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神のみぞ知る

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 というのが、大きな問題だったのだ。
「勧善懲悪というのが、いかなる問題なのか?」
 ということを考えると、勧善懲悪の意味をしっかりと捉えることが必要になってくるのではないか。
 沖田自身がどこまで分かっているかであるが、
「そもそも、沖田自身が、自分のことを、勧善懲悪だ」
 と思っているのかどうか、怪しいものだった。
 思っていないとすれば、すべてが勘違いであり、
「大義名分」
 などというのも最初からなかったといってもいいのかも知れない。
 それを考えると、
「大義名分など、どこにあるというのか?」
 ということを考えてしまい、やってしまったことは、相手が懲悪に値する人間だと思うと、自分たちは、
「善でしかない」
 と思うのだった。
 沖田は、勧善懲悪であったが、躁鬱症でもあった。
 北条のように、昔付き合っていた女が、
「病気を盾に、いろいろしていた」
 というそんな女を相手にしたことで、精神疾患に関しては結構勉強した人であれば、沖田の性格も分かるというものだ。
 沖田の場合の躁鬱というのは、北条から見れば、
「それほどのものではない」
 というように見えた。
 それは、
「沖田のパターンが、手に取るように分かる」
 ということだからだ。
 実際に、沖田の場合は、あの時のオンナの少し軽いパターンだった。それを考えると、
「鬱状態というのは、誰でも、そんなにパターンがあるわけではない。あるとすれば、その強弱なのだ」
 ということなのではないだろうか?
 それを考えると、沖田という男が、
「なぜに、勧善懲悪なのか?」
 ということも分かる気がする。
 勧善懲悪というのは、
「一本筋が通っているように見えるが、実は、そうではない。躁鬱のように、裏表があるのではないだろうか?」
 とそんな風に考えるのだ。
 沖田と一緒にいれば、表裏がハッキリと分かってくる。
 ということは、
「相手が、鬱の時に、たまりにたまったあ鬱憤を躁状態になって、一気に吐き出すことになるのだが、溜まっている時、その限界を超えると、何をするか分からなくなり、その状態は躁状態になるのだ」
 ということは、
「鬱から、いきなり予兆もなく躁状態になることがあり、そうなると、何でもありの、イケイケ状態になるので、これほど怖いものはないともいえるだろう」
 それを考えると
「沖田という男の勧善懲悪がどこから来たのか?」
 ということを知りたいと思うのだった。
 沖田という男を、見つけてきたのは、真田だった。
「どうしてやつが、この計画に加わったのかというと、沖田には、妹が自殺未遂と起こしたという過去があった」
 というのだ。
 そのことは、沖田と、幼馴染しか知らないことだった。
 沖田が大学2年生の時、
「高校2年生の妹が自殺未遂を起こした」
 という事実はショックだった。
 実はそれまで、妹のことをそこまで気にしていたわけではない沖田だったが、妹が自殺をしたのは、
「学校で、暴行された」
 ということからだった。
 普通に一人で教室に残って勉強をしていた。そこに、同級生が帰ってきて、いきなり襲い掛かってきたというのだ。
 しかも、まわりは誰も妹の味方になってくれる人はいなかった。だから、妹はこの世を儚んで、自殺しようとしたということだった。
 それを聴いた沖田は急いで戻ってきて、
「妹の憔悴した姿」
 を見るに見かねて、耐えられない思いだったが、その時の男は、
「いいところのボンボン」
 で、向こうは、弁護士を使って。
「示談を言いに来た」
 というのだ。
 今では法律も変わり、戦うこともできなくもないはずなのだが、
「娘さんが法廷で、恥ずかしい尋問を受けたり、さらし者になってもいいんですか?」
 と言われると、親としても、
「娘の将来を考えると」
 ということで、示談を成立させるしかないのだった。
 何と言っても、金持ちは、
「息子の犯罪も、金で解決する」
 ということを優先し、弁護士もそれに付け込んで、話にくる。
 だから、うちの親もその言葉に誘導されて、示談にしたのだ。
 しかも、後から調べてみると、このとんでもない男は、
「今までに何度も同じことを繰り返し、そのたびに示談にしてきた」
 ということであった。
 病気と言ってもいいのだが、この男が最初に犯した犯罪の被害者と呼ばれる女が、
「一癖も二癖もある女」
 ということで、犯罪の被害者としては、
「ヤバイ女」
 だったのだ。
 相手の弁護士を脅迫するくらいのオンナで、何しろクラブのママのような人で、
「いくらでも相手してやるわよ。こっちには、いくらでも私のために動いてくれる人がいるんですからね」
 と言って、弁護士を脅かすのだった。
 弁護士も、少しタジタジだったが、考えてみれば、したたかな女ほど、分かりやすいわけで、話も早かった。
 そういう意味では、
「このバカ息子は、ここで辞めておけばよかったのだ」
 ということだ。
 その女にかなりの味を占めたのか、何度も似たような事件を繰り返す。
「何をやっても、弁護士が動いてくれて、こっちのいいようにしてくれる」
 というものであったが、
「男は、そんなことはどうでもいい」
 と思っていて、まるでサルのように、欲求を解消させればそれでよく、尻ぬぐいをしてくれる人の気持ちすら考えていないかのようだった。
 バカ息子のことを、さすがに親父も、
「手に余る」
 ということであったが、それだけではなかった。
 本当は、
「会社に入れて、英才教育を行い、自分の後継者に」
 と思っていたが、そんなこともできるわけもなく、妹がいるので、その妹に、
「婿を取る」
 という方法しかないと思っていた。
 そういう意味で、息子には、どうすればおとなしくしてもらえるか?
 ということで、今までは助けていたのだが、
「息子をそろそろ社会的に葬り去らなければ」
 ということで、今度は、息子の擁護には回らないようになった。
 息子とすれば、溜まったものではない。
「このままでは、俺は親父から社会的に葬られる」
 ということで、困っていた。
 そこへ声をかけてきたのが、真田だったのだ。
 つまり、この時の犯人の男は、三人目の男である、
「頼光」
 ということになるのだ。
 頼光は、もちろん、本名ではない。
「源頼光」
 から来ているのだ。
「自分の妹の仇」
 なのだということを、沖田は知らない。
 もし、知ってしまうと、
「頼光を殺しかねない」
 と思っていたのだが、真田としては、それぞれに、過去がある人間の方が、乗ってきやすいということで、事件計画を立てたのだった。
 沖田と頼光の因縁は、真田しか知らない。
 もちろん、真田も、二人のことをいかに使おうか?
 ということを考えているのも、確かだったのだ。
 沖田という男が、勧善懲悪だということを、頼光ももちろん分かっていた。ただ、さすがに自分が暴行した人の兄だとは思ってもみなかっただろう。
 頼光が、女に暴行するのは、自分の過去に原因があった。
 以前、自分の家庭教師をしてくれていた女の先生がいたのだが、その先生が、
「幼児に対して、ちょっとした悪戯嗜好の遍歴があった」
 ということである。
作品名:神のみぞ知る 作家名:森本晃次