再会へのパスポート
「一緒に食事に行った時でも、先に来た方が、先に食べるなんて、もっての他で、もう一人の分が来るまで待たなければいけない」
という感じで、どちらかというと、
「昔気質の考え方」
をする人だったりするのだ。
そして、基本的に、
「二人は平等」
という考えが強く、女性も男性に気を遣うということを考えている人だった。
だから余計に、どちらかが、我に返ると、うまくいかなくなる可能性が高いということだったのだ。
逆にいえば、
「二人の時間が、まず最優先で、そこからプライベイトだ」
と思っている。
元々の晃弘の考え方はそうではなく、
「お互いに自分の考え方が一番で、それから、共通の時間を模索する」
という考え方である。
それだけフリーな考え方であり、余裕のある考えだと思うのだった。
しかし、その彼女は、まずは、二人の時間。そこから、お互いの時間ということで、根本的な考えが違っていたのだ。
それでも、晃弘は彼女に、歩み寄りを見せ、自分の中で、
「無理しているのかも知れない」
と思いながらも、実際には、
「どうすればいいのか?」
ということが分からなかったりする。
それでも、
「惚れたものの弱み」
ということで、その女性を一番に考えていたのだが、それでも、
「まだ足りない」
という。
最高に歩み寄ってみたが、結果、お互いに無理がたたり、別れなければならなくなってしまう。
その理由が正直分からないということで、晃弘は、戸惑いながらも、
「毎日、精神状態が違う」
ということで、考え込んでしまうという日々が続いたりした。
ということは、
「自分で自分が分からない」
ということになる。
特に、その要因が相手の言動と行動にあったりすると、どうしていいのか分からないというのも、当たり前だといえるだろう。
だから、この時の彼女とは、最後、別れ方もどんな感じだったのかということすら、意識していなかったから、記憶にも残っていなかった。
ただ、一つ言えることは、
「俺は、必死になって、結婚を考えていた」
ということだった。
相手の圧が強かったというのもあるだろう。
それを考えると、
「俺がもう少ししっかりしていれば」
と言えなくもないが、逆にいえば、
「そんな女と結婚しなくてよかった」
ということだと思うのだ。
さらに、次に付き合った女は、もっとひどかった。
マインドコントロールをする女性で、最初は知らなかったのだが、どうやら、
「精神疾患のある女性」
だったようだ。
詳しくは知らないが、本人曰く。
「指定精神病」
ということで、
「障害年金も貰っている」
と言っていた。
要するに、それだけ、
「私は病気だから」
ということを強く言っていたのだ。
だからなのかも知れないが、
「私と付き合うのは、それなりに覚悟がいる」
とは最初から言われた。
だが、甘く見ていたのか、
「ああ、分かった分かった」
という程度に受け流していたのだったが、相手とすれば、
「これじゃあ、とってもじゃないがダメだ」
と思ったのだろう。
いろいろ試してみるようなことはしていた。
街で、ちょっとしたチンピラを怒らせてみたり、警察官を刺激してみたりしているのだが、晃弘としては、
「まあまあ」
と言って、なだめるくらいしかできなかった。
彼女の方も、その状況が分かるようになってきて、どんどん、晃弘にいろいろな注文を付けるようになっていた。
さすがにその頃になると、
「これはヤバイ」
と思いかけたが、時すでに遅かったのだ。
女は、家族ともグルなのか、それとも、誰か後ろについているのか、二人がちょっと喧嘩になって、彼女が、どこかに行ってしまったのをいいことに、彼女のケイタイ電話からメールで、
「お前はどこどこにいるよな?」
と、まるで見張られているかのように言ってきた。
彼女の姿はまったく見えない。しかも、文面は明らかに男だった。
とはいえ、ケイタイの文面くらい、いくらでも代えることくらいできるというものだ。晃弘としては、背筋が寒くなってしまい。次に何を言われるかということが怖かったのだ。
そういえば、彼女から、一度親切から、ポータブル音楽再生機を借りたことがあり、彼女の好きだというアーチストの音楽が入っていて、
「私、このアーチストが好きなの。今度聞いてみて」
と言われ、預かっていた。
別に晃弘にとっては、好きでも何でもないアーチストだ。
言ってみれば、
「預かったはいいが、有難迷惑だ」
ということなのだろうが、その女とすれば、
「せっかく、薦めているのに、聴いてくれないというのは、どういうことなの?」
ということなのだろう。
ただ、これは、興味のないものを聞かせるというのは、ある意味、
「押しつけ行為に過ぎない」
と言ってもいいだろう。
だが、そのことを、女はお構いなしで、男が聴いてくれないのを、
「男が悪い」
と思う方だったのだ。
そこで、
「お前は、彼女から預かった音楽を聴いていないだろう」
という文面だった。
ここで初めて、彼女以外の誰かが、そのケイタイに絡んでいるということが分かったのだった。
それで、晃弘は怖くなった。
女一人なら、まだしも、
「そのバックに得体の知れない男がいて、さらに、普通なら誰にも分かるはずのないようなことを、どうして分かるのだろうか?」
ということであった。
その男は、何でも分かるようだった。
それで、晃弘は完全に浮足立ってしまった。
「どこで誰が見ているか分からないような気がして、それこそ、壁に耳あり障子に目ありだ」
ということを感じるのだった。
さらにそれだけではなかった。
彼女の父親が、絡んでくるのだが、最初は、彼女が自分の親に、
「結婚を前提に付き合いたい」
ということで顔見世のようなことをしたのだが、そこで両親は喜んでくれて、一緒に食事を摂るなどと言ったこともしてくれ、
「両親公認の付き合い」
ということになったのだ。
そのうちに、父親が、
「自分は会社を営んでいるので、いずれは晃弘君に、副社長になってもらって、会社を支えてもらいたい」
ということをいうようになって、
「まずは、その支度金として、50万円ほど、出資してほしいんだけど」
ということだった。
「会社の役員ということになれば、2年で、戻ってくるし、そこから生まれた利益はすべて君のものだ。しかも、その時には、会社の取締役という肩書もある」
と言われ、
「お金ないんですが:
というと、
「ローンを組めばいい」
ということで、サラ金のようなものに手を出させたのだった。
ただ、元本が少なく金銭的にも何とかなっていたので、
「これで、大丈夫」
と、ほとんど強制での借金だった。
だが、そのうちに娘との間がギクシャクしてきた。
例の、バックにいる男からの、脅迫めいたメールで、ほとんど精神が病んでしまった晃弘は、
「もういっぱいいっぱいだ」
ということで、彼女が何かをしてほしいと思っているのだろうが、それも分からず、結果彼女から愛想を尽かされて、そのまま、自然消滅という形になった。