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無限ループ

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「お互いに好きなことの邪魔はしない」
 ということであった。
 だから、彼女も仕事を辞めるわけではなく、生活費への、それぞれのお金の配分などは、曖昧にしていた。
 実はそれも悪かったのかも知れない。別れを決意する前に、彼女から、
「もっと、生活費の方も見てくれないと困る」
 と、三津木は言ったことがあった。
「何言ってるのよ。あなたが最初にちゃんと決めておいてくれないから、こっちは分からないのよ」
 と言われた。
 確かに、最初の頃は、
「何も言わなくとも彼女には分かってもらえる」
 ということから、
「強く言えなかった」
 つまりは、
「遠慮した」
 ということであった。
 敬意を表し手遠慮したはずなのに、いまさらそのことを引っ張り出されると、苛立ちもするというものだ」
 実際に遠慮したというより、
「変に決めて、そのことの不満で嫌われるのが嫌だった」
 ということなのだ。
 後になって、このような形で責められるなどということは、普通なら分かるのだろうが、その時は、新婚という甘い蜜のせいで、分からなかったのだった。
 新婚が甘い蜜だというのは、その時の楽しさが、離婚の時の足かせになろうとは思ってもみなかったからである。
「あの時の楽しかったことを思い出してごらんよ」
 と、旦那は思い、説得する。
 しかも、旦那は、まだまだお花畑にいるのだから、そういう言い方をするだろう。
 しかし、女はすでに冷めているのだ。そんなことを言われたとしても、
「いまさら何を」
 としか思わない。
 それよりも、新婚の時期に、奥さんの方も、
「あの時私が、少し含みを持たせて話したことを、まったく無視したのは、どっちなのよ?」
 と言いたいようだ。
 旦那としては、
「楽しい時間を、ちょっとしたことで気分を害するようなことはしたくない」
 と思っているのだが、女房の方とすれば、
「私の方をまったく向いてくれていないから、私の言っていることも平気で無視できるんだ」
 と思ってしまうことだろう。
 この時点で、
「気持ちのすれ違い」
 というものはすっかりできていて、ただ、実際には、すれ違いではなく、男から見れば、女はまったく遠くまで行ってしまっていて、その姿も確認できないのではないか?
 ということであった。
「オンナというものは、相手に気持ちを明かした時、すでに自分の気持ちはかたまっていて、どんな説得にも応じないところまで来ているものだ」
 ということに、男性は往々にして気づいていないものなのだ。
 だから、そのことに気付いた時、
「女って卑怯だ」
 と感じるのだ。
「相手に分かるように説明もせずに、勝手に決めてしまうというのは、一体どういうことなのか?」
 ということで、
「逃げている」
 としか思えないのだ。
 女からすれば、
「あなたが、私にこんな気持ちにさせたんだから、女とすれば、これくらいのことをして、当たり前なんじゃないか?」
 ということなのだ。
 もうこうなってしまうと、完全に、
「いたちごっこ」
 になってしまい、相手との距離感がマヒしてしまうくらいの感情を抱いてしまうのではないだろうか。
 それでも、子供のことがあるから、親としては、
「何があっても別れてはいけない」
 と思っていて、ただ、それは、三津木が思ってるだけだった。
 女の方とすれば、
「母子家庭になってでも、この子は自分が育ててみせる」
 という思いに駆られるのであった。
 ここまでくれば、一進一退。どうすることもできなくなる。こうなった時の女性の動きは、迅速だった。
 男の方は、
「定期的に説得にいけば、そのうちに、気持ちが変わるだろう」
 などという、今の段階では、もうあり得ないことを考えているのだ。
 女とすれば、
「一日も早く決着をつけて、前に進みたい」
 と思っているのだから、
「このすれ違いは致命的だ」
 と言ってもいいだろう。
 女の方は、さっさと法的手段に訴える、家庭裁判所に話に行き、そこで、
「調停」
 という手段を用いて、意地でも離婚しようと思っているのだ。
「すぐにでも、新たな生活に入りたい」
 と思っているのだから、正直、これが一番手っ取り早い。
 相手は、調停委員という人が出てきて。それぞれの話を聴いて、いい方に持っていこうとする。
 調停と言っても、裁判であることにかわりはないので、
「被告と原告」
 の二人が、同じところに席を儲けるということはしない、
 あくまでも、一人一人意見を聞くことになるのだ。
 調停とはいえ、相手が暴力夫だったりもするわけだ。
「逆上すると、何をするか分からない」
 という感覚である。
 それを考えると、
「調停委員というのは、優しく話をしても、中には逆上する男性もいたりするので、本当に厄介である」
 と言えるだろう。
 まずは、原告である女性側の意見を聞き、それを被告である夫に告げる。
 夫の意見も普通に聞いているが、ほとんどの場合は、
「調停委員は、自分の味方になってくれるだろう」
 ということを考えて、かなり甘く見ていることだろう。
 特に。
「子供がいて、子供のためにならないと思っている」
 ということをいえば、こちらの味方になってくれると思うのだった。
 しかし実際には、
「奥さんの気持ちも硬いようですし、子供のことも、早くケリをつけてあげて、自由にしてあげたいですよな。子供の将来のためにもですね」
 ということを言われるのである。
 男はその時になって、やっと、
「もう時すでに遅し」
 だということに気付くのではないだろうか?
 三津木もこれを聴いた瞬間、
「俺はいま、四面楚歌の状態の中にいるんだ」
 ということであった。
「旦那さんも、奥さんの覚悟を考えてみてください」
 と言われた時、
「ああ、調停委員というのも、公平ではなく、原告の方に味方するんだ」
 ということを考えると、すべてが、相手の計画通りになっていることに愕然となる。
 離婚を決意したとすれば、この時であろう。
「なるほど、子供のことを考えてしまうと、こちらが簡単に諦めると思っているんだな?」
 と考えると、何とも屈辱感に苛まれるのだが、もっと悔しいのは、
「そんなことも分かっていて、抗えることのできない自分が悔しい」
 ということであった。
 子供というのは、下手をすれば、
「リーサルウェポンだ」
 と言えるかも知れない。
 それまで、子供のことを真剣に考えていて、奥さんの方も、
「いずれは分かってくれる」
 と思っていたのが、実は離婚をしたくない理由に、子供を出しにして使っているということになると思うと、自分が情けなくなってくるのだ。
 ここまでくると、
「もう仕方がないか?」
 と考えるのだ。
 しかも、まわりの家族も、皆奥さんの味方で、こちらも、
「子供のためにも」
 ということで、もう、逃げ場がなくなってしまっているようだった。
 夫というもののメンツも丸つぶれ、しかも、子供の将来を妨げているということになると、もう、どうしようもなくなってくるのだ。
 離婚は簡単に成立した。
 調停内容の証書が作られて、そこにサインするだけで終わりだった。
作品名:無限ループ 作家名:森本晃次