の欲求を爆発させていたのだ。お互いに、
「貪り合う二匹の野獣」
 そんな様相を呈していたのだ。
「これが私の、セックス依存症なのかしら?」
 と治子は感じた。
 男に貫かれた時、治子は、自分の中の何かが反応したのを感じた。思い出したはずなのに、忘れていたことが何だったのかということを思い出そうとしたのだった。
 私の中で、好きなものを思い出そうとする自分がいた。
「やはり、男なんだろうか?」
 ということであった。
 ただ、今の治子は、過去の恋愛を完全に忘れてしまっていた。
「それが、この男に抱かれたことで、忘れてしまったのか」
 それとも、
「思い出す必要もない、一種の都合の悪いということだからだろうか?」
 ということであったが、果たして、そのどちらだと言えばいいのだろうか?
 というのも、頭の中にはあったのだ。
「男に抱かれるというのが、心地よさだけではない何かがある」
 ということを、治子は分かっているような気がする。
 しかし、それだけではないことを分かっているのが、それがどこから来るのか分からない。
 治子を抱いた男は、さっきまでの、あの猛獣のような、猛々しい感じは、失せてしまい、まるで死んだように眠りについている。
「いわゆる、賢者モードというのかしら?」
 治子は、この状態になるということは最初から分かっていた。
 これが、男と女の構造上の違いであり、それが気持ちの上での違いとなるのだ。
 ということであった。
 賢者モードというのは、
「男というものは、セックスをした時、徐々に、興奮をたかめていき、最後には、身体のある部分に興奮を集中させ、そして、放出する」
 というのが、メカニズムである。
 その時、一度果ててしまうと、回復までにはかなりの時間を要する。一度のセックスで、何度でも絶頂を迎えることができる女性とは大違いなのだ。
 だから、男は一気に果ててしまうと、そこから先は一気に冷めてしまい、セックスに興味を失ってしまう。
 放心状態になる人や、深い眠りに就く人もいる。
 果てた後の、その部分を触っただけで、男はビクッとなってしまうのだが、それは、興奮の余韻が残っているわけではなく、
「敏感になりすぎて、マジで触られると気持ち悪いとしか思えない」
 ということなのだ。
 女性からすれば、いくらでも果てることができるので、果てた後も敏感な部分を触られると、心地いいということもあるのだろうが、男性にはそれはない。
 ただ、女の治子がそんなことを分かっているのかというと、治子にはある特性のようなものがあり、
「男とセックスをして、一緒に果てることができれば、相手の考えていることが、自分のことのように分かる」
 ということだったのだ。
 その思いがあるからか、自分を抱いたこの男が果てた時、何か、この男のことが少しだけ分かった気がした。
 それでも
「少しだけ」
 だったのだ。
 いつもなら、もっとよくわかるはずなのに、おかしいと感じたのは、治子が、
「元の自分に戻ろうとしている」
 ということと、
「まだまだ夢見心地にいる」
 ということの両方を感じているという、
「セックスの後にしか感じることができない感覚」
 ということを分かったうえで、感じているのだった。
 それを考えていると、
「この人、やっぱり何かの犯罪に関係のある人なんだわ」
 と思えた。
 しかし、少なくとも、誰かが絡んでいるわけではなく、人を殺したわけでも、財産を奪うというような、
「許せない犯罪」
 を犯したわけではない。
 ということだけは分かっている気がした。
 それを考えていると、
「私が匿っていて、問題はない」
 と考えるのだった。
 ただ、そう考えれば考えるほど、
「この人は、私に関わったことがある人に思えてならない」
 と考えるのだが、それを思い出そうとすればするほど、霧のベールの向こうで、右往左往している自分がいることに気付くのだった。
「私って、一体何を考えているのかしら?」
 と思わないではいられない。
「それはあくまでも、自分の都合のいいことでしかないのだろうか?」
 と、治子は思っていた。
 そして、治子は自分の隣で寝ている男がいとおしくなり、思わず手をつないでみたのだが、その時、この男が考えていることが垣間見えてきたのだった。
 ここから先は、男の気持ちの中の代弁となるのだが、
「俺は、この治子という女を知っている。この女は俺が昔付き合った女だったのだ。それがいつのことだったのか覚えていない。なぜ覚えていないのか分からないが、治子のことは分かる気がする」
 というところが、この男の考えているところの最初のところであった。
「俺は治子にとって、都合のいい男だった。治子は決して、俺のことを好きになってくれるわけではない」
 と言っている。
「いや、それは途中からのことで、最初は違った。彼女が、好きになった人にしか言わないセリフというのを、この俺に言ってくれたではないか? あの時のことを俺は忘れないのだった。だが、それは本当に最初だけのことだったのだが、そのたった少しだけの間に俺は、やってはいけないことをしてしまったのだ」
 というではないか?
「何をしたというの?」
 と、治子は問うてみた。
「俺は、この女を、本気で好きになってしまったのだ。好きになってしまうと、惚れた者の負けといえばいいのか、ほとんど言いなり状態だった。人に話せば、洗脳されているとか、騙されていると言われるだろう。それが怖くて、俺は、誰にも言えなかった。それが、一番つらかったといってもいいだろう」
 という。
 一呼吸をおいて、彼は話し始める。
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次