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悪い菌

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 という雰囲気もあり、それは20代の頃であれば、
「まだまだ経験不足なことへの皮肉な言い方」
 という感覚であったが、今の場合は、
「心に余裕ができたことで、強気が、少し増してきたからなのかも知れない」
 と思われるようになったのだった。
 彼女が、その作家と付き合うようになって3年ということは、ちょうど、例の、
「世界的なパンデミック」
 が流行り出してからのことだった。
 最初の一年目は、
「なるべく人と接触しない」
 ということで、やり取りもリモートで行い、原稿もメールなどで行われていた。
 だから、まさかこの時期に、しかも、桃子が男性と付き合始めるなど、誰も想像もしていなかったことだろう。
 だが、桃子とすれば、リモートが却ってよかったのかも知れない。
 それは、桃子にだけ言えることではなく、作家側にも言えることであった。
 普段は、桃子も作家の側も、お互いに面と向かっているが、正面切って見つめ合うようなことはなかった。
 作家の方も、どこか怖がっている雰囲気も否めなく、その雰囲気が分かるだけに、桃子の方でも、遠慮になるのか、気遣いになるのか、それとも、毛嫌いからになるのか、自分から相手を見つめるようなことはしなかった。
 だから、リモートとなって、パソコンのモニター越しであれば、遠慮なく正面を見ることができたし、お互いの話も、まともに見つめ合わないとできないということもあったのだろう。
 そういう意味では、
「相性が合わない人とも商談しなければいけない」
 という人にとっては、リモートでの商談など、面倒臭くてやりにくいのは、他の人と変わりはないのだろうが、面と向かえるという点では、実にありがたいといってもよかったのだろう。
 そういう意味で、二人は、そこで、実際の距離は遠くても、心の距離は縮まったのかも知れない。
 そんな桃子は、二年目くらいから、リモートも徐々に解除され、普通の商談ができるようになると、お互いに、今までリモートがほとんどだったこともあって、普通に面と向かうと、お互いに照れた気分になった。
 すると、桃子は、
「私にこんな乙女のような感覚があったんだわ」
 という思いがあったのは事実だということと、相手の彼が、自分以上に照れているのを見て、
「ここまで、私のことを気にしてくれていたんだ」
 と感じ、感無量になっていた。
 彼女が彼に恋心を抱いたとすれば、この時だったのではないだろうか?
 それを思うと、
「私、初めて男の人を好きになったのかも知れない」
 と感じた。
 学生時代を通して、男性と付き合ったことはなかった。
 大学に入った時は、
「4年間もあるんだから、その間に、男の一人や二人」
 と勝手に、妄想していたのだが、実際には、一人も付き合った男性はいなかった。
 そもそも、男性と付き合うということに憧れがあったわけではない。
「付き合うに値する相手がいれば、付き合えばいいんだ」
 という程度に思っていた。
 そもそも、桃子は自分の体型にも容姿にも、コンプレックスを感じるようなところはなく、
「普通にモテるはず」
 というほどに、自惚れと言っていいほどのものはあった。
 もっとも、女性というのは、たいていの人がそれくらいの自負はあるというもので、彼女もその一人だった。
 実際にモテたりはしなかったが、諦めのようなものはなかった。それよりも、
「自分にふさわしいと思える男性もいない」
 ということで、
「別に焦ることはない」
 と思うのだった。
 その思いが成就したのが、30歳になってからというのは、本人としても、さすがに、
「遅かった」
 とは思ったが、だからといって、
「別に悪いことだ」
 という感覚もなかった。
 自然とそういう関係になる相手が現れたということで、それはそれで、いいことだと思ったのだ。
 この3年間の間で、本当の恋人気分を味わったのは、それほど長くはなかった。付き合い始めてから、半年くらいであろうか。
「それくらいは普通じゃない?」
 と言われるかも知れないが、これまで30年、男性との関係がまったくなく、しかも、相手は自分の担当作家。
 本人は隠すつもりはなかったが、少しは気を遣うところは普通にあった。そういう意味で、蜜月と言われるような時期が半年というのは、桃子の中では、
「短いじゃないかな?」
 と感じさせるものであった。
 最近では、実際に逢うことも少なくなった。もちろん、担当作家として、原稿の話などで寄ることはあったが、お互いに愛し合ったりということは、なくなっていたのだった。
 どちらかが求めるということもなかったが、別に、
「倦怠期」
 だとも思っているわけではなかった。
「こんなものなんだろうか?」
 と、桃子は思ったが、相手の方が、何を考えているのか分からないと思えてきて、そこに距離を感じると、いつの間にか結界のようになって、それ以上、向こうにはいけなくなった気がした。
「これで付き合っているといえるのだろうか?」
 と桃子は感じるようになってきたのだが、
「いや、付き合っているんだ」
 と、根拠のない思いを抱いているということも分かっていた。
 だから、最近の桃子は、何にでもオープンになり、隠し事のようなものはまったく見られない。
 だが、却ってそれが、まわりに別のイメージを与えてしまい、ミステリアスな雰囲気を醸し出させているようだったのだ。
 そんな桃子が、最近になって、心細くなっているのを、まわりの誰かが気づいただろうか?
 何となく、雰囲気的に、変わってきて、むしろ、
「大人の女の魅力」
 そう、
「妖艶な雰囲気」
 を醸し出しているようだった。
 それは、ある意味、
「心細く思っているのに、それを知られたくないという自衛の本能から、殻のようなものを作ってしまい、それが、まわりの人に、大人の女の妖艶さという感覚に繋がっていたのではないだろうか?」
 と感じさせるのであった。
 そんなことを考えるようになると、ここ最近、定期的にであるが、熱が出るようになってきた。
 といっても、ちょっとした微熱であり、まったく仕事に支障があるというわけでもなく、微熱が出るというというのは、仕事が終わって、部屋に帰ってからしばらくしてのことであった。
「週に一度くらいの割合かしら?」
 と思っていたが、実際には、2回はある計算になるようだった。
 きついという感じがない分、精神的に、何かがポッカリと開いてしまっているかのように感じるのだった。
 今年になってから、自分でも、
「週に2回くらい」
 という自覚が出てきて、そう思うと今度は、自分の中に、何らかの心細さのようなものが芽生えてきたということに気づくのだった。
 その心細さが、最近は顕著になってくると、
「心細くなってきたから、微熱が出るようになったのか?」
 あるいは、
「微熱が出るから心細くなったのか?」
 というどちらなのかということを考えてみると、本人としては、
「どちらともいえない」
 としか思えなかったのだ。
 仕事も、少し休み気味になってきた。
作品名:悪い菌 作家名:森本晃次