探偵小説マニアの二人
「それは確かにそうかも知れませんが、果たしてそうなのか、実際には、視聴者数から考えると、もう少しにぎわってもいいような気がするんですよ。そこへ取材のオファーが来たので、我々としても、乗っかりたいと思い、お互いに、願ったり叶ったりではないかと思うようになりました」
と彼女は答えた。
「なるほど、私たちも、温泉街の町おこしの一環となれればいいと思いますよ」
と、ひろ子は言った。
「どうもありがとうございました。さっそく現地に行ってみることにします」
というと、
「どうやって行かれるおつもりなんですか?」
というので、
「確か路線バスがあると思ったんですが」
というと、
「ああ、でも、あのバスは、1時間に1本もありませんよ。結構路線バスとしては、致命的に便の悪いところですからね」
というではないか。
「そうなんですか?」
といって、自分が思ってよりも楽天的に考えていることを知った。
いくら都会の市内とはいえ、どうやら、少なからずの見方を変える必要があるということを感じさせられたのだった。
「温泉宿では、団体のためのマイクロバスを用意しているので、お迎えにこさせましょう」
と彼女は言った。
「ああ、それは有難いですね」
というと、
「いえいえ、わざわざ取材に来られるんですから、街の方でも歓迎してくれると思いますよ」
と彼女がいうので、自然とひろ子も、自分の中で、想像していたよりも、ハードルを上げているということに気づいていたのだった。
二人の話はそれくらいにしておいて、さっそく彼女は連絡を取ってくれているようだ。
「今からこちらに来られるということなので、たぶん、40分くらいかかると思います。一応、街はずれにはなりますからね」
と言われて、下調べをしておいたひろ子にはそれくらいのことは分かっていたつもりだった。
ただ、路線バスに関しては、
「どうして失念していたんだろう?」
とばかりに考えたが、そもそも、今までも入念に調べたつもりであっても、何か一つはおろそかになることも多く、
「人間だから、しょうがないか」
といって、自分を納得させていたということもあって、いつも、失念しているのに、毎回同じようなことを繰り返すのは、そんな感情があるからではないだろうか?
と感じるのだった。
ひろ子はその間、市役所を見て回ることにした。
「来たら連絡を入れますので」
ということだったので、約40分、市役所の表に出て見るのもいいかと思ったが、せっかくだから、ここから比較的近いと言われている、セントラルパークの、
「戦没慰霊碑」
にお参りすることにしたのだった。
「戦没慰霊碑」
というのは、大きな壁が、不規則に崩れたかのような形になっていて、説明書を見れば、
「爆弾や焼夷弾によって、破壊された建物をイメージしている」
ということであったが、言われてみれば、まさにその通りだったのだ。
「戦没慰霊碑というものは、あまり真面目に見たことはなかったな」
とひろ子は思ったが、さすがに修学旅行で行った広島の、原爆の慰霊碑や、原爆ドームのある、
「平和公園」
だけは、真剣に見たものだった。
何しろ、原爆投下のほぼ爆心地である、あの場所で、倒壊もせずに、70年以上も佇んでいるのだから、見ただけで圧倒されるかのような気がしてくるのも当たり前といってもいいだろう。
それを考えると、
「やっぱりすごい、もっと他の慰霊碑も機会があれば回ってみたいな」
と思ったはずなのに、今のところ、そこまでできていないのは、高校生の時の純粋な気持ちが失われていたからではないだろうか?
そんなことを考えていると、今回、
「待ち時間があるため」
という理由があったからといって、実際に気にして見た慰霊碑というものは、原爆による異例人は違って、こちらはこちらで感慨深いものがあったといってもいいだろう。
「原爆というと、皆が注目し、かわいそうだということになるのだろうが、大都市への無差別爆撃というのも、かなり悲惨だった」
ということを聞いたことがあった。
そういう意味で、それほど注目されることのないものを、今自分だけで気にしていると思うと、戦没者から今、
「自分だけがそのご加護を受けているような気がする」
と感じるほどであった。
壁に彫られているもので、火災の中を逃げ惑う人たちの姿が生々し。
「やはり、戦争なんて、簡単に引き起こしてはいけないんだ」
と、いまさらながらに思い知らされるというものだった。
「戦争は、原爆だけではないですからね」
といっていた人がいたが、まさにその通りではないだろうか?
確かに、一発の爆弾で、10万人弱の人が、被害に遭ったというわけなので、どれほど悲惨だったのかが分かる。
ただ、原爆の恐ろしさは、その威力だけではなく、副産物としての、放射能というものが、どれほど恐ろしいものかということを教えてくれた。
だからこそ、約10年前に起こった地震によって、政府があれだけ、
「安心だ」
といっていたものが、あれだけもろくも事故を引き起こすのだ。
民間の電力会社も、国も同罪で、特に国や政府は、暴言を吐きまくり、結果、せっかく取った政権を一期だけで、また前の政権に返還するという無様なことになってしまったのだ。
それを思うと。
「政府が、日ごろから、どれだけ国民をバカにしているのか」
ということが分かるというものであった。
政府にとって、こんな時代がいいのか悪いのか、そんなに政権にしがみつくことが、自分たちに、
「うまい汁を吸わせてくれる」
ということになるのか?
そんなことを考えていると、
「国民であることが、恥ずかしい」
と言えるくらいだった。
戦没慰霊碑を見ていて、そこまで考えるのだから、今までにも、結構政府批判の話も、ジャーナリストとして聞いたものだ。
ということを思い出させるものであった。
ひろ子は、戦没慰霊碑の前で、どれだけの時間佇んでいたというのか、
実際に時計を見ると、10分くらいしか経っていなかった。とりあえず、市役所の建物に戻ってみることにした。
市役所の建物は、老朽化している部分と、まだ新しいと思える部分がまだらになっているのを感じた。
「これは、補修補修で、本格的な改修を行っていないという証拠なのではないか?」
と思い、
「県内でも有数の大都市の市役所がこんなものなのだから、県庁所在地の市役所といっても、高が知れているのではないか?」
と感じるのだった。
実際に、まじまじとは見たことはなかったが、県庁所在地の市役所には時々赴いていた。やはり取材目的であり、いつも違う課だったような気がする。
そう考えると、
「知り合いらしき人はいないな」
と感じた。
そういう意味では、今日いろいろ教えてくれた彼女などは、
「知り合いとして認知してもいいくらいだわ」
と感じたのだった。
ひろ子は、今までに、友達になった人の数とすれば、他の同年代の子たちに比べても、圧倒的に少なかったように思う。
「学生時代から、暗い性格だったから」
作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次