中二病の犯罪
普段は、兄を徹底的に慕っているようで、隆への慕い方もハンパではなかった。
隆も、妹がいないので、妹がほしいと絶えず思っていて、最初から、妹がいる二人を見ていて、
「羨ましい」
と思っていたようだ。
「俺には、妹がいない。なぜなんだろう?」
と、真剣悩んだ。
自分は一人っ子で、兄弟がいないので、兄弟がいるところが羨ましかった。ただ、性格的には、
「いつも一人でいたい」
と思っている方なので、兄弟がいないのは、都合はよかったのだろうが、子供の頃はそこまで感じてはいなかった。
以前に、母親に、
「どうして、僕には兄弟がいないの?」
と聴いたことがあったが、困ったような顔をしていた。
大人になってから、分かったことだったが、どうやら、家計などの問題と、母親が身体があまり丈夫でないということから、両親が病院の先生n相談した結果、
「子供はこれ以上は作らない」
ということにしたということであった。
だから、いくら、隆が望んでみたところで、それは、
「無理難題」
というものだった。
隆に、
「兄弟がいないの?」
と聞かれても、どう答えていいか分からない母親としては、辛かったことだろう。
幸いなことに、それ以上、母親に聞くことはなかったので、母親も、この件に関してはつらく感じることはなかったであろう。
そう考えると、
「隆の性格が、一人きりが好きな性格」
というのはよかったのかも知れない。
妹の方から慕われたことで、少々有頂天になった隆だったが、そんな時に、兄貴の方が自分を見ている目が、少し怪しかったということに、気付いていなかった。
子供だということもあるし、有頂天になっている状態で、
「異変に気付け」
というのは、土台無理なことだったに違いない。
きっと、兄貴の方は、自分の立場を奪われたということで、面白くなかったに違いない。もちろん、
「この宿にいる間の、一日か、長くても数日の間のこと」
それなのに、子供にそんな理屈が通じるわけはない。
結果、3日間一緒だったのだが、感じとしては、その三日間が
「限界だったのではないか?」
ということであった。
3日間の間に、一緒にいた時間がそんなにあったわけではなかった。それぞれに家族があって、温泉に来たのも、そのまわりの観光が目的であり、もっとも、それは子供が望もうが望むまいが、親が決めたコースを連れて回るというものだった。
そういう意味で、子供に拒否権はなく、子供の頃に親が決めた家族旅行を、
「親の自己満足のために付き合わされているだけだ」
と思っている子供も少なくはなかっただろう。
完全に、子供は、ダシに使われているということであり、今のところ、不満はないので、嫌だという気持ちはないが、いずれは、
「親と旅行するなんて、何が面白いんだ」
と思うようになるだろう。
ただ、今回の旅行でもそうだったのだが、宿に着いて、疲れ果てている親を尻目に、子供はそれまで、抑圧されていた行動を、解き放たれたような気がするので、一気に弾けた気分になるのだが、それを親が、
「あんたも休みなさい。そんなに慌てて遊ぶ必要はないでしょう」
と、言葉は優しかったが、子供としては。
「一体何を言っているんだ?」
とばかりに、行動抑制をしてくることに、不満を抱いていたのである。
子供である隆は、まだその時、自分の性格を把握していなかったが、最近になって分かってきたこととすれば、
「自分は、まわりの人と違っている」
ということを、結構早い段階から分かっていたと感じたことである。
今から思えば、小学校高学年くらいの頃から、分かっていたような気がする。だから、まわりの友達から、自分が浮いていると思ったことがあったように思うからだ。
さすがに、小学生の頃は、それが嫌だった。無理にでも、子供の間でのいくつか存在している、派閥のようなグループのどこかに、強引に入り込もうとして、弾き出されたことが何度もあった。
そのせいもあってか、
「俺は、誰からも受け入れならないのか?」
と感じながらも、さらに、強引にどこかに入り込もうとするので、まわりからは、疎まれる。
それが嵩じてしまって、六年生になった頃から、まわりから、
「苛め」
のようなものを受けるようになったのだった。
中学生になっても、それがやむことはなかったが、実質的な苛めというより、クラスの中で、無視されるようになったのだ。
昔でいえば、
「村八分」
と言われるもので、今でいえば、
「ハブられた」
と言えばいいのだろうか。
しかし、一人でいることの方が好きだったわりに、クラスからハブられたことは、さすがにショックであり、結局、学校にいけなくなり、不登校になってしまった。
そのまま、
「引きこもり」
となったのだが、それが、実は自分の性格を分かることに繋がるとは、面白いものだった。
家に引きこもっていて、何をしているかというと、最初は、誰もが通る道とでもいえばいいのか、ゲームに夢中になることだった。
ゲームに夢中になっていると、実は、結構きつくなってくるのを感じた。そして、そのうちに、
「これの何が面白いんだ?」
と感じるようになったのだ。
確かに、攻略していって、レベルを上げていき、点数を獲得していく。それなりに楽しいとは思うのだが、結局、
「皆同じことをしていて、楽しくない」
と思ったのだ。
クリエイティブな感覚がない。それがなぜなのかと思っていたが、すぐに分かった気がした。
というのも、
「皆、ゴールが同じだ」
ということだ。
人が作った道をゴールに向かって突き進んでいるだけで、そこに、想像性というものはない。
自分の個性を発揮できるものがないと思うのだった。
「だったら、何か、自分で創造物を作りたい」
ということで始めることにしたのが、小説執筆である。
今は、引きこもっていても、ネットでいろいろと調べて、やりたいことに突き進むことができる。
クリエイティブなことを目指している人も一定数いるが、まだまだ人は少ない。それも、隆にとってありがたいことだったのだ。
創作というものの楽しさを味わえば、
「ゲームなどというものに、うつつを抜かしていた自分が恥ずかしい」
というくらいに思えてきて、
「最初の小説をどんなネタにしようか?」
と考えた時に思いついたのが、
「小学生の時に連れていってもらった温泉でのでき事」
だったのだ。
あの、妹が兄にべったりという関係に、自分が入った時の、少し歪になっていった関係を思い出してきたのだった。
隆は、主人公を、敢えて妹とした。
「妹が兄を慕っているという感情をいかに表すか?」
ということが、小説のキーであり、ハイライトに持っていくことにしたのだ。
主人公を敢えて、
「妹にしよう」
と考えたのは、隆が自分の性格を、
「女性的なところがある」
と思ったからだ。
思春期になり、クラスの女の子のことが気になっていたのは、他の男の子と変わるわけではなかったのだが、どうも、皆と違うところがあった。
まわりの男の子たちは、女性というものを、
「いやらしいものの象徴」