小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

未来への警鐘

INDEX|15ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

 それらの壊れたものは、他のものと一緒に放置されていいはずではある、そういう意味では、
「決められたること自体、厳しすぎる」
 と思っている人も多かっただろう。
 だか、それも分かっていることであって、
「俺らにとって、そんなに気にすることではなく、気にしないといけないのは、ここの管理者か、自治体の担当なんじゃないか?」
 と、捨てる側の、工場などの人からすればそうなのであろう。
 とはいえ、実際に壊れて扉が開いた状態の冷蔵庫が、たまたまその日、放置されていたのだ。
 子供で、かくれんぼをしているのであれば、身体が入りさえすれば、そこに隠れるのは当たり前のことだ。
 実際に、その子はそこに隠れて、誰かが見つけてくれるのを待っていた。
 しかし、誰も助けにくる気配もなく、ぽかぽかしてしまったことで、子供は眠ってしまった。
 気が付けば扉も閉まっていて、出ることができない。
 時計など持っているわけのなく、しかも真っ暗な冷蔵庫の中、閉じ込められたことで、見えるわけもなかった。
「どうしよう、出れなくなった」
 と、当然のごとく泣きたくなってしまい、大声で泣いてしまった。
 すると、また疲れて眠ってしまったのだが、今度気が付いた時には、扉が開かれていて、自分が助け出されるところだったのだ。
 その時、その子は、
「まるで夢のようだ」
 と思ったのだという。
 しかも、それに気づいたのは、助けられてすぐのことではなかった。
 何日か経ってからのことだったという。
 それがなぜかというと、
「君は、軽い記憶喪失に罹っていたんだよ」
 と医者から言われたのだという。
 なるほど、少年はその時から、しばらく、夢の中にいたような気がするといっている。
 もっといえば、記憶が戻るまでの間の、助けられてからの記憶がなくなっているのだという。
 気が付いたことで、記憶を失っている間に新たに入ってきた記憶が失われたのだ。
 ということは、
「かくれんぼで冷蔵庫の中に隠れてから、記憶が戻るまでの間は、まったく時間を感じない」
 という。
 つまり、数日間が、ポッカリ穴が開いたわけではなく、
「切り取られて、もう一度繋ぎ合わされた」
 という感じになっているのだった。
 それは、当然、本人にとっては寝耳に水だろう。
 まわりも、それを簡単に認めることもできず、
「ああ、そうだったんだ」
 と感じるしかなかったということであった。
 つまりは、医者がいうには、
「君は、軽い記憶喪失になっていて、それまでの記憶を一時的に失ったかたちになったので、そこに新たにできた記憶を書いていたのだが、いずれ戻ってくるはずの記憶によって、記憶が戻った時に、消されてしまったということになったんだよ」
 ということであった。
「じゃあ、短くてよかったということなんですか?」
 と聞くと、
「一概には、そうもいえない。記憶が戻ったからといって、失った記憶が戻った時、それまでに上書きされたものを消さずに、両方覚えているということも普通にあるからね」
 ということであった。
 それらに規則性はないのだという。
「じゃあ、僕の場合は、損だったということでしょうか?」
 と聞くと、
「そんなことはない。一番大切な記憶を失わずに済んだんだからね」
 と医者は言った。
「じゃあ、これでよかったんですか?」
 と聞くと、医者は、
「うん」
 と頷いて、何も言わなかったのだ。

                 セックス依存症

 冷蔵庫に隠れていた少年が助け出されたのは、偶然だったのか、何かが見えたからなのか分からなかったが、その時、まったく少年の記憶は失われていたという。
「これだけのショッキングなことがあったんだから、トラウマにもなるだろうし、記憶を失うのもしょうがない」
 ということであったが、その記憶もすぐに戻った。
 しかし、少年は、
「記憶が失われていた時期に、知り合った人や、その時のことも忘れていなかった。だから時系列としては、繋がっている」
 ということだったのだ。
 それを知った医者も、
「これは珍しいですね」
 という。
 何が珍しいのか、その時分からなかったが、どうやら、記憶喪失の時のことを、記憶が戻った時も覚えていることにのようだった。
 その話を思い出した治子だったが、
「この人はどっちになるのだろう?」
 と感じた。
「私が目の前にいても、私のことを覚えていないなんて、悲しいわ」
 と感じたのだ。
 そんなことを考えていると、治子も、
「かつての自分」
 の忘れていたことを、徐々に思い出してくるのだった。
 それは、
「忘れてしまいたいと思って、必死に忘れ去ったことであり、なるべくなら、思いだしたくない」
 と感じることだったに違いない。
 そのことを考えると、治子は、
「私も、記憶喪失だった時期があったかのように思えた」
 と感じた。
 というのも、記憶としては、
「時系列にずれがあった」
 という思いがあったことで、自分に、
「記憶喪失の時期があったということを忘れてしまっていた」
 のであった。
 そして、
「その頃がいつだったのか?」
 ということを思い出そうとすると、意識としては、
「つい、最近だった」
 と思えてならないのだ。
 なぜなら、その時の自分が、どういう女だったのかということを思い出したからだった。
 本来なら、
「思い出したくない記憶」
 というものが、フィードバックしてきたのだ。
 その記憶というものが、昨日連れて男性を連れて帰ったということでよみがえってきたのだ。
 そもそも、
「いくら放ってはおけない」
 といっても、何があるか分からない男性を家に連れて帰るなど、普通ならありえないではないか。
 それができるというのは、それだけ、
「自分の知らない自分がいる」
 ということになるのだろう。
 それが記憶を失っている時の自分であり、その時どういう気持ちになっていたのかということを想像すると、恐ろしくなるのだ。
 それが、
「本当の自分だというのだろうか?」
 ということを考えると、実に恐ろしい気持ちになってくるのである。
 その時に感じたのは、自分が、
「魔性の女」
 のようになっていたのではないか?
 ということであった。
 というのも、記憶喪失の間、自分の身体に異変があったことを自覚している。
 最初はそれが何なのか分からなかった。
 ただ、
「たまに、たまらなくなって身体がムズムズする」
 ということであった。
 そして、そんな体質に気付き始めてから、そんなに時間が経っていない時、見知らぬ男が、
「治子。治子じゃないか?」
 といって、なれなれしく近寄ってきた、
 治子とすれば、何が起こったのか分からないということで、
「どうしたんですか?」
 と冷静に聞いてみると、
「何だよ、治子。そんな他人行儀な態度、お前らしくないじゃないか?」
 というのだった。
「何だ? この男、いきなりお前呼ばわりしてくるなんて」
 と治子とはムッとなったが、
「ひょっとして記憶喪失の時の私を知っていて、それで声をかけてきたのかも知れない」
 と思うと、むげにもできないと感じた。
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次