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痛み分けの犯罪

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「ええ、そうです。警備が掛かっているのに、扉を開けたり、警備が掛かっているところをウロウロすれば、当然センサーに引っかかって、警備会社に連絡がきて、我々が飛んでいくというわけです」
 と警備員が言った。
 それを聴いていた迫田刑事は、
「警備会社の方では、ブザーのようなものが鳴るということですか?」
 と聞かれて、警備員は、迫田刑事が何を聞きたいのか、少し分からないと言った面持ちで、
「ええ、そうですね、ブザーというか、キンコンカンコンというような感じの音ですね」
 というと、迫田刑事は少し腕を組み考えながら、
「じゃあ、ここはどうですか? ブザーや、今言ったような、キンコンカンコンという音は鳴るんですか?」
 と聞くと、
「いいえ、音は鳴らないようにしています。もちろん、その設定は、機械の方でするんですが、その設定をどうするの決定権は管理会社の方にありますね」
 ということであった。
「なるほど、ということは、ブザーが鳴っていて、警備が破れたということを、警備を破った連中が知らない可能性があるということですね?」
 と迫田刑事は聴いた。
「ええ、そういうことになります。でも、普通に考えれば、どうすればブザーが鳴って警備の我々が飛んでくるのかということは、容易に分かるというものでしょうね」
 ということであった。
「ということは、可能性としては、そのことを知らない弁当屋の連中がやった可能性が高いということになるわけですね?」
 と、迫田が聞くと、
「ええ、そういうことになります。元々、弁当屋は、このエントランスとは関係のない影響をしていたからですね。今もトイレがないと、同じことだと言います」
 と、警備員が答えた。
 それを聞いた迫田刑事は、
「もう一つ質問なんですが、今まで、この会社と契約をしてから、警備員がこうやって、呼びだしを食らったということが、ありましたか?」
 と言われて、警備員二人は顔を見合わせて、
「実は、何度かありました。今日のような時間が、どうしても一番多いんですよ」
 と警備員がいう。
「じゃあ、パターンが同じだったといってもいいんですか?」
 と聞くと、
「ええ、そうです。だから今日も、どうせ、いつもと同じだという感覚があったのも事実で、急いでは来ましたが、心の中では、人騒がせなことをしやがってという感覚になっていたことは仕方がないことだといってもいいかも知れません」
 と警備員は言った。
 本当はこんなことではいけないということは、警備員も分かっていた。ただ、このビルのことを決定するのは、管理会社である。
「ここの管理会社というのは、どういうところなんですか?」
 と刑事に聴かれて。
「何とも言えないですね。どこか調子のいいところがあって、いつでも簡単にできるというようなアドバルーンを掲げているのが、ここの管理会社という感じです。実は、この前に自動販売機があるんですが、そこの管理は、このビルの管理会社なんですが、ここ1か月、お金を入れてもすぐに全部出てくるんですよ。どの硬貨を入れても同じことで、つり銭キレの表示が消えていないという、実にいい加減な管理をしているところだということがよく分かるという感じです」
 と警備員が言った。
「話が戻りますが、ということは、犯人に、このビルの状況が分からなかったとすれば、犯人が、ゆっくりやっていれば、警備員と鉢合わせということもあった可能性もあるわけですよね?」
 と迫田刑事がいうと、
「それは十分にあったと思います」
 と、警備員が言った。
「この事件において、しっかりしていると思われる部分と、いい加減な部分の両極端に見えることから、事件の全容解明は、想像以上に難しいかも知れないな」
 と、迫田刑事は思うのだった。
 そこへ、田村刑事が戻ってきて、今の迫田刑事の話を要約して聴いてみると、
「まったくその通りだと思います。ただ、私は、何か根拠があるわけではないんですが、この事件には、何か、見えていないものがあるような気がするんですよ」
 と、田村刑事がいうと、
「何か、犯人が隠蔽しているとでも?」
 と、迫田刑事がいうと、
「そこまでは分からないんですが、何か隠れている部分があって、それが事件の根幹に繋がるように思えるんですよね」
 と、田村刑事は言った。
「隠れている部分か」
 と同じように迫田刑事は言ったが、彼がこういう態度を取る時は、
「相手に対して、自分も同意していたり、意見が同じだということを相手に示す気持ちがあるのかも知れない」
 ということであった。
 現場検証を、初動捜査として行っている状況において、どれくらいの時間が経っているというのか、そのうちに、現場にお弁当の従業員数名と、管理会社の人が、次々にやってきた。
 まず、警備会社の人が少し早かったのか、この状況を見て、息を呑んでいるというのか、正直、吐き気を催していたのだった。
 もっとも、そのリアクションは、このような殺伐とした犯行現場では、当たり前のことであり、刑事としては、今までに数えきれないくらいに見てきたものなのかも知れない。
 ただ、これまでは、比較的凶悪事件が起こっていない、ある意味、
「平和な街」
 という印象が深かったK市にとっては、この事件は、
「一大センセーショナルな事件だ」
 といってもいいだろう。
 警備会社の人は、もちろん、一目見ただけで、
「これは重大な凶悪事件だ」
 とは思っただろうが、
「何がどうした?」
 というのが本音であろう。
 昨日までは、実に静かなビルだったのに、一変して、
「黄色い規制線」
 というものが貼られ、そこには、英語で、
「立ち入り禁止」
 を示す言葉が書かれているのであった。
 管理会社の人は、足元で断末魔の表情を見せ、虚空を見ている被害者を見て、
「誰なんですか?」
 と聞くくらいなので、どうやら、管理会社の人にも心当たりはないようだった。
 今度は、弁当屋がやってきた。
 本来であれば、野次馬の立場といってもいい連中だったが、
「自分たちがまさか、事件の渦中に放り込まれた栗のようなものだ」
 とは、夢にも思わなかっただろう。
 だが、それもすぐに崩壊した。
 しかも、自分たちから、
「この事件に重大な関係がある」
 ということを申し立てたようなものだった。
 というのは、弁当屋の一人が、息を呑みながら、被害者の顔を見た瞬間に、
「この人」
 といってしまったのだ。
 一緒に来ていた連中は、どうやら必死に隠そうとして、何とか言わなかった様子だったが、その様子を見ていたのかいなかったのか、思わず口にした男は、
「しまった」
 という気持ちなのか、
「もう後悔しても遅い」
 と思ったのか、
「この人、前にうちにいた人だ」
 と、驚きだけは隠せなかったが、その様子を見て、警察も、管理会社も、皆、その場で固まってしまったかのようになったのであった。
「うちにいた人?」
 と聞かれた一人の人に聞きただすと、
「ええ、この人は、3カ月前までうちにいたんですが、言葉がなかなか通じないということと、どこかに他に原因があったのか、辞めて行ったんです」
 というと、
「じゃあ、この人も、外人ということか?」
作品名:痛み分けの犯罪 作家名:森本晃次