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未来への警鐘

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 なのだろうが、そのわりには、
「こういうのを、母性本能というんだろうな」
 ということを感じたのだった。
 それを思うと、
「子供を警察に売るようなことはできない。まずは、本人の様子を見てから判断しよう」
 と思ったのだ。
 しかし、記憶のない本人の様子を見て、何が分かるというのか、それもあてずっぽうのようで、何をどうしていいのか分からないというのが、本音であった。
 そんな様子を見ながら、
「私は何から聞けばいいのか?」
 というのは最初だった。
 これは、まるで、
「将棋をしていて、最初にどの駒から動かせばいいのか?」
 ということに似ている。
 そういえば、
「将棋というもので、隙のない布陣というのは、どういう布陣か知っているか?」
 と聞かれた人が、聴いた人に、
「いいえ」
 と答えると、
「隙の無い布陣というのは、最初に並べたあの形のことをいうんだ。一手打つごとに、そこには隙が生まれる」
 という。
 それを聴いた時のことを、思いだしていた。
 つまり、将棋というのは、
「減算法であり、100から、一つ一つ隙が出てきて、最後に隙だらけになった方が勝つのだ」
 という意味で、
「それこそ、単純なゲームなのかも知れない」
 と感じたのだった。
 ただ、人間の心理というのは、そういうわけにはいかない。進むごとに隙が出てくるわけではなく、結界にぶち当たるかも知れない。それが、人生であり、人の不可思議なとことではないかと思うのだった。
 そんなことを考えていると、その青年をよく見ていると、
「どこかで会ったような気がするんだけどな」
 という思いが頭をよぎった。
 どこで、いつ頃出会ったのかということは、正直定かではない。それが定かになると、治子の方から、彼の正体を探ることもできるのだろうが、そういうわけにもいかないようだった。
 青年は相変わらず、キョトンとしている。しかし、不思議なことに、最初から恐怖というものを抱いているという節はない。
「記憶喪失だという意識を持ってずっといると、恐怖という感覚に慣れてくるというのか、感覚がマヒしてしまっているのかしら?」
 と感じるようになったのだ。
 記憶喪失になった人を、知っているわけではないので、よくわからないと思った。
「いや、そうでもないか」
 と治子は思った。
 昔、感じたことがあったのだが、あれは、小学生くらいの頃のことだっただろうか?
 そう、あれは、まだ、10歳になるかならないかくらいの頃のことで、その頃というと、まだ、もう少し田舎に住んでいた。
 おばあちゃんの家に住んでいたのだが、その理由ははっきりとは分からなかった。それまでは、都会のマンション住まいだったはずだったのだが、急に、田舎に引きこもることになった。
 家が広くなったことで、治子は嬉しかったが、両親としては、居づらいという気持ちが強かったのか、必要以上に気を遣っていて、その分、イライラしているように感じられたのだ。
 そんな田舎でのことで、そこでは、まだまだ子供は表で遊ぶということが多かった。
 ただ、子供としては、
「危険な場所」
 というものが結構あったような気がする。
 特に、当時の田舎というと、県や国の、いろいろな廃棄所であったり、少し大きな施設などがあったので、迷い込んだり、遊び場にしたりすると危険と隣り合わせということが往々にしてあったりする。
 ちょうど、
「燃えないごみ」
 であったり、
「粗大ごみ」
 などの、一時集計場というのが、設けられたりしていたのだ。
 いずれ、スクラップにするものなのだろうが、そこには、電化製品の古くなったものなどが捨てられていたのだ。
 子供たちは、そんなところで、よく鬼ごっこをしたりしていた。
 鬼ごっこをしている子供たちを見ていると、子供心に、
「危ないな」
 と感じる。
 しかし、だからといって、止めれる力が自分にはないのだが、大人も止めることはないようだ。
 というのも、成人男性も女性も、基本的には、昼間は都会に働きに出ていて、夜は日が暮れないと帰ってこない。
 田舎と言っても、都会までの通勤圏内であった。
 もちろん、遠く、通勤時間が2時間以上の人はざらであった。
 そういう意味で、この田舎町では、昔からの農家のような家と、ベッドタウンとしての、住宅街と二つが存在したのだ。
 平地のほとんどは、田舎の農家で占められていて、山の麓から中腹くらいまでの間で、住宅地が構えられていた。
 中にはマンションのようなところもあり、このあたりには珍しく、人口は増えていたのだ。
 しかも、都心部まで通わなければいけなかったのだが、途中から、その半分の距離のあたりの土地が結構賑やかになってきた。
 というのも、大企業メーカーあたりが、
「郊外に大きな工場」
 を持つようになり、都心部の営業所から、そんなに遠くないところで、物流関係にとっての交通の便のいいところに作られることになった。
 それが、そのあたりであり、営業所に勤めていた人が、率先して、工場勤務を申し出てくれたおかげで、工場の人員を集めるのに、そんなに時間が掛からなかった。
 そもそも、営業所からの移転なので、主任の役職も最初から用意されているので、転勤する人からすれば、ありがたかった。
 それを思うと、さらに、田舎町の住宅街に入ってくる人も少なくはなかったのだ。
 しかも、最寄りの駅は、山の近くにあるのだった。
「まるで住宅街を意識して、駅を作ったかのようではないか?」
 と思えるほどで、それだけ、至れり尽くせりということだったのだ。
 そんな新興住宅と、農家の間くらいの空いたスペースに、
「産廃一時置き場」
 が設置されていたが、それも致し方ないところがあった。
「どうしても、工場ができると、産廃というものも増えてくる」
 さらに、
「都会の産廃関係も、今までのところでは手狭になってきた」
 という問題もあり、急遽の建設は、急務ということになったのだ。
 候補地はいくつかあったのだが、急遽ということを優先し、さらに、便利の良さも考えると、ここは、格好の土地だった。
 しかし、その分、地元住民の反対も結構あったようで、
「急遽建設」
 という話だったわりには、結構完成までに時間が掛かったというのは、そのあたりの根回しに奔走していたというのが、理由だったようだ。
 実際にできてしまうと、地元住民も諦めがついたのか。どうしようもないということも手伝って、誰も何も言わなくなった。
 しかし、それが崩れたのが、それから少し経ってからのことで、ある事件があったからだった。
 それが、ちょうど、彼女が10歳くらいの頃のことで、一時騒然となったのだった。
 その街では、子供が表で遊ぶのは、まだ当たり前だったというのは、前述のとおりだが、
「このあたりは危険だ」
 と言われたとしても、遊ぶ子供にとっては、それほど気になるものではないだろう。
 遊びに出ると、以前は、広っぱで、野球をしたりできたのだが、このような、産廃施設などができると、今度は、鬼ごっこなどに走るしかなかったのだ。
 鬼ごっこというと、どうしても、他では場所がなく、
「ちょうどいいところがあるじゃないか」
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次