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探偵小説マニアの二人

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 特に、これをリアルな事件ではなく、探偵小説だと考えると、どこまでが本当の事件なのかということを考えてしまう。
 そこで、小説とリアルなところで、その違いが、事件の究極な発想を妨げてしまうだろう。
 探偵小説家を目指していた時代があったひろ子だからこそ、分かる部分があった。今でこそ、フリーライターであるが、取材をしながら、何かのヒントがあれば、メモに取っておく。
 そのメモというのは、
「探偵小説もネタ帳」
 であり、フリーライターのような仕事をしていると、昔の風習や、その街の伝説などが聞かれることで、いかにも、探偵小説の舞台さえ出来上がれば、いかに事件を解決に導くことができるかというものの、
「部品」
 を、書いておくという意味での、
「ネタ帳」
 であった。
 今回の女将の話は、正直、自分が書きたいような話だった。
 しかし、材料とすることはできるかも知れないが、ネタとしては使う気はしなかった。
 それだけ、リアルな内容であることで、いわゆる、
「著作権」
 というものは、女将にあるということで、そう思っていると、
「この事件を女将はリアルな事件だというが、実は女将が自分で考えたネタであり、それを他の人に挑戦するという、いわるる「挑戦状」というものを叩きつかれたかのように感じるのであった」
 しかし、女将とすれば、挑戦状をたたきつけたのに、結果としては、見事に謎を射抜かれてしまった。
 普通に考えれば、
「女将の負け」
 であり、女将の悔しがるところを想像できると思うのだが、女将が負けたという感覚よりも、
「謎を解かれる前提で、私に話をしているような気がした」
 と、後から思えば、そんな風に感じたが、それは、
「そろそろいい加減に一人くらい謎を解いてくれる人が現れてもいい」
 という思いがあったからではないだろうか。
 その思いがあったことで、女将は知らず知らずのうちに、ひろ子に、ヒントのようなものを与えていたのかも知れない。
 ひろ子自身は、そこまでの圧は感じなかったが、女将の思いが通じたのは、間違いないと思った。
「女将には、女将の思惑のようなものがあるのかも知れない」
 と、ひろ子は感じたが、
「時代設定にしても、話の内容、あるいは、トリックを強調したところなど、ひろ子が、自分なら、こう書くという発想があったのではないだろうか?」
 だから、女将に先ほどのような、
「他の人がどこまで近づくのか?」
 ということを聞いてみたかったのだ。
 これはあくまでも、
「自分だから事件が解けた」
 という自慢から来ているものではなく、自分が辿り着いた回答の信憑性を確かめたかったからである。
「一歩間違えれば、私も、袋小路に入り込んでいたんだ」
 と思うと、その違いがどこにあるのかを、知っておきたかったというのが、本音であった。
 今回の事件の話は、確かに、時代が古かったことで、
「今ではありえない」
 というような犯罪。
 そして、そこに、猟奇殺人のようなものが潜んでいることで、トリックが、この場合では密室トリックであるが、どちらかというと、その発想が、矛盾しているかのようなストーリー展開を、女将が叙述することで、いかにも、事件のリアリティが生まれてくるという意味で、それはそれでよかった。
 そもそも、本を読んで、その世界観に引き込まれるのがm事件の本質に入っていくことであるが、ひろ子は、そこまで自分で理解していると思っていて、そういう意味でも、
「これを自分が、小説として、描いてみたい」
 と思うことでもある気がしていた。
 だが、そんな中で、
「これは女将の小説だ」
 という心の中のギャップのようなものがあり、そこで沸き起こる葛藤からか、どうにも、消化不良な気持ちになってくるのを感じた。
 そのため、
「実に不謹慎である」
 と感じながら、
「事件が本当に起こってほしい」
 と思うくらいに、なっていたのだ、
 だが、さすがに本当に事件が起こってほしいと思っているわけではない。むしろ、
「架空の事件を、自分で書いてみたい」
 と思うのであった。
 そういう意味で、編集長がくれた4日という期間が、最初は長いと思ったが、今では、
「中途半端だ」
 と感じるようになった。
 ただ、それはあくまでも、ネタを仕入れるという意味での4日間であり、実際に書こうとするのであれば、ここに、客としてやってくる方がいいと考えたのだ。
 原稿を出版社に上げて、この仕事をいったん終わらせておいて、客としてやってくる。
 その時は、
「文豪が、馴染みの温泉にやってくることで、缶詰のようになって、作品を書き上げる」
 という雰囲気になるのだろうが、ひろ子は、もっと気楽に来てみたかった。
 小説を書くということが、確かに自分の中で、どれほどまだ、忘れられないものなのかということを確かめたいと思うのだった。
 4日間で、しっかり取材をして、抜かりなく、原稿を書き上げ、それを出版社に提出することで、今回の仕事を終えることができた。
 しばらくは仕事が入っていないということもあって、この温泉に、今度は客として、宿泊することにした。
 期間としては、まずは、10日間。自分の中で、
「延長可」
 だと思っていたのだった。
 女将さんも、
「まぁ、ひろ子さんがまた来てくださるというのは、ありがたいことですわ」
 ということで、
「とりあえずは10日を考えていますが、ひょっとすると、もう少し長くなるかも?」
 というと、
「それは、もちろん、ありがたいことです」
 といって、女将も、まんざらでもないと思ってくれているようだ。
 今のところ、客は数名は入っているようで、それらの客は、ほとんどが常連だという。
 前の4日間の間でも、確か同じ人が泊まっていたような気がしたくらいで、それだけ、
「やっぱり、常連で持っているお店なんだ」
 ということであった。
 一つ気になったのが、前の時も、今回も泊っている客の名前が、
「馬場崎」
 という名前だということであった。
 この間の探偵小説のような謎解きに出てきた名前と同じではないか。
 確かに、昔の事件とはいえ、本名を使うわけにはいかないだろうが、かといって、実在する人物の名前を使うというのは、それこそまずいということであろう。
 ただ、常連ということもあって、馬場崎という人が、女将が話す内容で、
「俺の名前を使ってくれるのは嬉しいな」
 というほどくらいまで、仲がいいということであれば、それはそれでいいことなのだろう。
 そういう意味で、
「馬場崎さんがいるんだったら、穴山さんもいるんじゃないだろうか?」
 と考えた。
 馬場崎さんも珍しい名前であるし、穴山という名前も、そんなにないだろう。
「そういえば、戦国時代に、穴山道雪などという武将がいたっけ」
 というくらいの知識しかなかったが、本当にいるのであれば、
「お目にかかってみたいものだ」
 と感じるのであった。
 女将の話す事件では、穴山も、馬場崎も、ともに死んでいたということだった。
 事件の発覚が、穴山の死であったが、
「馬場崎の死がいつだったのか?」
 ということが、あの事件の根幹だったのではなかったか。
 今から思えば、
作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次