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痛み分けの犯罪

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 というところがあるのだが、その警備会社のアラーム、つまり不法侵入などを検知する刑法がなったのは、金曜日の、午後11時頃のことだった。
 警備員は、さっそく、現地に飛んでいき、玄関の扉を、スペアキーで解除して、中に入った。
 アラームが、エントランス内に、鳴り響いていたので、煩わしさからその音を消す。
「一体、どこの誰の悪戯だ?」
 とばかりに、最初から、
「何かの間違いか、悪戯以外にはないだろう」
 と決めつけて、
「ええい、面倒臭い」
 とばかりに、適当に形式的な警報の解除をするだけで、すぐに帰れると思っていた。
 まぁ、普通はそうだろう。
 警備の警報が鳴り響く中、解除をすれば、まだその余韻が耳に残ってしまっていた警備員は、
「これも、職業病のようなものだな」
 という諦めの境地の中で、とりあえずは、
「形式的な見回り」
 というものをするだけで、
「さっさと帰ろう」
 と、すでに気分はそのエントランスから消えているくらいだった。
 だが、エントランスから奥の方を見て、これも形式的に、奥の非常階段の扉を、何の気なしに開いた一人の警備員が、
「うっ」
 といって、鈍い声を上げた。
 こういう警報が鳴った時は、本当は一人でいいはずなのだが、何といっても、警報がなったことで、
「泥棒」
 というものの存在を考える必要があるので、必ず、
「ペアでの行動」
 というのが、義務付けられていたのだ。
 一人が、非常階段の扉を開けて、放心状態になっている相棒を見て、
「普通ではない」
 と思って見たもう一人の警備員も、まったく同じリアクションをしたのだ。
「本当に恐ろしい時のアクションには、個人差などというものは、ないのかも知れないよな」
 ということなのであった。
 さすがに最初に金縛りに遭った人間が、最初に我に返ったことで、もう一人も同じ穴縛りだと思った時、彼は放っておいて、目の前の状況を整理することを考えた。
 電気もついていなくて、実に真っ暗なところに、扉を開けたことで、差し込んでくる光が、その場所を照らしていた。
「真っ暗なのに、よく見えたものだ」
 と思った警備員であったが、
「ああ、なるほど、そういうことか」
 と感じたのだが、それは、非常階段というのは、ビル内にあるのではなく、青空の包帯の階段だった。
 ということで、表の明かりが少しだけでも、漏れてきたのだった。
 とはいえ、真夜中に差し込んでくる、いかにも、
「蛍雪」
 といってもいいくらいの、申し訳程度の明かりでは、目が慣れてくるまでは、まったく見えなかったといってもいい。
 だから、警備員がその場に固まってしまったのは、本当にすぐだったのか怪しいものだ。もし、すぐだったとすれば、そこには、
「あるはずのない違和感を感じさせる何かがあった」
 ということで、
「何かがあった」
 というよりも、
「佇んでいた」
 という表現が一番ハッキリしているのではないかと、警備員が感じたのだった。
 確かに佇んでいる何かを感じたという思いはあるが、逃げ出したいという衝動に駆られるまでには、時間が掛かったことだろう。
「逃げ出したい」
 という感情がなければ、金縛りなどという状況に陥ることはなかったのだと感じるからだった。
 警備員がその黒い物体を、今度は我に返ってみると、そこに転がっているのが、肉体であり、大きさからいっても、
「人間である」
 ということは、
「疑いようのない事実だ」
 ということを感じるのだった。
 少し屈みこむようにして覗きこんでいたが、
「なぜ、懐中電灯をつけないのか?」
 と、賢明な読者であれば、そう思うのだろうが、隣には、まだ、金縛りに遭った同僚がいるのだ。
 本来なら、
「自然に金縛りから解けなければいけない」
 ということを、本人は分かっていることだろう。
 そして、当然、たった今金縛りから解放された警備員も同じことを感じているに違いない。
 だから、懐中電灯というのは、使えなかったのだ。
 次第に間が慣れてくると、そこに横たわっているのが人間であることは、疑いようもない事実だと感じると、今度は、
「死んでいるのか、生きているのかが気になってくる」
 こうなると、懐中電灯をつけないわけにはいかなくなり、その時には、同僚も金縛りから解けていくのが感じられたことで、いよいよ、その正体を垣間見ることにしたのであった。
 懐中電灯をつけて、その様子を見ると、顔は断末魔の表情で、カッと見開いた目は、明後日の方向を向いていた、
 手は、虚空を掴むかのようになっていて、瞬きもしていない。
 身体の方を見ると、胸から、真っ赤な液体が、流れ出るのが感じられた。
 警備員は、とっさに時計を見た。
「まだ、11時半にもなっていない」
 と感じたが、それも当たり前のことであった。
 というのを、とっさに感じられるのだから、かなり落ち着いてきているということであろう。
 もっとも、これくらいの判断ができるのは、この警備員が、こういう仕事には慣れていたからなのかも知れない。
 さて、胸元を見ると、そこからは、何か光る液体がこぼれていた。ぬるぬるするものに感じられ、光の光沢が、透明ではないということを感じさせたので、この状況から、
「被害者の血であることは間違いない」
 と言えるであろう。
「とりあえず、警察と救急に電話を」
 ということで、それぞれが、警察と、救急に電話を入れた。
 二人は、被害者の生死に関しては確認せず、救急を呼ぶことにした。
 本当は確認すべきなのかと迷ったが、とっさに、
「時間的には、まだ生きている可能性も十分にある」
 と思ったのだ。
 警備員が時間を確認したのは、そのことを無意識に考えてのことだったようで、
「犯行が行われて、ほとんど時間が経っていない」
 と感じたのも理由があった。
 というのも、
「警備の警報が鳴ったのが、午後11時少しして」
 のことだった。
 少なくとも、そこには、被害者の他に誰かがいたということだろうから、まさに刺される前後の瞬間だったということは、容易に想像がつく。
 そんな状態から考えても、
「犯行時刻から、数十分、それも、20分以内だった」
 ということになるだろう。
 それを感じた警備員が、被害者に触らずに連絡を優先した理由も分かるというものだ。
 ただ、警備員の感覚として、被害者が、微動だにしないことで、
「すでに絶命している」
 ということに、ほぼ間違いないと考えられた。
 そこで、勝手にいろいろ触ることはできないが、足元などに、何か証拠品がないかということを探していたのだったが、どうやら目立ったところに、何も証拠になるようなものは落ちていなかった。
 これが、
「計画的な犯罪」
 ということであれば、何かが見つかるということはほぼないだろう。
 今の段階として、考えられることは、
「計画的な犯罪だという可能性も大きい」
 ということであった。
 警備員としては、
「果たして計画的な犯罪と、無意識な犯罪のどちらがいい?」
 ということは、難しいといえるのではないだろうか?
 というのも、
「無計画であれば、通り魔殺人」
 ということも考えられ、それは実に恐ろしいことだ」
作品名:痛み分けの犯罪 作家名:森本晃次