探偵小説マニアの二人
「とりあえず、行方が分からないとどうすることもできないので、行方を追うということで、指名手配ができるだろう」
ということで、指名手配されることになった。
だが、実際には、行方が見つかることはなかった。
「まさか、どこかで自殺でもしているのではないですか?」
という人がいたが、そこも曖昧だった。
とにかく、捜査の目は、完全に馬場崎に絞られたようで、捜査本部もそれ以外を見ているわけではない。
それが、一番大きな問題であり、
「警察は、何かに入り込んだかも知れない」
と、ここまでの詳しい話をしてくれた女将さんが、そういうのだった。
女将さんが、どうして警察の捜査本部の内容まで知っていたのかということは、少し疑問が残ったが、
「女将さんが、話題を振ってくれていると思うと、それはそれで、面白かった、ちょっと気さくさを感じたものだった」
一通り話をしてくれたところで、ひろ子が今度は聞いてみたいことがあったので、聴いてみることにした。
「当然、事件はいろいろなところから捜査をされたんでしょうが、この男性は、もちろん、自殺だったなどということはありませんよね?」
と聞いてみた。
「もちろん、そうですね。実際に殺されています。そして、この事件には、間違いなく犯人はいます」
ということであった。
「じゃあ、この二人の穴山と、馬場崎という人間の関係ですが、馬場崎はいつまで、穴山のことを信じていたんでしょうかね? 先ほどのお話では、穴山には馬場崎を殺すだけの動機があったというけど、逆に、馬場崎の方に、穴山を殺す動機は本当になかったんでしょうか? ひょっとすると、馬場崎は、穴山に何か恨みがあったからこそ、詐欺に加担したとかいうことも、実は裏であったりとかは、ないんでしょうかね?」
と聞くと、
「そういうことは捜査線上では出てきませんでしたね。ということは、被害者が殺されるだけの恨みを持っている人間を、警察は必至になって探すでしょうから、その捜査の中で、そんなことができていないのだから、なかったと考えるのが、視線じゃないんでしょうかね?」
と、女将さんは答えてくれた。
「うーん、なかなか難しいところですね」
と、言って、ひろ子は考え込んでしまった。
「じゃあ、中が密室だったということですが、実際のキーであったり、スペアキーというのは、どこかにあるんですか?」
と聞かれて、女将さんは、少し。ビクッとしたようだった。
それでも、すぐに気を取りなおして、
「マスターキーは、フロントのところにあります、そしてスペアキーとしては、掃除の人がもっていますね、もし何かの間違いがあって、掃除の時、部屋にカギがかかっていたら、その時、わざわざマスターキーを貰いに行くのも大変だということで、持たせているようなんですよ」
というと、ひろ子は、ピンと来たようだ。
「じゃあ、もし万が一、掃除の人がキーをなくしたとすれば、その時、フロントにわざわざ申告するでしょうかね?」
と聞かれたので、
「それはしないと思います」
というと、
「なるほど、だったら、カギが亡くなったとしても、黙っているんでしょうね。でも、それがもし出てきたとすれば、余計に何も言わないということですね?」
とひろ子がいうと、
「何かお分かりになったんですか?」
と聞かれたので、
「あくまでも密室の想像なんですが、あらかじめ、犯人はスペアキーを何らかの方法で入手して、たとえば、掃除の人から、拝借するなどして、そのカギのスペアキーを自分であらかじめ作っておいて、掃除の人が何も言わないことをいいことに、カギをこそっと返しておくということもあるでしょうね」
というと、
「なるほど、でも、それなら警察に正直に言いませんか?」
と聞かれると。
「それはないと思います。それだと、自分が疑われる可能性がありますからね、キーをなくしたことを言わないくらいの小心者なんだから、警察に疑われそうなことをいちいち自分からいうようなことはしないでしょうね。犯人は、そこまで分かっていて、それで、スペアキーから、合鍵を作るということをして、こっそり返しておいたんじゃなんでしょうか? これが、密室トリックの謎だとすれば、少し味気ないですか?」
ということ、
「そんなことはありません、密室トリックなんて、絶対にありえないわけだから、底に何らかの落とし穴があってしかるべしですよね。ひろ子さんの発想は、素晴らしいと思いますよ」
と、女将はいうのだった。
ひろ子は、
「これは、当たらずとも遠からじだ」
と感じた。
そこで、大体、女将が求める回答のレベルを想像してみると、ひろ子の想像力の範囲内であるということが分かったので、
「これは、本当の事件かどうかわからないが、女将の考えていることに近づいているのではないか?」
と感じたのであった。
何と言っても、一番のミソは、
「密室である」
ということ、
そして、
「本来のトリックとしては、被害者と加害者が入れ替わるということで考えられるところの、死体損壊トリックのようなものが、最初から示される形で、被害者に動機があって、加害者と思われる人間に動機がないということであり、しかも、加害者と思われる人間が、失踪しているということだった。
ひろ子はそこで感じたのは、
「加害者と思われている、馬場崎という男、失踪しているということは、最初から死んでいるのではないか?」
ということであった。
しかも、この場合、見つかった死体よりも先に死んでいて、それを殺したのが、穴山ではないかと思ったのだ。
そうすれば、時系列的にも、動機的にもおかしくはないといえるだろう。
だが、そう考えると、
「穴山の死因は、自殺ではないのか?」
と聞いた意図を、普通の人であれば、
「密室殺人なので、自殺ということにしてしまえば、その理屈が合う」
と考えているときっと思ったことだろう。
しかし、実はそうではなく、
「被害者と加害者の動機を正しいと考えて、しかも、時系列で無理のないこととして考えた時、最初に、穴山が馬場崎を殺して、穴山が自殺をする」
と考える方が、よほど理屈に合うと考えたのだ。
だが、それも、あくまでも、密室を考えずに理屈だけでいけばということだったのだ。
とはいえ、密室の謎も、考えなければいけない。
そうなると、謎を切り離して考えるよりも、
「犯人の気持ちになって考えるといい」
と考えれば、
「まずは、犯人をこの人だ」
と決め打ちし、
「考えていくうえで、どれほど理屈に合わないことなのか?」
ということを精査しながら、おかしいと思うところを削っていけば、真相に近づくと思った、
そのためには、まずは疑問を書き出して、その中の矛盾を考えた上で、正しいと思える道筋に至るだけの発想を持つということであった。
だから、そのために、矛盾のない考えとして、
「疑問に、優先順位をつけることだ」
と考えたのだ。
だから、まず、行方不明者が、死んでいるとすれば、すでに殺されていると考える。殺す動機を持っているのは、あくまでも、穴山である。
作品名:探偵小説マニアの二人 作家名:森本晃次