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未来への警鐘

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「それはそうだろう、昨日苦しんでいたこと自体がおかしい状況だったのに、目を覚ますと、知らない部屋にいるのだから、それも当たり前と言えば当たり前だ」
 と思ったものだ。
 そういう意味で、
「昨日、一体何があったというのか?」
 ということが一番気になる。
 昨日は、その場の勢いと言えばいのか、苦しんでいる人を置いて、そのまま行くわけにはいかないということで、家まで連れてきたが、考えてみれば、
「なんて、恐ろしいことをしたんだ?」
 ということである。
 本来なら、あの場で、救急車を呼ぶのが一番よかったはずなのだ。
 苦しんでいるのだから当たり前のことで、下手をすれば、警察も呼ぶのが、正解だったはずだ。
 あんなところで苦しんでいるのだから、
「何かの犯罪に巻き込まれたのかも知れない」
 と、どうして思わなかったのだろう?
 いや、思ったのかも知れない。
 思ったにも、関わらず、呼ばなかったというのは、それだけ自分の行動が異常だったということである。
 もっといえば、
「犯罪に巻き込まれたということは、大げさかも知れないが、あの苦しみが何だったのか?」
 あるいは、
「あの場で何が起こったのか?」
 ということを考えると、一番最良策というのは、
「警察を呼ぶことだったのだ」
 ということになるだろう。
 そのことを分かっているのか、彼女は、
「何をどうしたらいいのか?」
 と、これからを憂うのであった。
 そういう意味で、
「本当の意味の最悪」
 な状態ではなかったのがよかった。
 本当の意味での最悪というのは、
「この男が、この部屋で死んでいる」
 ということであった。
 それはあくまでも、本当の意味での最悪で、可能性がゼロではないと言いながらも、
「限りなくゼロに近い」
 という意味に相違なかったのだ。
 では、本当の意味かどうか分からないが、
「最悪」
 というのであれば、
「この部屋から、いなくなってしまった」
 という場合である。
 これに関しては、結構な確率でありえることではないだろうか?
 意識を取り戻して、
「警察を呼ばれたら困る」
 と思った可能性もないではない。
 また、これも、まったくないわけではないが、
「暴漢魔に変わって、襲い掛かってきた」
 あるいは、
「部屋の金目のものを物色して、いなくなっていた」
 などという、それこそ犯罪がらみのこともないとはいえない。
 そうなると、警察を呼ばなかった自分が悪いということで、果たして、そうすればよかったのかということになるのだろうが、そこまで妄想するとすれば、かなり、自分の精神が病んでいるということになるだろう。しかし、逆に、
「それくらいのことを、本来なら考えてもいいくらいだ」
 といってもいいだろう。
 そんな状態において、目を覚ました彼に対して、
「おはようございます」
 といって、治子は自分の声がひっくり返っているのを感じた。
「ああ、おはようございます」
 と、彼の表情が、急に弱弱しくなり、治子に対して、怯えはしていないが、探るような雰囲気は否めなかった。
 最初は、明らかにその目がギラギラしているようだった。それだけ、まったく知らないところにいることが恐ろしかったのだろう。
 そこで声を掛けられたのが、人間であり、しかも、女性である治子だったということで、安心してしまったに違いない。
「ごめんなさい。私が連れてきてしまいました」
 と治子は、男にそういうと、男は、治子をチラッと見て、
「うんうん」
 と首を横に振ったのだった。
 今のところ、何も口から言葉が出てこなかったので、
「何も言わないのか?」
 と思ったが、
「いえ、いいんですよ。僕の方こそ、お世話になったようで」
 というので、
「いえいえ、困っている人がいれば、当然のことだと思って」
 と聞いて、本当は聴きたいことは山ほどあったが、聴ける雰囲気ではなかったのだ。
「あなたのお名前は?」
「どこから来たんですか?」
「どうして、昨日はあのようなことに?」
 と、次から次へと聴きたいことが頭に浮かんでは消えていった。
 そもそも、最初に頭に浮かんだことが聴けないと思った時点で、それ以降の質問はないのである。
 そう考えてみると、
「私も、どこまで話ができるのか分からないのに、今の彼に聴けるわけもないわ」
 と治子は感じた。
「しょうがないのかも知れないわね」
 と、治子は感じていたのだった。
 治子としては、
「とりあえず名前だけでも」
 と思って思い切って、聴いてみた。
「すみません、お名前は何とお呼びすればいいんですか? お話する時、その方がいいかと思って」
 と、少しごまかすように言った。
 すると、彼は、心なしか、頭を抱えるかのように下を向くと、
「ご、ごめんなさい。今思い出せないんです」
 というので、
「えっ?」
 と聞くと、
「実は、覚えていないんです」
 というではないか?
「記憶喪失?」
 と思わず言ったが、なるほど記憶喪失だということであれば、何を言えばいいというのか、記憶喪失には、半永久的に忘れているものもあれば、一時的なもので、すぐに思い出すものもある。軽くて、そのうちに思い出すというものであっても、
「それが明日なのか、数年後なのか分からない」
 というものもあるではないか。

                 一時的記憶喪失

 そんなことを考えていると、
「いつから、そんな感じなんですか?」
 と聞くと、
「昨日の夕方くらいまでは覚えていたような気がするんですが、目が覚めた瞬間に、あったはずの記憶がなくなっていたという感覚なんですよ」 
 というではないか。
 医者でもないので、記憶喪失のメカニズムなど分かるはずもない。
「記憶を失うというのがどういうものなのか、分かるはずもない」
 というのが、本音であった。
 ただ、記憶喪失になるということは、テレビドラマなどでよく聞いたことがあった。
「何かショックなことがあった時」
 この場合は、いや、この場合に限らず、
「一時的な記憶喪失」
 と、
「半永久的なものがある」
 ということは分かっているが、そのショックなことの内容が問題なのだ。
「トラウマになって残るようなものを見てしまった場合」
 刑事ドラマなどでよくあるのは、
「殺人現場を目撃したり」
 あるいは、
「自殺をする人を目の前で見てしまったり」
 という外的な要因のものである場合が多いだろう。
 あとは、何かのけがをした場合など、頭の打ちどころが悪かったなどという場合などもそうかも知れない。
 さらには、何かの薬物中毒の場合などがそうであろうが、彼の場合には、それはなさそうだった。
 今のところ、考えられるのは、
「何かの犯罪に、巻き込まれている」
 ということであるが、もし、そうであれば、一刻も早く警察に連絡をするべきなのだろうが、彼の様子を見ていると、
「さすがに、すぐには」
 と考えてしまうのだった。
 というのも、
「彼の顔を見ていると、まるで、赤ん坊の顔を見ているようだ」
 と思うのだ。
 もちろん、独身の治子に、子供がいるわけでもないので、今までに感じたことのない、
「初体験」
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次