遅れてきたオンナ
まず、長い歴史の中でも、そんな悪魔的なことができるのは、
「聖徳太子以外にはいない」
といって。良くも悪くも、
「特殊能力を持った人間」
ということで、崇められるだけの人物だったのだろう。
そういう意味で、
「まわりの人、それぞれで違う態度が取れる」
ということは、聖徳太子に匹敵するくらいの能力だ。
つまりは、
「毎回、同じ人には同じ対応で貫ける」
ということだろうから、すべての人物に対しての対応を覚えているということだ。
これこそ、
「十人の話が聴ける」
という聖徳太子の能力に匹敵するものではないだろうか?
それは、聖徳太子に対しての逸話と同じで、
「どこまで、皆同じだといえるだろうか?」
ということである。
聖徳太子の場合は、信じる人もいるだろうが、誰でもない、一般の女性である彼女にそんな力が備わっているなどということを、誰が信じるというのだろうか?
それを考えると、
「人のウワサというのは、いい加減なものだ」
と言われても仕方のないことではないだろうか?
表情によって、性格が変わるというよりも、その時の心境によって、表情が変わってくるというのが真相であろう。
もっとも、それは彼女に限ったことではなく、他の人もほとんどがそうであろう。
彼女の場合は、
「それだけ表情が豊かになるほど、顔の筋肉が柔らかいのかも知れない」
ということと、
「表情が、人よりも多種多様であり、百面相といわず、百五十面相くらいのものを持っているのかも知れない」
と言われるほどであった。
「じゃあ、彼女の性格というのは、どういうものなのか?」
と聞かれると、
「豊かな表情に沿っただけの、喜怒哀楽が激しい」
という人もいれば、
「冷静沈着で、起こったところを見たことがない」
という人もいる。
ということは、彼女の場合は、
「性格も表情のように様々なのだろうが、それを表す相手も、選んでいる」
ということになるのだろう。
その場合は、自分の意思によるものなのか、それとも、無意識の行動なのだろうか?
さすがに、そんなことを本人に聴けるはずもなく、ただ、ほとんどの人は、
「無意識なんじゃないかな?」
といっているようだった。
もっとも、これを自分の意思でコントロールできるようなら、大変な才能である。まわりの人の心境としては、
「それを認めることはしたくない」
という思いに繋がるのではないだろうか?
それを考えると、さくらという女性は、
「掴みどころがないように見えるが、冷静沈着なところが表に出ていて、実に分かりやすい性格をしているのではないだろうか?」
と思っている人が多いようだ。
ただ、人によって、同じように、
「冷静沈着に見える」
といっている人でも、勘違いをしている人もいるようだった。
彼女の場合は、冷静沈着に見えるのを、
「いつも何かに怒っている」
と感じている人もいるようで、それが、
「他人を寄せ付けない」
というような雰囲気を醸し出しているようであった。
それを初めて感じたのは、いつの誰だっただろうか?
ただ、今のような保険の外交員としては、意外と似合っているようで、契約もそこそこ取ってくる。
かわいらしさというのを、あざとさから武器にしている外交員もいるが、彼女の場合はそんなことはない。
しかも、人によっては、
「いつも怒っているように見える」
と思っている人でも、契約に持ち込めるくらいなのだ。
きっと、他の人にはない、何かを持っていることであろう。
それを考えると、
「私は、意外と、外交員として向いているかも知れない」
と思っていた。
ただ、
「ずっとできる仕事でもない」
とも思っていて、ある程度の時期まで勤め上げて、その後、どうしようかというのは、まだ青写真もできていないようだ。
「何をやりたい」
というわけではないが、要するに、一つところにとどまって、ずっと仕事をするというタイプではないということで、ひょっとすると、
「保険の外交員は続けるが、別の会社に移籍をしよう」
というくらいのことは思っているかも知れない。
ただ、今の時点では、それ以上のことは、何も考えていないといってもいいだろう。
保険の外交員を続けていれば、どうしても、相手の若い男性と、かかわりを持つことになる女性も少なくないだろう。
彼女も、いろいろ目標を持っていながらも、
「一人の健康的な若い女性」
であることに変わりはない。
そのことを自分でも分かっているし、まわりの若い男性も、そういう目で見ていたようだ。
保険外交員もさまざま、自分から、肉食を表に出して、オーラを醸し出している女性もいるだろう。
または、あたかもそういうことはタブーだということで、自らにそういうことを戒律溶化して、言い寄ってくれば、外交員であっても、許さないという毅然とした態度に出る人もいる、
それは、当然成績に跳ね返ってくることであって、そういう女性が成績を延ばすということはなかった。
さくらの場合は、そのどちらというような態度ではない。しかし、普通にしていても、醸し出されるオーラというのはあるもので、その彼女の態度は、内側からのオーラで、イメージとしては、
「静かに燃えている」
という感じであった。
どこか、奇怪なオーラであり、下手をすれば、
「人を遠ざけるのではないか?」
と思えるようなものだった。
それを、彼女は分かっておらず、自分を避けるようにしている男性が、どうしてそういう態度を取るのか分からなかった。
もっとも、
「嫌われたのかしら?」
と、単純に感じ、
「去る者は追わず」
ということで、他に食指を延ばすようにしていたのは、フットワークの軽さという意味ではよかったのかも知れない。
そういう意味ではサッパリとした性格も持っていて、そこが、却って男性の目を引いているようだった。
さくらにも、彼氏と呼ばれるような男性ができた。
学生時代にも彼氏がいなかったわけではないが、なぜか、いつも自然消滅していた。最初は、中学生の頃、相手に告白されて、付き合い始めた。思春期だったこともあって。普通に告白されれば、当然嬉しいというもので、彼女とすれば、憧れていた、男性との付き合いであり、甘んじて受け入れたのだった。
最初の2カ月くらいまでは、
「中学生らしい、純粋な交際」
をしていたのだが、なぜか、彼が次第に連絡をしてこなくなった。
気にはなったが、それを確かめるだけの勇気が、さくらにはなかったのだ。
「ウブだった」
といってもいいだろう。
確かに、
「本当に好きなのか?」
と言われると、正直分からない。
しいて言えば、
「好きになってくれたから、好きになった」
というのが本音だっただろう。
だから、相手にその気が薄れていったのであれば、
「こっちが追いかけてもしょうがないのではないか?」
という思いがあったのも事実で、自然消滅ということであるなら、致し方ないと思っていたに違いない。
また、次に交際したのは、高校生の頃だっただろうか。その人からも交際を申し込まれ、断る理由もなかったことから、付き合い始めた。