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痛み分けの犯罪

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「しばらくの間は、何事もなく、入居者もなかったのですが、そのうちに、そこには普通の会社が入るようになったんです。その会社は、普通にセキュリティなどもきちっとしているところだったので、お弁当屋がトイレを使っていることに、当然のごとく難色を示し、管理会社の方も、お弁当屋に、トイレを使うなということを進言したんだそうですね」
 というのだった。
「だけど、そこで、今まで茶を濁してきた問題が、鮮明になってきたというわけだな?」
 と、桜井警部補にいわれて、
「ええ、まさしくその通りです。当然のことながら、上の階に入ったところは、トイレを他の階の連中に使われるのは、嫌がるでしょうね。当然、ほか弁屋と2階の新規住民と、そして管理会社の間で問題になる。要するに、今まで、放っておいたツケが回ってきたというわけですよね」
 と、迫田刑事は言った。
「そうだよな。本当であれば、上の階が使ってもいいといっている間に、その間に善後策を考えなければいけなかった。それを怠ったことが、問題になったということになるんだろうな」
 と桜井警部補は言った。
「そうです。まさしくその通りなんです。一階の店舗は、ほか弁屋でなくとも、他の商売ができるほどの広さではあるんですよ。当然、少し小さいかも知れないが、コンビニもできるし、他のファストフードの店だって経営できるだけの店舗が持てるわけです。だから、トイレ問題は、永遠に続くといってもいいんですよ。でもですね、上の階は、前はたまたま、教室だったというだけで、いつ普通の会社が入居しないとも限らない。それを思うと、いずれまたこういう問題が噴出することは分かり切っていたはずなんですけどね」
 と迫田刑事は言った。
「そうだな、確かに、管理会社とすれば、経費や操業の問題から、なるべく、お金のかかることは、後回しと考えていたかも知れないが、ここで、ビル管理を営む以上、避けて通ることができない問題なのだから、片付けられるものではないんだよな。俺たちのような素人でも、そんな考えが甘いということが分かるというのに、管理会社として、どうなんだろうと思えてくるよな」
 と、桜井警部補は辛口だったが、言っていることは、至極当たり前のことであり、迫田刑事も、その言葉に逆らうことなどできるはずもなかった。
「そうなんですよ。あの管理会社が、いい加減だということは、自販機の管理一つをとってもよく分かるんですよ。他の階の人に聴きこんだ時、表の自販機が、、どの硬貨を入れても、お金が戻ってくるんですよ。その状態が、もう一か月以上続いているので、今では、少し不便だけど、他に買いに行っているといっていましたね」
 と迫田刑事が言った。
「その販売機の管理もその会社ということなんだね?」
 と桜井警部補にいわれて、
「ええ、そうです。最初は、他の階の人も管理会社にいおうかと思っていたそうなんですが、そのうちに気づくだろうから、いちいち報告することもないだろう。変に思われるのも嫌だと思っていたそうなんです。でも、いつまで経っても直そうとしない、それを思うと、次第に冷めてきたようで、忠告するのもバカ中しいと思うようになったというんですね」
 と迫田刑事はそういった。
「なるほど、自販機であれば、メーカーの人が定期的に補充にくyるわけで、その時に、お釣りやお金、そして商品の補充をするのだから、前に補充したまま減っていないこと、さらにお金が増えていないことから、誰も買っていないということが分かるはずで、管理会社に連絡を取り、修理をお願いするか何かをするはずですよね?」
 という。
「でも、修理というとお金がかかるんじゃないのかな?」」
 と桜井警部補が言ったが、
「いいえ、そんなことはないですよ。年契約か何かで、月額いくらという、いわゆる保守料のようなものがあり、何かの原因で故障したなどというと、管理会社の依頼で、業者は、保守契約の範囲内で、無料で修理をするはずです。また、百歩譲って、もし修理をしないということになると、せめて、お金を入れるところに、故障中という札を貼って、購入者に対して、故障している旨を伝える義務があるはずだと思うんですよね。まぁ、義務というところまでいくと、少し語弊がありますが、少なくとも、信用問題としては、底辺レベルのものだといえるのではないでしょうか?」
 と、迫田刑事はいい、自分でも、熱弁をふるっているつもりのようだった。
「なるほど、それは確かにそうだよな。サービスではあるが、信用にかかわるサービス。つまりは、必要不可欠なサービスというものはあるもので、それができていないと、管理会社としての、企業理念自体を疑われるということになるんでしょうね」
「ええ、相手が直接契約している会社であろうが、不特定多数であろうが、それを区別するような考えを持っているとするならば、そんな会社は、倫理的にアウトであって、コンプライアンス以前の問題だということになると思いますね」
 というのであった。
 そんな、
「いい加減な会社」
 というのもあるということを、捜査会議で話をしていて、そうなると、一番の問題は、
「トイレを、どうしたかったのか?」
 ということと、
「どうするべきだったのか?」
 ということなのではないだろうか?
 そもそも、そんなことが分かったとして、
「事件に関係のないことではないか?」
 と言われるのかも知れないが、しかし、
「犯罪には動機というものがあって、それがなければ、絶対に真実は見えてこない」
 ということである。
 もちろん、衝動殺人であったり、愉快犯のような、
「動機らしい動機などというものがない事件」
 だってあるのではないだろうか?
 だが、基本的に、犯罪には、
「動機という原因があって、犯罪という結果があり、その間には、必ず因果関係というものが存在し、それを真実という」
 というものだと考えると、
「原因と結果の間にある因果関係を探すことが、警察の仕事である、真実を見つけることになる」
 というものではないだろうか?
 そんな原因と結果をまずは知ることが大切である。
 結果ということは、我々ではなく、鑑識であったり、科捜研などが調べるものだ。
 結果には、
「動かすことができない」
 というものが、最初から決定事項として存在する。
 だから、科学的な裏づけで調べられるものである。
 しかし、原因という、動機というものは、その原因の中にある動機の確定というのは、
「現認の中の結果」
 であり、それが決定されるまでには、紆余曲折があり、そこにも尽日があるのだ。
 動機を確定するまでの動機が定まった時点で、犯人にとっては、
「ほとんどが、形成された」
 といってもいいだろう。
 警察や探偵、そして裁判関係などは、すべて結果を見てからのものになる。
 犯人にとっては、
「すべてをやり終えた後」
 ということである。
 もちろん、犯人が無事に逃げおおせた場合に、犯人にとってもすべてが終わるのであろうが、それ以上に、最大の目的である。
「犯行」
 というものが完結すれば、そこで、犯人にとってのすべてが終わったといってもいいのではないだろうか?
作品名:痛み分けの犯罪 作家名:森本晃次