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痛み分けの犯罪

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「そうなんだよ。いくつか、考え方が生まれてくるというもので、たとえば、一番考えられるのが、強盗のような、行きずりの犯行で、動機というものが、ただの物取りであれば、被害者の交友関係からだけでは、犯人を割り出すというのは難しいだろう。それに、犯人が正面から差しているということは、計画的な犯行だということは考えにくい。物取りであっても、普通であれば、ターゲットを決めて、その人の行動パターンなどを入念に調べたうえで、自分たちが捕まらないように計画するものではないのだろうか? それよりも、ひょっとすると、犯人は、最初から殺害の意思があったわけではなく、被害者に何か都合の悪いものを見られたということで、刺されてしまったというケースだね」
 と、迫田刑事がいうと、
「じゃあ、その場合は、顔見知りである可能性も、それ以外の可能性もあるということになり、捜査は難しくなるかも知れませんね」
 と、田村刑事は言った。
「そういうことになるね、現状では、顔見知りの犯行という線が強いような気がするが、何か都合の悪いものを見られたという、衝動的な犯行である可能性もある。ただ一つ言えることは、このナイフがどこから出てきたかによって、事件の様相は変わるということだね。たぶん、犯人がもっていたものの可能性が大きいだあろうね、総合的に考えてのことになるけどね」
 と迫田刑事は言った。
「というと?」
 またしても、田村刑事が聴いた。
「犯人と被害者は争った跡がないということは、被害者がナイフを持っていて、それを奪われるように刺したのであれば、それなりに、あらそった痕跡が残っているだろう。まず、そこで、考えられるのは、犯人がナイフを持って、何かの工作でもしようとしていた、そこへ被害者がいきなり現れたものっだから、犯人は気が動転して、衝動的に殺してしまったということであれば、一応の説明はつく。この場合は、被害者と犯人が顔見知りであったかどうかであれば、顔見知りの可能性が高いだろうけどね。結局あらそった跡がないということは、結果そういうことになるんだよ」
 ということであった。
「じゃあ、犯人が、被害者のカバンを持っていったということは?」
 と田村刑事に聴かれて。
「犯人は、被害者が、いつでも、カバンを持ち歩いていて、そこにすべてのモノを入れているということを知っていたんだろうね。そして、動機が、そのかばんを奪うことであれば、犯人にとって、被害者の身元が分かる分からないは、あまり大きな意味のないことだったのかも知れない」
 と迫田刑事は言った。
「なるほど、さすが迫田刑事ですね、そういわれれば、辻褄が合っていますね」
 と田村刑事は、そういって、迫田刑事を褒めたのだが、二人は心の奥で、
「何か、しっくりこないものがある」
 と考えていた。
 それは、二人とも同じところに引っかかっていたのか、それとも、他に何かあるのか分からなかった。
「死亡推定時刻に関しては、かなりのところでしぼられるのではないでしょうか?」
 と田村刑事は言った。
「どういうことなのかな?」
 と、迫田刑事が聴くと、
「このビルでは、隣の弁当屋が、午後11時までは営業しているというでないですか? だから、犯行時刻はその後ということになり、死体が発見されたのが、警備員が飛んできたのが、11時半ということになるので、その間ではないでしょうか?」
 ということであった。
 それを聞いた迫田刑事が、
「なるほど、それも言えるかも知れない。ただ、一つ気になるのは、犯人がもし、行きずりではないということになれば、なぜ、犯行現場をここに選んだのか? ということなんだよな。ここで犯行を行えば、死亡推定時刻、つまり、犯行時刻も絞られてきて、しかも、すぐに死体が発見されるということは、このビルの関係者であれば、容易に分かるということだからね。といっても、あくまでも、これが、計画的な犯行だということだとしての話なんだけどね」
 ということであった。
「確かにその通りだと思います。そのためには、被害者の特定が急務になるんでしょうが、犯人にとって、被害者の特定というのは、本当に画すべきことだったのかどうか分かりませんからね。そういう意味で、監視カメラの映像というのが、重要かも知れませんね」
 と田村刑事がいうと、さっそく、田村刑事は、その足で、第一発見者となった警備員のところに向かっていた。
「今度の事件で被害者は、どういう役割を演じているだろうか?」
 と、迫田刑事は感じていた。
 もちろん、殺害された被害者ということでの発見なので、重要な役割に違いはないのだが、そこに、他に別の犯罪が潜んでいて、しかも、被害者は、その犯罪とは、直接関係がないということも考えられる。
 ただ、それは、他の犯罪でも同じことだが、それがある程度特定できて、捜査に入るためには、被害者の身元の特定ということが重要になってくるのだろう。
 それを思うと、迫田刑事は、今回の犯罪に、何か言い知れぬ深さを感じたのだった。
「これだけ、目に見えていることが、かなりあって、ある意味、簡単な犯罪なのではないか?」
 と思えるような事件なのに、肝心な被害者の身元が特定できないということで、ただそれだけのことで、襲ってくる、
「この言い知れぬ不安というのが、どこからくるのかということを考えると、ざわざわした気分にさせられてしまう」
 というものだった。
 犯罪というものが、どういうものなのかを考えてみると、
「まずは、被害者が特定され、その犯行現場の全容解明が必要になる」
 ということであった。
 つまりは、鑑識関係の人によって、
「状況から見えてくる犯行の様子が分かってくる」
 ということあ重要だ。
 というのが、
「まず、死亡推定時刻」
 である。
「今回の場合は、比較的早い段階で分かる」
 という。
 先ほどの田村刑事の推理におそらく間違いはないだろう。
 そして、もう一つは、凶器と、被害者の身元だが、凶器は胸に刺さっているので、すぐに分かるが、被害者の身元だけがカバンを持ち去っているかも知れないということで、分からない。
 そういう意味では、身元以外は、状況は手に取るように分かるのだった。
 そういう意味で、後は防犯カメラの映像だが、警備員に聴くと、
「たぶん、殺害の現場を捉えた映像はないのではないか?」
 ということであった。
 というのは、
「防犯カメラはあくまでも、非常扉のエントランス側にしかなく、非常扉の向こう側で起こった事件に関しては、ハッキリと見えているものではない」
 ということであった。
「たぶんですが、肝心な部分は見えていないかも知れないですね」
 というのであった。
 迫田刑事が少し気になっていることを、警備員に聴いた。
「先ほどの話の続きのような形になるんですが」
 と一拍置くと、警備員の方も少し身構えた感じで、
「はい」
 といって聞いていた。
「あなた方が、ここに来たのは、そもそも、警報ビルが鳴ったということでしたよね? 要するに、警備が掛かっているのに、警報が鳴ったということになるんですよね?」
 と迫田刑事は言った。
作品名:痛み分けの犯罪 作家名:森本晃次