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遅れてきたオンナ

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 しかし、その男は、完全に、
「独占欲が強い。自己中心的な男」
 だったのだ。
 途中から、さくらを縛り始めた。行動に対しても、あれこれ、口を挟むようになり、そのくせ、自分のことを話そうとしない。
 さくらは言いなりであり、まるで奴隷扱いに変わっていった。
 最初はそこまでプライドも高くないこともあり、さらに、
「グイグイ引っ張っていってくれている」
 と思うと、
「楽できる」
 という思いがあったからなのか、
「それでもいい」
 と思うようになったのだ。
 そんなプライドのないさくらであったが、さすがに、それがずっと続くとたまらないという思いになってきた。
 これがプライドなのかどうなのか分からないが、
「男って、こんなものなのか?」
 とその男に対して、怒りがこみあげてきた。
「一度も逆らわないので、図に乗っている」
 と思ったので、ちょっと逆らってみると、相手は、明らかに動揺している。
 言っていることの理屈も明らかにおかしい。
「なるほど、この男は、相手が言いなりでなければ、自分の本性が分かってしまうので、メッキで身を包んでいるんだ。しかも、そのメッキは、めちゃくちゃはがれやすいんだ」
 と感じたのだ。
 そう思うと、急にさくらは、気が楽になった。
 今まで、気が張っていたということに気づかなかったことが信じられないほどに、身体が重たくなっていたようで、それでも、相手がもう少ししっかりしていればよかったのに、あの狼狽ぶりは、さくらにとっても、
「アウト」
 だった。
 もちろん、他の女性誰もが、アウトだと思うに違いない。そんな男を振るのは、これほど簡単なことだとは思わなかった。しかも、まったく罪悪感を感じなかったのだ。今までに、
「男性を振るということは、罪悪感の塊になりそうで、怖い」
 と思っていたのが、まるでウソのように感じさせるものだった。
 さくらにフラれた相手の男は、意気消沈して、それまで見せたこともない態度をあからさまに見せるようになり、見ていて、気の毒になるほどであったが、それも、本人の自業自得、さくらが悪いわけではない。
 さくらは、そんな風に考えたのだった。
 その次にさくらが付き合った男性は、さくらの方から告白した。相手はビックリしていたようだが、その態度を可愛らしいと思ったほどだった。
「タイプだったの?」
 と聞かれると、
「いいえ、そんなことはないわ」
 と答えるだろう。
 人が、タイプだったのか聞いてくるというくらいに、その人は、これといっての特徴がなかったのだ。
 しかし、第六感とでもいえばいいのか、さくらには、
「どこか、ピンとくるものがあった」
 としか言えないところがあったのだ。
 その人は、誰もが、特徴がないと思えるほど、平凡を絵に描いたようなタイプの男性だった。
 だから、さくらが興味を持ったということが、まわりには、不思議だったようだ。
 というのも、今までのさくらは、
「好きになれらたから好きになる」
 というパターンだったのだが、それは、ある意味逆だったのだ。
「さくらは、それだけ、自分を分かっていなかった」
 ということになるのではないだろうか?
 他の人が興味を持つことに対して、その思いを冷めた目で見ていたのだ。
「どうして、あんな人が騒がれるのかしら?」
 と、男性アイドル養成プロダクションに所属している男性アイドルは、さすがに、
「イケメンぞろい」
 思春期の女の子から、結婚適齢期と言われるくらいまでの女性は、少なからず一度は、男性アイドルに夢中になる時期があったことだろう。
 そういえば、最近では、結婚適齢期という言葉も、色褪せた言葉になってきている。
「昔だったら、20代がそういわれていたかしらね。30代が近づいてくれば、皆焦りを覚えたものよ」
 と、母親世代はそう言っていた。
 母親は、そろそろ50歳が近いくらいではないだろうか。30前の子供だったので、決して早くに生まれた子供ではない。むしろ、
「高齢出産に近いくらい」
 であった。
 ただ、30代でも、普通に子供を産む人が産むので、そこまで心配はしていないと言ってはいたが、やはり最初の子供は怖かったようだ。
 ちゃんと生まれて、普通に育ったから、今では笑い話になったようなもので、その時は真剣に、心配をしていたという。
 そんな母親の心配性なとことが、さくらにもあり、普段はそれほど表に出すことのない性格であるが、たまに、行き過ぎと思うくらいにその性格が表に出てくることがあった。
「たまにそういう性格が出てくるというのも、あまりいいことではないのかな?」
 と感じるようになっていたのだ。
 母親からは何も言われないのは、母親が天真爛漫な性格で、あまり、人のことを気にする性格ではなかったからであろうか?
 さくらも、そういう性格だった。
 というよりも、
「他人を意識しすぎると、相手にも悪いし、自分がブレる」
 と思ったからだ。
「自分をブレさせたくないという思いは正解であったが、相手に悪いという思いは、少し考えすぎだった」
 という気がするのだ。
 さくらは、母親に感謝の気持ちを持ちながら、
「どこか似たところがある」
 とは思っていたので、それがどこかを考えるようになった。
 すると、一つ思いついたのが、
「一本筋が通っている」
 ということであった。
 いい意味なのか悪い意味なのか分からないが、確かに一本筋が通っている。ただ。それは、
「融通が利かない」
 ということでもあり、それは一般的にあまりいい意味ではないということが分かっていたので、それ以上、聴くことができなかった。
 融通というものは。誰に対しての融通なのだろう?
 その他大勢に対しての融通など、とてもじゃないが、利かせられるものではない。それをしようとすると、いろいろなところでの忖度が必要になってくる。
「融通なのだから、忖度も必要なのは当たり前じゃないか」
 という人もいるだろう。
 しかし、さくらには、そうはおもえなかった。
「融通を利かせる」
 というのは、
「自分でも理解していることを、変えることなく、もちろん、忖度もなく、人にぶつけることだ」
 と思っていた。
 それで、相手が納得してくれれば、
「融通を利かせた」
 ということになるわけで、それだけ、制約も大きく、うまくいけば、達成感に溢れることであろう。
 しかし、一般に言われている、
「融通を利かせる」
 ということは、そこまで厳しいものではない。
 大前提である。
「自分を変えない」
 というところから、すでに揺らいでいるのだ。
 だから、誰にでもできることであり、できないとすれば、
「自分には、融通を利かせるなどということはできない」
 と思い込んでいる人なのではないだろうか。
「人に合せるために、自分を変える」
 ということは、
「自分に妥協する」
 ということであり、それを容認できる人とできない人の間では、
「大きな開きがあるのではないか?」
 と、さくらは考えていた。
 というのは、さくらにとって、
「人を好きになる」
 というのは、
「自分にとっての妥協のようなものだ」
 と思っていた。
 というよりも、
作品名:遅れてきたオンナ 作家名:森本晃次