二重人格の正体
そんな中、警備もできるだけ警察の方で行っているが、ここの町内は、昔から、
「町内のことは町内で守る」
という意識が強いようで、昔なら、
「街の青年団」
のようなものが形成されたりしていた影響からか、独自の警備隊のようなものが結成されたりしていたのだ。
だから、警察のパトロールとは別に、町内の見回りグループが、最近では、毎日のように出回って、警戒するようになっていた。
というのも、数年前から問題になっていて、今は少し落ち着いてきているものとして、
「世界的なパンデミック」
と言われるような、
「伝染病蔓延」
という時期があった。
何と言っても、世界的な同時流行であり、まだ誰もその正体をハッキリ知ることのできない間、最初は国によっては、かなり甘く見ていて、
「水際対策」
というものを、徹底できずに、
「蔓延を許してしまった」
という国もたくさんあった。
日本などもそれが顕著で、一気に国内でも蔓延していったのだ。
さすがに、諸外国のように、
「都市封鎖」
と言われるような、
「ロックダウン」
であったり、
「戒厳令」
というものは、日本では行うことはできないが、その代わりに、
「緊急事態宣言」
なるものを発令した。
基本的には、ロックダウンのようなものなのだが、あくまでも、それは要請であり、それができないからといって、罰則があるというわけではなかったが、それでも日本人は、最初の宣言の時は、皆がしっかりと守っていたものだ。
その時に、
「店舗の営業自粛」
というものがあり、街中の商店街、地下街なども店がまったく閉まっていて、会社も、
「絶対に出社が必要な人」
というのを覗いて、休業ということになった。
できる会社は、リモートによる対応をしていたというわけで、街中は、ほぼ電気が消えていて、ゴーストタウンの様相を呈していて、鉄道などの交通機関は普通に動いていたので、普段の通勤ラッシュに見られる時間の、満員電車も、同じ時間に、
「一車両に、数人」
という、今までの日曜日の方がまだまだ多いだろうというほどの、通勤ラッシュだった時間帯なのだ。
そんな街は、繁華街の雑居ビルのようなところで、スナックやバーなどを経営している人たちの店が、
「空き巣の恰好のターゲット」
になっているという状態になっていた。
ほとんど店にいくことはなく、するとすれば、たまに店に行って、換気を行うくらいのものなので、そのたまに行ってみると、
「店の中が荒らされている」
という状態だったりする。
キチンと警備が行き届いたビルであれば、そういうことはないのだろうが、すべての店が警備が掛かっているとは限らないので、狙ってくるのだろうと思うのだ。
しかし、それにしても、
「よく、そのビルに警備が掛かっていないということが分かるものだ」
と言えるだろう。
それを考えると、闇雲に考えるよりも、意外と、
「犯人は、身内の誰かなのかも知れない」
と言えるのではないだろうか?
そんなことが流行っている状態で、町内の警備隊が活躍する時がやってきたということであった。
それまでにも、夜中など、ストーカー犯罪であったり、痴漢などが出没する場合など、警備隊が組織されることがあったが、今回は、
「閉店している店に入る、空き巣」
が相手だということである。
今までに経験のない相手であったが、パトロールをするだけでも、
「犯罪の抑止」
というものに繋がっていった。
それを思うと、
「街の警備隊」
というのも、侮れないといえるだろう。
さすがに何かを起こそうとしている人間も、集団で動いているパトロール隊が相手であれば、自重しようというのも無理もないことに違いない。
看板やポスターなどで、注意喚起を行っても、
「石ころ効果」
というもので、思ったよりも、それを抑えることができないのであれば、それは結構きついことであり、その分を、
「街の警備隊」
というものが担っているということであれば、それはそれで、いいことなのだろう。
最近、その警備隊の中に入っている青年で、紫青年というのがいるのだが、彼は、どうやら記憶喪失だったようだ。
そんな彼が、どこでどう知ったのか、白石氏のことを知ったようで、最近になって、白石氏を慕うようになっているのだった。
紫青年は、どうやら記憶喪失のようだった。
見た目も、まわりに対しての態度も、おとなしめであるが、しっかりとした気持ちは持っているようだった。
警備隊に入ったのも、
「こんな自分でも、何かできることがあれば」
ということで、警備隊に入隊した。
もちろん、私有団体なので、試験があるわけでも何でもなく、危険を伴うことなので、受け入れた後で、警察の訓練場で、警備のイロハを教えてもらうことで、採用されることになる。
「なかなか若い人のなり手がいないからな」
というのも、もっともなことで、
「やっぱり、こういう危険なことに首を突っ込むのは、誰でも嫌だよな」
ということであった。
そんな中において、紫青年は、
「どうして君はこういうところに来るようになったんだい?」
と聞かれて、
「自分は記憶がないこともあって、さらに最近のパンデミックのせいで、体よく会社を解雇されて彷徨っていたんですが、ここの警備隊のことを聴き、俺のような記憶喪失でも役に立てればいいということで、申し込んでみたんです」
ということであった。
基本的には、この街で育ち、この街で生活をしている人が、
「我が街のために」
ということで立ち上がってのことだった。
参加資格は、成人していれば、男女ともに構わないということであったが、最初はやはり入隊する人は少なかった。
だが、時代は、パンデミックに入り、会社から解雇された人が溢れてくると、警備隊という仕事で、ほぼボランティアなので、
「これだけで生活ができる」
というわけではないが、他の仕事をしながら、警備もする」
ということで、いろいろと、自分なりにできるようになりたいという思いもあった。
会社が解雇した理由である、
「記憶喪失だから」
という理由は、本来であれば、
「不当解雇」
に近いのかも知れないが、そうは言っても、前に進まなければいけない状態になったことで、今のような形で貢献するということであった。
彼が白石氏を慕っているというのは、白石氏が、この警備隊に所属しているからというわけではない。
他の社会福祉に協力しているからというわけでもない。
ただ、紫青年に言わせれば、
「自分と似たところがあるが、自分にないところもしっかりと持っている」
ということから、尊敬しているということだったのだ。
「紫青年は、まだ18歳で、高校を卒業し、大学入試に失敗したことで、少し精神的に病んでしまったようで、記憶喪失も、その一環だ」
ということだったのだ。
最近、現れるという怪しい人物も、ハッキリ顔が分っているわけでもなく、ただ、防犯カメラで、
「いかにも、怪しい」
という感じの写り方をしているというのだが、ただ、今のところ、犯罪の報告があったわけではない。
ただ、最近は、
「物騒な世の中になってきた」