無限ループ
というイメージで見ていたので、店のバックには、怖いお兄さんたちが、蔓延っているのだろうと考えたのだった。
しかし、相手をしてくれた女性は、しっかりとしていた。
「さすが、童貞キラーと言われるだけのことはある」
と思ったが、本人の前で口にできるわけもない。
しかし、彼女の方から、
「誰かの紹介でこられたの?」
と言われたので、おじさんの名前を出すと、
「ああ、社長さんのとこの社員なのね。あの社長さん、私のことを気遣ってか、よくお客さんを紹介してくれるのよ。私は本当に感謝しているわ」
と言っていた。
そして、
「私のことを童貞キラーだって言ってなかった?」
と聞かれたので、初めてそこで、
「そうです」
と答えると、彼女は大きな声で笑い始めた。
「やっぱりね。あの社長さん、私に童貞の子をよくつけてくれるんですよ、おかげで童貞キラーの称号を貰うことができたわ」
というので、
「嫌じゃないんですか?」
と聞かれたので、
「嫌ということはないわよ。むしろ、そうやって私の宣伝してくれるの、とっても嬉しいの。私たちは、なかなか自分から宣伝というのはできないので、お客さんからの口伝がもらえるというのは、ありがたいことなんですよ」
というではないか。
さらに、
「私は、別にこの仕事を後ろめたいと思ってやっているわけではないのよ。かといって、誇りを持っているというわけでもない。そこで、社長は、それでもいいんだけど、誇りを持てるようにしてほしいなということを言ってくれるので、それから、私のお客さんを紹介してくれるようになったんですよ。それも、童貞の子が多いのよね。きっと社長は、私に誇りをもってほしいのかなって想ったけど、それはそれでいいのかなって感じたの」
という。
彼女のその話を聴いて、三津木は、
「俺は今まで、偏見を持っていたのだろうか?」
と考えるようになった。
偏見というよりも、
「いかがわしい」
というイメージが偏見に繋がっていたのではないか?
ということであった。
友達は、今まで付き合った女性と最後まで行っていなかった。
本当に好きで好きでたまらないと思っていた女性とも、身体の関係になる前に別れていたのだ。
あとになってから、
「別れるくらいなら、やっとけばよかった」
などと決して思わない。
逆に、
「もし、彼女とやっていれば、別れがさらにつらかったことだろうな」
と考えた。
だが、結果として、身体の関係はあろうがなかろうが、
「一番つらい別れ」
を感じているということに変わりはないのだから、それなら、
「お互いにキレイなまま別れて正解だったのかも知れないな」
と思うのだった。
正直、別れなど、きれいだろうか汚かろうが、別に意識しないといってもいいのだが、後悔をするしないということを考えると、
「やっぱり、きれいに越したことはない」
と思ったのだ。
三津木が、その友達と仲良くなったのも、彼の気持ちが分かったからだ。
友達は、三津木のような、大きな別れを経験したわけではなかったが、高校を卒業して、一人都会で暮らしていると、寂しくなったようで、社長もそれが分かったのか、いつも連れてきてくれる馴染みの店であれば、月に、5本までなら、
「ボトルを入れてもいい」
と言ってくれた。
5本というと、結構なものだと思えるのだが、社長とすれば、
「友達を作って、その友達と一緒に飲めばいい」
というような粋な計らいだったのだ。
ちょうど、失恋したショックから、やけ酒を呑もうと思って入ったお店で、知り合った二人は、
「意気投合した」
というところであった。
友達にはすぐになれた。
ママさんが気さくな人で、
「この二人は友達になれるだろう」
と思ったのか、積極的に、二人を紹介したのだった。
二人とも、4つほど年齢が離れていたが、考え方は似ているところがあったので、意気投合するまでに、ほとんど時間が掛からなかった。
友達の方は、相手が年上でも、会社の上司ほど年齢が離れているわけではないので、気軽に話しかけられた。
三津木の方も、彼を見ていて、
「どこか背伸びをしたいという意識があるようだが、少年っぽさが残っていて、新鮮に感じられる」
というところであった。
ママさんから見ても同じだったようで、そのママさんから見て三津木という存在は、
「ちょっと子供っぽいところがあって、悩みもまだまだ子供なんだけど、そこが新鮮なのかしらね」
と思っていたようで、二人が合いそうだということは、結構最初の方から分かっていたようだった。
三津木は、結婚までを考えた女性とは、最後まで行っていたのだが、別れに際して、
「ああ、何もしていなければ、もっと楽に別れられたかも知れない」
と思っていた。
実際には、
「そんなことは関係ない」
と思っているにも関わらず、そう感じようとするのは、
「どうやろうとも、苦しむことに変わりがないのであれば、何もなかったことにした方が気が楽なのかも知れない」
と思ったのだ。
そんな三津木の気持ちが分かっているのか、友達も、三津木の気持ちを分かると同時に、自分の話もして、
「分かってもらおう」
と感じるのだった。
友達の気持ちが、三津木にも分かったからこそ、二人は仲良くなったのだ。
ママさんの感じた通り、
「この二人は、結構合うかも知れないな」
ということなのかも知れない。
ママさんとしては、三津木と友達が、
「よく似た性格だ」
とは思っているわけではない。
あくまでも、
「この二人は合うだろう」
ということで、引き合わせたわけだった。
性格が合うというのは、
「何も、性格が似ているからだ」
というわけではないということであろう。
ママさんに、
「二人のうちの、どっちが好きか?」
と聞いたとすれば、
「三津木さんかしら?」
と答えるであろう。
二人は、ママさんの考えに似合っているのだが、友達の方が、どちらかというと、性格が別れているようで、
「自分の意識から、少しはみ出したところがあるように見える」
という感覚だった。
三津木の方は、すべて自分の視界の範囲に入っているようで、だから、
「三津木の方が好きだ」
ということになるのだろう。
ママさんは、三津木の方をずっと見ていて、その意識が友達の方に分かり、そのせいか、次第に友達の足が遠のいていったのだ。
店のママとすれば、気にしなければいけないところであろうが、三津木が来てくれるだけで嬉しいということなので、友達が来なくなったことを、必要以上に気にすることはなかった。
そんなママが気に入っている客の中に、母子で来る人がいるのだった。
母親と娘なのだが、こんな偶然があるというのか、その母親というのは、友達のところで働いている、パートの事務員さんだという。
もっとも、社長自身が、よくこの店を利用しているのだから、社員やパートさんが、利用するというのも決して不思議なことではないだろう。
それを思うと。
「あら、またご一緒になったわね」
とママさんがいうのも分かる気がした。