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未来への警鐘

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 いや、それよりも、この自分の変わりようが恐ろしく感じられたのだ。
 まさに、自分が二人存在しているような、そして、どっちが本当の自分なのかということを思い知らされた気がしたのだ。
「私って、こんなに男性を求める女だったなんて」
 と思うと、
「魔性の女」
 どころではなく、どちらかというと、贔屓目に見るからなのか、
「寂しがり屋なのかも知れない」
 と感じるのだった。
 寂しがり屋で男を求めるというのは、少し違うのかも知れないが、その違いが分からないほどに、これまでの治子は、思っていた以上に、純情だったということであろうか?
 それを思うと、
「私が、男を求めているのか、私を求める男がどういう男かということを分かっていて、その相手に合わせることができるという、能力を持っているのだろうか?」
 ということすら考えるようになっていた。
「私にとって、男性というのは、何かの対象であり、それが、まるで、自分を写す鏡であるかのように感じてしまうのだろう?」
 と、思ったよりも、先を見ているような自分を感じるのだった。
 ただ、純情だと思っていたのも、間違っていないし、まわりからの目もその通りだったのだろう。
 ただ、近寄ってくるのは、なぜか、おかしな男ばかりだったようで、友達から、
「あんたは、変な男を吸い寄せるフェロモンのようなものを持っているのかも知れないわね」
 と言われていたのだ。
 その時は、友達もそれ以前から、そんなことを一切言っていなかったのだが、何度か変な男が付きまとっているのを見て、溜まらず、口にしたようだ。
「気を遣って言わなかったけど、もう、ここから先はあなたが自覚をする必要があるということよね」
 といって、助言をしてくれるのだが、実際は、本人も分かっていた。
「確かにおかしな男が寄ってくるのは、前から分かっていたわ」
 というのだった。
 ということを考えていると、本当に変な男がやってくるのを感じると、指摘されたことで余計に気にするようになり、
「余計なことを言われてしまった」
 と口にしてしまうと、それは角が立ち、喧嘩の原因になってしまうので、口にすることはなかった。
 それでも、最近では、慣れてきたのか、自分も変態のように思えてきたからなのか、それほど、
「変な男」
 が近づくとは思っていなかったのだ。
「大丈夫?」
 と友達に言われても、
「何が?」
 とこっちがキョトンとすることで、拍子抜けされるという、そんな滑稽なことになってしまっているのだった。
 それを思うと、
「慣れてきたことで、自分が本当は変態なのではないか? ということが分かってきたような気がする」
 ということだったのだ。
「セックス依存症」
 そんな言葉が、頭をよぎった。
 誰かに言われたことがあった。そして、そのショックの下に、病院を訪れた。一縷の望みとして、医者から、
「そんなことはありません」
 というお墨付きをもらいたいからだったのだ。
 病院に行ってみると、先生は難しい表情をするわけではなく、診断結果を言い渡す時も、決して表情を変えることもなかったので、
「よかった。たいしたことないんだわ」
 と思ったのもつかの間、
「あなたは、セックス依存症ですね。それと、双極性障害の入り口くらいにいるようです。精神疾患の一歩手前ですね。ただ、今の状態ですと、いかようにもなるので、キチンと治療をしておかないと、どちらの症状に移行するか、分からないというところがありそうなので、そのあたりは気を付けておいた方がいいかも知れませんね」
 ということであった。
 それを聴いた時、最初は、
「何を言ってるのかしら・」
 と、治子は、若干信じられないという思いが強かった。
 だから、正直、
「どうでもいいや」
 という感じになったのも、無理もないことであり、
「もう、医者のいうことなんか、聴けないわ」
 と、医者の診断を自分で勝手に、無視するという、暴挙に出たのだった。
 それがいつのことだったのか、治子はそんなことを言われたということすら忘れてしまっていた。
 わざと忘れようとして、忘却の彼方に持っていったのか、自分でもよく分からない。
 しかし、そのおかげで、
「都合の悪いことは無視をすればいいんだ」
 ということができるようになった。
「これも、一種の怪我の功名というべきか?」
 と考えたのだ。
 なるほど、ケガの功名だと思えば、実に都合のいいものだ。
 治子は、そう思って、わざと、都合の悪いことを自分で封印するという自分なりのすべを覚えたことで、
「生き方のテクニックを手に入れた」
 とさえ思ったのだった。
 そのおかげで、人生がかなり楽になった。
 それまでの人生で、悲惨なこともあったという意識はあるが、封印してしまったので、それを思い出すこともなかった。
「たぶん、思いださなければいけない時になれば、思いだすことができるんだろう」
 という感覚だったのだ。
 それを考えていると、
「それが今だったあんだ」
 と思うのだ。
 つまり、今の自分は、
「医者に行って、都合の悪い診断を受けた。だから、忘れようとして、記憶を封印したのだ」
 ということを思い出した。
 そういえば、今までに、
「何か、記憶の中で、辻褄が合っているのかいないのか、自分で分からない」
 という意識があったのを覚えている。
 この意識がどういうものだったのか、正直ハッキリとしないのだ。
 しかし、自分の中にある辻褄というのは、どこにあるのかということがよく分かっていない。ただ、
「都合の悪い」
 というものを排除したら、残るのは、
「幸せな気持ちだ」
 ということだからである。
 それを、
「逃げに走っている」
 という人もいるだろう。
 しかし、それも、本人とすれば、
「藁をも掴む」
 という気持ちなのだ。
「だったら、医者の言う通りにすればいい」
 ということになるのだろうが、治子にとってみれば、
「医者というのも、半分敵だ」
 というイメージが強かった。
 彼女は、以前、母方の祖母と仲が良かったのだが、その祖母が、体調を崩し、入院した。
最初は、
「たいしたことはない」
 という診断で、数か月で退院できるということだったのだが、実際に退院はできなかった。
 その退院の前に、この世の人ではなくなったからである。
 その経験を中学生の頃にした治子は、
「どうしてそんなことになったの?」
 と母親に聞くと、
「医者の誤診だったのよ」
 という言葉だけだった。
 かといって、医者を訴えるだけの材料がないということで、弁護士に相談はしたが、結果、
「泣き寝入り」
 ということしかできなかったようだ。
 どちらにしても、医者の方は、
「不可抗力」
 であり、誤診を認定するだけの材料はなかったのだ。
 それを証明するには、患者側の証明が必要で、そんなものがあるわけもなく、しょうがないことだったようだ。
 その時の医者は、その後も何事もなかったかのように、診察をしている。それが、治子には許せなかったのだ。
「こんな理不尽なことがあるなんて」
 という、思いだけは、治子は忘れたことはない。
 というのは、このことは、決して、
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次