再会へのパスポート
いや、そっちこそ、プロではないか?
という人もいて、要するに、どこから入るかは、個人の好みだということになるのである。
そんなことを考えていると、
「マインドコントロールされるよりは、何ぼかマシだ」
というものである。
そんな状態において、一度は、他人からマインドコントロールを受けて、
「人間の恐ろしさ」
「オンナの恐ろしさ」
を知ったはずで、だから、
「もう、二度と女性を好きになったり、愛したりということはないだろう」
と思ったはずだった。
だから、そのことは、風俗に通って、
「お金を出して、それで満足できればそれでいい」
と思っていたのだ。
それも、性欲が許す限りであり、年齢を重ねていくと、その性欲というのも、次第に衰えていくに違いないと思うのだった。
ただ、今のところは、まだまだ旺盛で、お金を払ってでも、解消できれば、それでよかったのだ。
そのはずだった。風俗にお金を使っても、何ら、罪悪感はなかった。それよりも、
「彼女のためにと思って金を使っても、結局、裏切られたりするのであれば、自分がきついだけだし、下手をすれば、仕事にも手がつかなくなって、自分の人生を潰すかも知れない」
と考える。
「しかし、風俗では、裏切られることはない。なぜなら、お金が絡んでいるからだ。お金だけの関係だと、色恋沙汰は、そのお金で拘束した時間だけのことだ。人によっては、ストーカーになるというようなことをいう人もいるかも知れないが、恋人関係が拗れた時の方が、よほどストーカーの可能性はあるのではないか?」
と思うのだ。
しかし、風俗嬢に対してストーカーになるというのは、完全に、勘違いをしている人間のことであり、
「自分は、世間一般にはモテない」
ということが分かっていて、風俗嬢になぐさめてほしいから、お金を払ってまで来ているのだ。
だから、女の子は、お世辞の一つや二つは平気でいい。しかも、
「自分の常連客になってもらおう」
と思うのだから、過剰に相手を褒めたりするだろう。
すると、相手もそこで、
「俺はモテているんだ」
と勘違いをしてしまう。
しかも、他のオンナにモテないのが分かっているのだから、必死になって、風俗嬢をつなぎとめようとする。
ただ、それは、彼女の優しさが、却ってあだになるのであって、片方では、
「常連になってもらって、お金を踏んだくろう」
と思っている人と、勘違いをしている男とが気持ちの上で、争うのだから、平行線なのは当たり前のことである。
もちろん、男も女も皆が皆、そうだとは言わない。
男も、紳士的に遊ぶ人もいれば、女の子も、
「せっかくお金を払って、私を選んでくれているのだから、精いっぱいのご奉仕をしてあげたい」
と思っている人もたくさんいる。
それが、本来の姿であり、あまりにも極端な例ばかりが起こるわけではなく、このような気持ちになった人の犯罪を起こす可能性が高いということなのかも知れない。
男の中には、
「もう、彼女と一緒になればければ、生きていても仕方がない。一緒に死んでもらおう」
と考える人もいるだろう。
女の子の方とすれば、溜まったものではない。
「何とか逃れる方法を考え、男の事なんて、考える余裕もなく、この状況になると、何があったとしても、悪いのは、男だ」
ということになるであろう。
だから、どうしても、風俗というのは、危険が背中合わせというのは、よく言われる。しかも、風俗遊びをする連中に、変質者が多いというのも確かなのか、そのせいで、真面目に遊んでいる人間が、偏見の目で見られたりする。
基本的に、法律に守られた仕事であり、遊びなのだ。犯罪が多いかも知れないと言って、取り締まりは厳しくしても、業界を潰してしまうというのは、危険が伴うということになるだろう。
ストーカー
つかさという少女は、あどけない表情をして、晃弘に質問をしてくるが、その雰囲気は、思ったよりも、重たそうな雰囲気があった。どうしてそう感じたのかというと、自分の中のかすかな記憶が、そう教えるのだ。
「自分の中の記憶」
つまり、それは、ほのかと付き合っていた時の記憶であった。ほのかも、あどけない表情から、いろいろな質問をしてきたが、その表情に理由などなく、それだけに、重たさ軽さなどを感じなかった。
唯一重たさを感じたとすれば、別れが近づいてきた時、何となく感じた程度で、それも、それまでに感じたことのないものだったことから、感じたものだったのだ。
つかさに対しても、最初から感じていたのかも知れないが、徐々に大きくなっていたようで、質問に答えていくうちに、余計に感じるようになった。その質問も、まるで小学生がするような感じで、
「好奇心の塊のような質問」
というイメージが湧いてきたのだった。
そんなつかさに、
「どうしたんだい?」
と聴いてしまった。
つかさが、どんどん質問をしてくる時にはできなかったが、さすがにいずれは、質問が途切れてくるのはわかり切っていることだ。
その隙をついてということであったが、晃弘は、つかさの表情から、
「何か、触れてほしいことがあるのではないか?」
と思ったのも事実だった。
どこまで話してくれるかは分からなかったが、触れなければいけないことであることに間違いはないようで、そのことが本当に分かっているのか、自分ではピンとこなかった。
しかし、つかさを見ていると、
「何か、物欲しげな表情は、触れてほしいということに違いない」
と感じさせるのだ。
だから、声をかけたのだが、つかさの表情は、一層暗さを増してきたようだ。
一瞬、
「しまった。余計なことをしたかな?」
と思うほどの、表情の暗さがあったが、つかさの表情に、昔のほのかを思わせるところがあったのだ。
それは、一瞬の面影であり、つかさとの共通点を、いまさらながらにいっぱい見つけた気がしたのだ。
つかさという女の子は、
「まだ大人になり切れていない、少女の雰囲気があった」
と感じる。
それだけに、思い出の中のほのかを彷彿させられて、
「放っておくわけにはいかない」
と感じるのだった。
そう思って声をかけると、
「おじさん」
と言って、一オクターブくらい低い声になったつかさは、
「私、どうやら、ストーカーに狙われているようなの」
というではないか。
さすがに、先ほどの甘えのある声が消えていることから、一オクターブほどの低さであっても、言葉の重みが結構大きいのだった。
「ストーカーというと、結構シビアな話になるんだけど、その男性に心当たりあるのか?」
と、晃弘がいうと、つかさの表情が少し寂しそうになった。
「ええ、実は、前に付き合っていた人なんだけど、別れを告げると、それまでに見せなかった表情になって、絶対に別れないと言って、嫌がらせ的なことをしてきたのよ」
というではないか。
そういえば、晃弘にも、男の気持ちが分からなくもないという思いもあった。