小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

再会へのパスポート

INDEX|12ページ/20ページ|

次のページ前のページ
 

 その思い出を、大学時代の切ない思い出と一緒にするかのようにして、その時は自然と別れたのだ。
 だが、その彼女が、その後に寄った喫茶店にも表れたではないか。
「こちらいいですか?」
 とそう声をかけてきたのは、さっきの女の子だったのだ。
「あれ?」
 と思う間もなく。こちらが断ることなどないという確信犯的な感覚で、当たり前のように、前の席に腰を下ろしたのだ。
 そもそも、喫茶店では、今も昔も、
「相席」
 などというのはあり得なかった。
 それなのに、図々しいという言葉がそのままふさわしい状況であったが、悪い気はしなかった。
 先ほど別れた時も、
「ああ、これでお別れか」
 と、少し寂しい気持ちになっていた。
 だが、この感覚は彼女だけではない。だから、そんなに深く感じていなかった。
 後から思い返すと、まるで、
「最初に出会った時、別れたくないと、心の底から思った」
 というほどに感じていたのは、再会というサプライズがあったからに違いないだろう。
 一つ気になっていたのは、
「名前くらい聞きたかったな」
 という思いであった。
 しかし、この時代、初めて遭った人に、ちょっとだけ話をしたというだけで、名前を名乗るなど、普通ではありえないだろう。
 個人情報保護という観点から、ありえないといってもいい。
 それを思うと。
「再会したら、その時は聴きたいものだ」
 と、いかにも他力本願的な考え方であったが、
「その思いが通じたのではないか?」
 と思うと、嬉しかったといってもいいだろう。
「おじさん、さっきぶり」
 と、彼女は、ニッコリと笑って、こちらを見つめている。
 もう50歳を過ぎたのに、ドキッとさせられた。
 先ほどの個人情報保護の感覚が希薄だったのは、
「大学時代に戻った気がした」
 ということで、大学時代というと、かなり昔で、そんな個人情報保護の概念が、今から思えば、ないと言ってもいいくらいだったのだ。
 ドキッとした彼女の横顔を見ると、
「ああ、大学時代に感じた、ほのかに本当にソックリだわ」
 と感じたのだ。
 そんな、
「あっけにとられたかのような表情を自分がしている」
 というような感覚を味わっていると、今度は彼女の方から。
「おじさんどうしたの? 何か思い出しているの?」
 と、ほぼ核心に迫るかのような言い方をしているが、それ以上は何も言わないところから、
「この子はどこまで分かっているのだろう?」
 ということを感じさせた。
「あれ?」
 実はこの感覚も、デジャブだったのだ。
 ただ、このデジャブはかなり遠いもので、
「それこそ、大学時代だったのではないか?」
 と考えると、
「ああ、そうだ、ほのかに対してのことだった」
 というのが分かってくると、
「どんどん、彼女がほのかに見えてくる気がする」
 と感じた。
 しかし、その後少し世間話のような、他愛もない話になったが、その時々で、ゾッとするものを感じた。
 その都度、ほのかの思い出がよみがえり、本当に目の前にいるのが、ほのかだという感覚になるのだった。
「デジャブって本当にあるんだな」
 と、ここまで感じていると、彼女との再会という偶然も、
「必然だったのかも知れない」
 と感じさせられたのだった。
 さて、目の前の彼女に、
「名前は、何というんですか?」
 と聴けそうなタイミングはあったが、実際に聴けなかった。そういうのが何度か超えていくと、
「ああ、もう聞けなくなりそうだ」
 と思ったところで、
「ああ、私ね。花巻つかさっていうの。よろしくね」
 と、何と自分から名乗るではないか?
 そう思うとこちらも思わず、
「ああ、僕は河野晃弘といいます」
 と、答えていたのだ。
 その間、数秒だったはずなのに、かなりの時間が掛かったのではないかと感じたのであった。

                 マインドコントロール

 さすがに50代のおじさんに、大学生の女の子、つりあうわけもなく、
「世間話程度で、今日限りの仲、いわゆる、
「一期一会」
 となるだろう。
 くらいのものだった。
 そもそも、
「この年になれば、出会いなんか、あるはずがない。あったとしても、金銭が発生するものだろう」
 くらいにしか思っていない。
 特に若い子と仲良くなろうとするには、
「何らかの金銭は必要に違いない」
 ということであった。
 実際に、会社の人の中には、若い女の子と、
「金銭関係を結んで、仲良くしている」
 という人もいる。
 いわゆる、
「パパ活」
 というものらしいが、
「何が楽しいというのか?」
 と考えてしまうのだった。
 さて、自分はさすがに、そんなことはしないと思っている。
 そこまで好きな人もいないし、どうなのだろう?
「パパ活」
 などのように、
「始めよう」
 と思ってから女の子を探すということもあるだろうが、
「可愛い女の子がいて、その子のために何かをしたい」
 と感じることもあるだろう。
 その場合には、
「どのような心境になるのか?」
 ということを考えてみたりしたが、どうすればいいというのだろう。
 さて、つかさという女の子が、こんなに積極的だとは思わなかった。
 ほのかと似ているということで、どうしても、ほのかを意識してしまうのだが、ほのかの場合は、気が強いところがあって、それだけ、精錬実直だったのだ。
 つかさの場合は、
「世代が違う」
 ということもあり、明らかに違っている。
「おじさんは、どうして、私をじっと見ていたの?」
 と、聴き方も、ド直球だ。
「あっ、いや、実は昔私が大学時代に付き合っていた人と似ていたものだから、思わず目が行ってしまったんだよ。申し訳なかった」
 というと、彼女は、大げさなリアクションで、
「へえ、そうなんだ。なんだか嬉しいな、見つめられるのって、嫌な気はしないわ。よほど相手がキモイ人でなければね」
 と、つかさはいう。
 それを聴いて、
「ほう、じゃあ、僕はキモイというわけではなかったということかな? それなら嬉しいな」
 というと、彼女は微笑みながら、
「大丈夫ですよ」
 と言ってくれたのだ。
 晃弘は、有頂天になりかかっている。
「している自分が見ても、キモイと思うようなことを、当の本人がキモイと思っていないということは、これほどうれしいこともない」
 と、感じた。
「ところで、おじさんは、今、奥さんとかいるの?」
 と聞かれて、
「いや、いないよ。いまだに結婚歴がないんだ。気持ち悪いだろう?」
 と、若干自虐的にそういった。
「そんなことはないわ。きっと、おじさんに遭う女性がいなかったんでしょうね?」
 と言われて、今までの女性遍歴を思い出していた。
 確かに、自分に似合うような女性もいなかったような気もする。社会人になってからは、数人の女性と付き合った。
 中には、
「結婚を前提に」
 という人もいて、実際に、その気になっていて、結婚するつもりでいたのだった。
 だが、やはり合わなかったというのが正直なところか。どうしても、寄り添うことのできないところもあった。
 特に相手が、
「いつも一緒にいないと嫌だ」
 という人で、
 たとえば、
作品名:再会へのパスポート 作家名:森本晃次