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探偵小説マニアの二人

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 そういう意味でも、ひろ子の謎解きは、女将にセンセーショナルを巻き起こし、ひろ子自身も。自分に自信を持つことができたということでは、お互いによかったということであろう。
 ひろ子は、そんなことを考えながら、また、この温泉にやってきたことで、
「作家として、今一度頑張って挑戦してみよう」
 と思ったのだ。
 完全なアイデアを持っているわけではないが、これまでにいくつかのアイデアをメモにまとめてきているので、
「それを生かせる時がきた」
 と思うのだった。
 そういえば、昔読んだ探偵小説の中で、死体が見つかるというパターンの中で、よくあるものとして、
「温泉地などの奥の方に、滝があり、その滝の近くにある祠のあたりで、女性が死んでいる」
 というシチュエーションがあったような気がした。
 もちろん、自殺の場合もあるだろう。
 昔のような、理不尽なことばかりだった時代を思えば、好きな人と結婚できないところか、食べていくためという理由だけで、どこかに売られるということ、さらに、もっと古い時代などは、今の時代からは信じられないことであるが、
「お城をつくるためも、人柱」
 ということで、何ら落ち度もないのに、ただ、
「キレイな娘」
 というだけで、都市伝説として、生き埋めにされるという、信じられないこともあるのだった。
 そんな時代に、人柱に決まってしまった娘であれば、世を忍んで、自分から命を絶つということもあるだろう。
 もっとも、死ななければいけない人などいるはずもなく、今であれば、
「なぜ、こんなことが、平気で行われる?
 ということである。
 お城普請に関しては、工事責任者としての、請け負っている人たちは、完成すると、その秘密をばらされないように、謀って、秘密をばらされないようにするということを理由に、建築後に、暗殺される。
 ということは、当たり前に行われていた。
 それが、
「昔の時代における、秘密を守るため」
 ということで露骨に行われていた。
 しかし、今のアニメや漫画では、
「そんな理不尽なことはいけない」
 として、それらのことを、
「成敗する」
 という番組が流行ったりした。
 いわゆる、
「勧善懲悪」
 というやつである。
 奥にある滝では、このあたりにもいくつもの伝説があるようで、それを思わせるように、滝つぼの横には、祠が建っている。
「あの祠が、本当に昔の伝説通りなのかということは、今いろいろ、研究が進められているところです。だから、時々、この宿には、昔のことを研究されている偉い大学の先生とかが、時々お泊りになることがあるんですよ」
 と女将さんは話した。
 ひろ子は、女将さんの話を聴いていると、どうしても、前の時の謎解きを思い出すせいか、ついつい、言葉の端々を読み取ろうというくせがあるようだ。
 そのことを考えると、
「どうも、私はここの女将さんから、洗脳されちゃったのかも知れないわ」
 とばかりに、
「やれやれ」
 とばかりに、頭を掻いてしまうのだった。
 ただ、女将さんが、
「勧善懲悪的な性格である」
 ということは間違いないようで、人が殺されるという理不尽なシーンになると、その声が一気にヒートアップしているように思える。
 もちろん、ただの演出だというだけのことなのかも知れないが、本当にそれだけではないような気がするのだった。
 また、この祠の奥には、何やら隠し扉ができているというウワサもある。
 ここの祠には、
「任天堂」
 という名前がついていて、近くにある城の天守に繋がっている。
 というウワサが、実しやかに囁かれているようだ。
 それも、信憑性としては、かなり高く、実際に、任天堂の奥から少し入ったところに、洞窟が続いているのが分かるという。
 ただ、その洞窟は、途中から、まるで何かに爆破されたかのように、塞がっている。城の側から研究をしている大学の研究チームの発表で、
「この城は仁和の時代に制定された、一国一城令に基づいて、天守を破壊、それに伴って、抜け穴も一緒に破壊された」
 ということであった。
 だから、通路は、途中から、石で埋まっていた。だから、ここに石が存在するようになってから、すでに、400年以上が経っているということだったのだ。
 時代は400年を経た今の時代でも、この滝つぼには、人の死が絡むような事件が脈々と受け継がれてきたのである。
 最近になってからの事件というと、そのほとんどは自殺であり、殺人事件というものは、ない。
 それを思うと、祠の近くに小さな石を組み合わせたような、墓碑がいくつかある。その墓碑について、
「あれは、祠が、お城の抜け道になっていたということで、ある意味縁起が悪いということを言い出した人がいて、自殺者の供養のためには、祠とは関係のないものにしようということになったのだが、何しろ時代が時代で、墓を作ることもできない。それならばということで、小さな墓碑銘を作ることにしたというわけなんだけど、その墓碑銘は、それから、数十年という月日が経っているにも関わらず、朽ちることはないんですよ。だから、ここには神のご加護があるのだと言われるようになって、密かに参りに来ている人もいるというわけです」
 ということであった。
 女将のその話を聴いて、
「なるほど、いろいろな言い伝えがあるんですね。確かに、ここの環境は、自殺する人が絶えないというのも分かる気がします。でも、皆よくここの存在を知っているものですよね。口伝えで伝わったんでしょうかね?」
 とひろ子は訊ねた。
 確かに、滝つぼに、祠に、お城からの抜け穴。そこに佇む小さな墓碑銘。
 その中には、曰くのあるものもあるに「違いない。
 言い方を変えれば、このような、
「昔の因縁」
 であったり、
「今の時代の殺伐とした世の中と切り離された場所」
 というのは、今のような、あまりにも、実際とは違いすぎる雰囲気が、生々しく感じられた。
 殺伐とした今の時代の世の中とは確かに切り離されてはいるが、それは、何も、
「ここが極楽浄土のような、夢のような世界」
 というわけではない。
 世の中と離れているだけに、この場所を、
「最後の地」
 として選ぶ人が多いのだ。
 死を覚悟した人は、死に場祖というのに、こだわるのかも知れない。
 ペットとして飼われているような動物の中には、
「飼い主に死に際を見せたくない」
 という思いからか、最後の力を振り絞って、飼い主から離れ、自分の死に場所を求めるという、何とも健気な動物だっているのだ。
 それを、考えると、人が自殺を考えるのも、
「死に場所を選ぶ」
 というのも、分からなくもない。
 生き続けるということに限界を感じた人が行き着く先は、死後の世界であるが、そのために、この世に有終の美を飾ろうというのか、それとも、この世に自分の爪痕を残そうという考えなのか分からない。
 ただ、生き残った人から考えると、
「死んだ人間が自分にとって、どれほどのかかわりがある人なのかに関わらず、悲しみはそれほど続くものではない」
 と言えるだろう。
 確かに、悲しい時は、人によっては、
「後追いで自殺もしかねない」
作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次