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未来への警鐘

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 と言われ、何となく分かっていることではあったが、
「言われて初めて気づいた」
 という部分も結構あったりして、
「気持ちが分からなくもない」
 というのが、その気持ちの表れだったりするのであった。
 つまり、
「何かを主張しようとするのであれば、まわりがいかにうまくいくか?」
 あるいは、
「いかに立ち振る舞えばいいのか?」
 ということを考えた上で、自分の自由にする分にはいいのだ。
 ただ、
「法律が禁止していない」
 ということであったり、
「まわりがどう感じるのか?」
 ということを考えていない中での自由は、
「自由という言葉を隠れ蓑に、自我を通そうとしている人間だ」
 ということになるだけなのだ。
 そんな人間は、正直、どこの会社にもいるのだろうが、治子としては、そんな男を許すことができないのだ。
 それだけに、同僚との間で、早いうちに、密約を結んでおく必要がある。
 いつ何時、切れてしまって、
「どちらからともなく、もう辞める」
 ということにならないかということなのであった。
 それまでに、水面下でいろいろ考えておかないと、とばっちりが来るのは嫌だった。
「どうせなら、一緒に退職願を叩きつけるというのは、面白いかも知れないわね」
 というのだった。
 二人とも、いつ辞めてもいいと思っている。
 ということは、どっちにしても、
「辞める時は一緒であり、いつでもいい」
 ということだろう。
 就業規則では、普通、
「辞める一か月前に、届けていれば、問題はないからだ」
 しかも、二人とも、同期ということで、有給というのも変わりない。
「年休消化」
 というのも、同じ期間であることに間違いはないだろう。
 そうなると、
「やっぱり、退職願を同時に出すと、同時に退職ということになって、それはそれで面白い」
 ということだ。
 どちらかに、しわ寄せがいかないからだ。
 そう思って、二人は密約を結んでいたのだ。
 ある意味で、
「確信犯だ」
 ということであろうが、それも当たり前ということであろう。
 そんなことを考えていると、会社を休むのは少し気が引けたが、彼を放っておけないということもあり、翌日朝になってから、会社に電話を入れる決心をしていた。
 今まで、仮病など使ったことなかったので、どういえばいいか分からなかったが、逆に、会社に対して、一切の後ろめたさのない状態なので、いくらでも何でも言えるという気分になっていた。
 そんなことを考えながら、家まで何とか、彼を運んできた。
 後から考えると、
「どのようにして運んできたのかということを、明日になったら、すっかり忘れているに違いない。それこそ、酒に酔っているかのようではないだろうか」
 部屋に幸い布団は、もう一組あった。
 それは、同僚が遊びに来た時用だったのだが、買うには買ったが、実際に使ったのは、2回くらいしかない。
 それよりも、同僚の部屋に転がりこむことの方が多く、
「気づいたら、友達の部屋だった」
 ということも少なくなかった。
 あまり酒が飲めない治子だが、自分よりも結構呑む同僚と一緒にいることで結構酒が進むということに気付かずに、最後には、酔いつぶれているというのが、いつものパターンであった。
 それだけ、
「楽しいお酒だ」
 ということであろう。
 そんな同僚も治子の部屋に来ることはあまりないのは、治子が先に酔いつぶれてしまうからに違いない。
 それでも、辞められないのは、酒が楽しいからだったのだ。
 これも逆を言えば、会社の雰囲気が嫌で、ストレスが溜まりに溜まっているからだということであろう。
 それを思うと、
「何とも言えない会社の雰囲気」
 に嫌気が差すのも、当たり前のことであった。
 会社を辞めるまでは考えていないつもりだったが、一度、友達に、
「退職について」
 ということで相談されて、初めてその気になった。
 しかし、その気になってしまうと、後は早かった。
「辞めるというのは、どうしてなの?」
 などという無粋な質問をすることはない。
「そんなのあなただって、分かっていることでしょう?」
 と言われればそれまでなのだ。
 世の中には、
「確信犯」
 という言葉がある。
 会社の上司のほとんどが、その確信犯で話をする。
 しかもその理屈が、正当性を求めていることがバレバレで話をする。聞いているだけで噴き出したくなるようなそんな滑稽な話であるからこそ、へたをすれば、
「私が我慢すればいいのではないか?」
 と思っていたのだ。
「自分が辞めれば、もう一人に迷惑が掛かる」
 という思いが強かった。
 だが、その思いは相手も同じ感覚で思っているようで、その思いからか。
「何が許せないことなのか?」
 ということが分かってくるのであった。
 だから、今日は、
「今までサボったことがなかったので、せめてもの抵抗のような気持ちになるのも悪くないか?」
 ということであった、
 一日休むくらいは、別に同僚に対して悪いとは思わない。逆に今まで、同僚が休むことは何度かあったくらいだ。
 それでもよかった。彼女が、あまり身体が強くないことも分かっていたので、今度は逆があってもいいというだけのことである。
「まあ、いいか」
 と思いながら、部屋まで帰ってきて、お布団を敷くと、男は、崩れるように、布団に転がったのである。
「身体のどこに力が入っているのだろうか?」
 と思うほど、力が抜けているように見えたのだ。
 酒に酔っている時ですら、身体のどこかに力が入っている。
 それは酔っぱらっていると言いながらも、意識はあるということの証明なのではないだろうか?
 ということである。
 男が、布団に転がり込むと、すぐに、いびきが聞えてきた。
 治子は安心したのだ。
「いびきを掻くということは、それだけ元気だということではないか?」
 と思えた。
「さっきのは、何か発作のようなもので、発作というのは、起こしてしまうと、その後は、死んだように眠ってしまう」
 ということを聴いたことがあった。
 まさしくその通りなのだろう。
 男のいびきは次第に大きくなってくる。深い眠りにいるからなのだろうか? 自分でも分からなかったが、それを思うと、眠りに就けない自分が、何かイライラさせられた。
「この人、拾ってきたけど、これでよかったのかしら?」
 と考えさせられる。
 いびきが次第に大きくなることで、それに比例して、後悔が少しずつ大きくなるということであった。
「私、騙されたのかしら?」
 とまで思ったが、しかし、最初に見たあの感じは、ウソでできることではないように思えたのだ。
 さらに、治子はまだ彼を見てから、普段の姿を見ていない。その普段の姿を見ないまま、あそこで放り出すということが、治子にはできなかったということなのかも知れない。
 だから、治子にとって、この拾いものが、
「よかったのか、悪かったのか」
 分かりようがないというものだ。
 彼が目を覚ましたのがいつだったのか、正直分からない。治子が目を覚ました時にはすでに目を覚ましていて、キョトンとしていた、
作品名:未来への警鐘 作家名:森本晃次