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探偵小説マニアの二人

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 つまり、風俗の中でも、デリヘルというシステムがあるからで、基本的には、まず、男性が、ホテルの部屋に入室する。そこから、デリヘルの受付に電話を入れ、女の子を指名するか、フリーであれば、空いている女の子をお願いする形で、相手に今自分がどのホテルの何号室にいるかということを伝えるのだ。
 すると、女の子に連絡をつけ、数分後に部屋に向かうということを告げておいて、男性は、ホテルで、シャワーを浴びるなどして、待っているということになる。
 何といっても、先にシャワーを浴びていれば、女の子の拘束時間は決まっているので、いきなりプレイに入ることができるというわけで、その分、時間をうまく使うことができるというわけだ。
 それが、今のデリヘルというシステムなので、男性が一人でホテルに入るのは、当然であり、今はそっちの方が主流なのかも知れない。
 昔のように、男女が、こそこそしながら、ラブホに入るなどという光景は、だいぶ減ってきたことだろう。
 だから、ラブホの駐車場には、ワゴン車が結構いて、中で、ドライバー一人がいることがある。その人は、デリヘルのドライバーで、
「女の子の送迎係」
 ということであろう。
 ただ、デリヘルという業態は、そんなに昔からあるわけではない。昭和の昔にあったとは聞かない。
「普通のヘルスですら、昭和の頃となると、少ないかも知れない。だって、ソープが、まだトルコ風呂だった時代だからな」
 と、風俗の歴史に詳しい人はそういうだろう。
 そもそも、昔は、ホテルを使った風俗というのは少なかっただろう。
「チョンの間」
 と言われるようなものでも、昔の赤線、青線の流れから、ホテルを遣わずに、
「自分たちが経営しているバーの奥の部屋」
 という形態が多かったのではないだろうか?
 ひろ子はそんな時代を知る由もない。年齢としては、今、35歳くらいなので、生まれた年が、
「平成か昭和か?」
 という境目くらいであおうか。
 もちろん、そんな古い時代の話は人から聞くか、自分で調べるか、フリーライターなどをしていると、ある程度は知っていないといけない部分もあるというものだ。
 ひろ子が、ちょうど、出版社に勤めていた頃の、今から10年くらい前であろうか。まだ、小説家の道をあきらめきれなかったくらいの頃に、ちょうど世間では、
「自費出版社系の会社」
 が問題になっていた。
「本を出しませんか?」
 という文句で誘い、
「原稿を送ってください」
 という言葉に乗せられて、原稿を送ると、相手から、今まででは信じられないような、親切丁寧な批評を書いて送り返してくるのだ。
 文学賞に応募しても、分かるのは、
「合否」
 だけである、
 つまり、
「合否だけは教えるが、審査に対してのことは一切、答えられない」
 という実に閉鎖的なものだった。
 だから、どんな審査が行われているのか分かったものではない。そうは思いながらも、持ち込み原稿を持っていったとしても、どうせ、すぐんいゴミ箱に放り込まれる運命だということは分かり切っている。
 それを考えると、
「持ち込み原稿」
 による直接の査定か、あるいは、
「新人賞などでの入賞」
 ということでの実績でもなければ、小説家への道は一切なかったのが、自費出版社系が出てくる前のことであった。
 それを考えると、ちゃんと読んで批評までしてくれるわけだから、原稿を送った人が信用するのは当たり前だった。
 もっとも、それが相手の狙いである。
 しかも時代は、
「バブル経済」
 が弾けることで、会社での仕事の仕方が、まったく変わってしまった。
 それまでは、
「24時間戦えますか?」
 という言葉があるほど、
「企業戦士」
 として働かされていた。
 しかし、その分給料はもらえた、つまり、事業を拡大すればするほど、儲かるという、単純な時代でもあったのだ。
 それが破綻してくると、今度は逆に、事業を縮小し、人をどんどん切っていき、雇用形態を正社員からパートなどにシフトし、
「支出を減らす」
 という方法にシフトしていくのだ。
 そのせいもあってか、
「残業はしない。経費は節減」
 ということになり、会社が5時に終われば、そこからどうするか?
 ということになった。
 お金を持っている人は、その時の貯蓄で、趣味に走ったりするのだろうが、それを怖いと思い、
「少しでも金のかからない趣味」
 ということで、筆記用具か、ワープロ1台あれば、後はそんなにお金がかからないし、
「うまくいけば、プロも目指せる」
 という小説家を目指すという人が増えてきた。
 だから、
「自費出版系の会社」
 が台頭してきたのである。

                 出版社の悪夢

 そんな会社があることで、小説家を目指したいと思う人が爆発的に増えた。
 何と言っても、原稿を送るだけで、批評をしてくれて、自分がどの程度なのかの判断ができるのはありがたかった。
 しかし、それが自費出版系の会社の、罠でもあったのだ。
 というのは、他のどの方法を使っても、自分の評価は誰もしてくれない。となると、自費出版系の会社がしてくれる評価が、すべてということになり、その相手から、
「あなたの作品は素晴らしい。しかし、出版社が全額というわけにはいきません。半分はこちらで負担します」
 と言われると、その気になる人が多くなるのも当たり前というものだ。
 本を出したいと思い、お金をはたいてでも、出版したいという人も増えてきて、一時期、そんな自費出版の会社が、
「年間、出版数で日本一」
 ということになれば、世間の話題も集まるというものだ。
 著名人などが、そんな出版社をほめたたえたりすれば、さらに信用する人も増えてくる。何と言っても、そこに実は出版社、著名人、本を出したい一般人との間に溝があるのだった。
 というのは、著名人としては、
「出版するだけ」
 という意識だったのだろうが、本を出す一般人としては、
「本を出すことで、プロ作家の仲間入り」
 という気持ちもあっただろう。
 そこには、
「本が売れる」
 という思いもあったのかも知れない。
 だから、本が売れて、少しでも出した金が返ってくるということを望む人もいるだろう。当然中には、本当に儲かるとでも思っている人もいたかも知れない。借金をしてでも、本を出したいと考える人もいただろうからである。
 しかし、世の中はそんなに甘くはないのだ。
 ひろ子は、すぐにそのあたりの、
「カラクリ」
 には気が付いた。
 というのは、出版社の最初の言い分、そして、本を作る時の契約には、
「有名本屋に、一定期間、並べる」
 ということになっていたのだ。
 もっとも、一定期間というのがどれくらいなのかを明記しているわけではない、もちろん、本によって、その期間が別れるのは仕方がないというのも、作者には分かっていただろう。
 それでも、少しくらいの間、並ぶのであればとばかりに、少しでも、淡い期待をかける気持ちも分かるというものだ。
 だが、実際に考えれば、
「そんなバカなことはないのだ」
作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次