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未来への警鐘

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「彼女のほしいものは、自分にできることであれば、何でも与えてきた。自己満足でしかないことが分かっているので、自己嫌悪にも陥る。そんなことをしてまで、女の木を引きたいのか? ということをである」
 治子は、普通なら、このあたりで、相手の気持ちの傲慢さに腹を立てるのだろうが、そんなことはなかった。
「自己嫌悪だけではなく、自分がしたことの代償として何を得たのかというと、何と、嫉妬心だったのだ。一番欲しくないものであり、必要のないもの。そんなものを感じたことで、俺は、自己嫌悪と、嫉妬心という両方から攻められ、ジレンマに陥ってしまったのであった」
 これは、聴いていても辛いことだということが分かってきた。
 そのことを考えているうちに、治子は、
「これは、相手のことだけではなく、自分のことも一緒に考えているのではないだろうか?」
 と考えさせられるのであった。
「俺にとって、この女は、好きになってはいけない女だ」
 と思えば思うほど、嫉妬心が後を絶たない。
「ただ、その嫉妬心が、どこの誰に向けられているのかということが分からなかった。いや、それは分からないのではなく、たくさんありすぎて、その時々で相手が違うということで、漠然とした嫉妬心ということでしか、考えられないようになっているような気がして仕方がなかったのだ」
 と男は考える。
 治子の方も、男の告白を感じながら、
「この人は誰だったのだろう?」
 ということを必死になって考えるのだった。
 治子がそうやって考えてはいるが、それ以上のことは分からない。
「どこかに結界があり、超えることができない結界こそ、何かのパラドックスではないか?」
 と考えるのだった。
 男は、まださらに何かを考えているのだった。
「俺は、今まで、好きになった女がいたかどうか覚えていない。ただ一度、公園で苦しんでいるところを助けてくれた女がいたのだが、その女のことが気になっていたような気がする。あの時も記憶を失っていたようだったのだが、その時、自分を家に連れていってくれた女が、この俺を誘惑してきたのだ」
 というではないか?
 まるで凍り付いたような気がした治子は、ブルブル震えながら、さらに続きを知りたいという衝動に駆られ、恐ろしさ半分、男の手を再度、ぎゅっと握りしめるのであった。
「その女は、妖艶さがハンパではなく、俺は、こんなに隠微な女に出会ったことはない。女の身体も、まるで理想的で、惚れない理由がどこにあるのかというほどのオンナだったのだ」
 と考えている。
 それが治子のことだというのは、誰が見ても明らかで、治子が分からないわけもない。
 そんな中で、
「この人、意識の中で、時系列がバラバラになっているようだわ」
 と感じていた。
 しかし果たして本当にそうなのだろうか?
 治子は、どうしても、時系列がバラバラだとは思わなかった。
 確かに今まで付き合った仲の男性に、この男に匹敵するような男性もいたのを思い出してきた。
「完全に騙すつもりはなかったのだが、自分の生活というものは、絶望的に破綻していたので、この男を利用してやろう」
 と考えたのだ。
 そしてその時、
「どうせ都合の悪い記憶は、封印されるから、それでいいんだ」
 ということを考えたのであった。
 そのためなのか、この男の記憶の中には、治子のことばかりが残っていた。
 ただ、一つ気になっているのは、
「その中のいくつかは、記憶にはあるのだが、意識に戻すことはできない」
 ということであった、
 記憶の奥に封印してしまったものは、記憶にすら戻すことはできない。
 しかし、記憶にさえ戻すことさえできれば、意識にまで戻すこともできるはずなのだ。
 それなのに、この男との、
「騙す騙される」
 というくだりは、記憶として戻すことはできるが、意識として戻すことができないということで、
「実感することができない」
 ということで、
「まるで他人事だ」
 ということであった。
 治子は何となく分かってきた気がした。
「この男は、未来に起こることを、意識していて、私は、それをこの男から感じ取るような運命にあるのだろう」
 ということであった。
 だが、
「この運命は逃れることができない。きっと、私はこの男を将来欺くことになるのだろう」
 ということを実感すると、意識の世界に戻ってきた。
「夢だったのかしら?」
 と治子は感じたが、夢でないことは、目の前に寝ている男と自分が手をつないでいることで明らかだった。
 この男の存在は、将来への警鐘ではあるのだが、どうすることのできない。
「事実へお警鐘だったに違いないのだ。

                 ( 完  )
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作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次