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痛み分けの犯罪

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「いいですか? ここの警備をこのモニターが一括管理をしているのだとすれば、向こうの非常口が開いているというのは、おかしくないですか? ここは密室でなければ、警備の必要はないわけで、しかも、向こうの非常階段は、最初から表みたいなものじゃないんですか。極端な話、警備を掛ける必要がどこにあるのだという思いになっても、無理もないことだと思うんですよ」
 というのだった。
「なるほど」
 といって、警備員は考え込んだ。
「どうして、気付かなかったのだろう?」
 と思ったが、考えているうちに、考えがまとまってきた。
「なるほど、確かにそうですね。私たちは、今までこれが当然だと言わんばかりに思い込んでいたので、不思議に思わなったのですが、言われてみればそうですね」
 と警備員は言った。
 警備員は、自分の中で、理屈のようなものが働いていた。
 そして、
「これは、どう考えても、ここのマンションの勝手な理屈で、刑事が言う通りなのに、違いない」
 ということである。
 それを考えながら、警備員は話し始めた。
「これはあくまでも、管理会社の勝手な理屈になると思うので、他人事になったり、辻褄は合わない状態になるかも知れませんが、我慢して聴いてください」
 と、警備員は言った。
「ええ、分かりました」
 と、迫田刑事は言った。
「実はですね。この問題は、隣のほか弁屋が絡んでくることなんですが、隣のほか弁屋は、このビルの一部になるんですよ」
 と言い出した。
「ほか弁屋が?」
 と聞いて、迫田は頭を傾げた。
 その理屈はすぐに田村刑事にもその疑問の意味がすぐに分かったが、それまで、警備員が話を続ける。
「ええ、あのほか弁屋というのは、結構前から、このビルの横で経営をしているんですが、ほか弁屋は、このビルとは関係があっても、警備に関しては、まったく別だったんです」
 というではないか。
 逆に迫田刑事も、田村刑事も、それを聞いて、
「いかにもその通り」
 と言わんばかりに感じていた。
「というのも、ほか弁屋のフロアには、出口も更衣室も、基本的には、すべて揃っていたですよ。ただ、一つだけ、肝心なものが揃ってなかったんですよ」
 というのだった。
「というのは?」
 と聞くと、
「ああ、それは、実はトイレだったんですよ」
 というではないか?
 それを聞いて、今度は刑事の方が何か呆れたかのように、
「トイレ?」
 と、裏返りそうな声で聴いた。
 それだけ意外な答えであり、
「なるほど、肝心なものであり、何とも無様なことか」
 と考えたのだ。
「ええ、トイレがないもので、問題になったそうなんです。さすがに立ちっぱなしで、足元から冷えるような仕事だと、トイレが近くなるのは当たり前というもので、それで問題になったんですよ」
 というので、
「それはいつ頃のことだったんですか?」
 と迫田が聞くと、
「2年くらい前に問題になったんです」
 というので、
「おや? ほか弁屋ができたのは、5年くらい前だと伺いましたが、その間の3年間はどうしていたんですか?」
 と聞かれて、
「2階に、学校があって、そこのトイレを使わせてもらっていたので、問題はなかったんです。だけど、學校が立ち退いて、別の会社が入ると、その会社はセキュリティの問題などもあって、トイレは貸さないということで、問題が持ち上がったということなんですよ」
 と警備員が言った。
「それで、ここ2年くらいで問題になったということですね?」
 と刑事がいうと、
「ええ、そうです。何と言っても弁当屋なので、厨房だけで広さはいっぱい、トイレを作るスペースはない。しかも、ほか弁屋から、非常階段のフロアに出ることはできるので、じゃあ、非常階段のところということになったのですが、広さもなければ、ボイラー室の横というのは、消防法にも、逃げるところがないということで引っかかってしまう。そこで、さあどうするかということになったんですよ」
 というのだった。
「どうしたんですか?」
 と聞かれた警備員は、
「しょうがないので、苦肉の策として、エントランスの中の開いたところにトイレを作ることになったんです。幸いにもエレベータを出てちょうど左側に扉があって、最初は倉庫として使っていたんですが、そこを使うのが手っ取り早いということになった。何と言っても、上の階のトイレも同じ立地にあるので、ここをトイレとして使用するのが、一番正しいということになったんですよ」
 と警備員は言った。
 さすがにそれを聞いて、二人の刑事も、
「なるほどなるほど」
 と頷いたが、迫田刑事は、何かそれでも違和感があった。
「本当にそれでいいのか?」
 ということであったが、さすがにすぐには、思いついたわけではなかったのだ。
 迫田刑事は、頭を整理する意味でも、少しずつ訊ねてみた。
「このフロアにトイレを作ったというのは、まあ、背に腹は代えられないという意味での苦肉の策というイメージなんですが、それで、問題にはなりませんでした?」
 と聞いた。
 警備員も、
「ええ、確か、問題にはなったと思います。たとえば、非常口の扉を開けておいていいのかどうかという問題が最後に残ったんですよ」
 という。
「どういうことですか?」
 と迫田が聞くと、
「要するにですね、ここのビルは、ほか弁屋以外は、普通の会社の事務所が入っているわけで、ほとんどの会社が、9時始業時間、18時が終業時間ということになっているんですよ。でもですね、ほか弁屋と歯医者さんは、そういうわけにはいかない。お客さんがあって、患者さんがあるわけですね。歯医者はいいとしても、問題はほか弁屋。営業時間は、昼前の11時から、夜の11時までということなんですよ。だから、今回この時間に警報がなって、我々が駆けつけたということなんですね」
 と警備員は言った。
「そもそも、今日警報が鳴った理由を何だと思われますか?」
 と聞かれた刑事員は、
「あくまでも、ここに死体がない場合ということで聞いていただきたいんですが」
 と警備員は、前置きをして話始めた。
「そもそも、このビルの警備は、ほか弁屋以外の他のフロアの会社が担っているんです。自分たちが、すべて一つの会社なので、フロアの警備を完璧にしておいて、普通に、そのフロアの警備だけを掛けて帰るんですね。ということは、その間は、このエントランスは警備が掛かっていない状態なんですよ」
 と、警備は言った。
 それをm刑事も、
「うんうん」
 と聞いていたが、実に当たり前のことを当たり前に言っているだけだった。
「ということはですね、トイレに行くためにここを歩いて幾分には、問題ないということですね?」
 と刑事にいわれて、
作品名:痛み分けの犯罪 作家名:森本晃次