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悪党選手権

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「きっと、この店長のおかげで、これだけの人気があるのだろうな」
 と、迫田刑事は直感であるが感じた。
「すみません、お忙しいところ。私は。K警察の、迫田というものです」
 というと、羽黒店長は名刺を出してくれて、
「私はこういうものです。何ですか、前にこちらにおられた谷口さんが、殺されたとかうかがいましたが」
 と、羽黒店長はそういうのだった。
「ええ、それで少しお話を伺いたいと思いましてね」
 と聞くと、店長は、
「ええ、いいですよ」
 というので、羽黒店長と遭って、すぐに疑問に思ったことをすぐに、聞いてみた。
「さっそくですが、羽黒店長は、殺された谷口さんとは、面識がないんですか?」
 と聞いてみたが、
「ええ、私は谷口さんの後がまということで、こちらの店舗に回されたんですが、谷口さんが辞めた理由はハッキリとしたことは知りません」
 と羽黒店長は言った。
「じゃあ、谷口さんは、店長をされていたということですか?」
 と聞くと、
「ええ、彼がいなくなったことで私がこちらに回されたわけですからね」
 と、また同じことを言った。
 それを聞いて、迫田刑事は、
「この店長は、よほどこちらに回されたことに不満を持っているのだろうか?」
 と思った。
 そこで、
「こちらの店舗はなかなか流行っているように思いましたけど、これも、羽黒店長の功績なんでしょうね?」
 と聞くと、羽黒店長は、ニッコリと笑って、
「いやあ、そうですね、谷口店長がいなくなって、私が売り場を大改造したんですよ、おかげで、それがやっとその成果が出てきたようで、売り上げも徐々に上がってきました」
 といって、明らかに自慢がしたかったということが丸わかりだった。
 もっとも、だからといって、その思いが今回の殺人に関係しているわけはないと本人が思っているのか、それとも、ずっと誰かに自慢がしたかったが、羽黒店長の口調はなめらかだった。
「じゃあ、谷口店長のことを、羽黒山に伺っても、期待できるお話は聴けませんかね?」
 と、会ってすぐに、いきなり核心を抉るような言い方をしたのは、この羽黒店長の、性格から、引き出すものがあると考えたからであろう。
「そうかも知れないですが、私が聞いた話の中で、少し気になることがあったんですよ」
 と羽黒店長は、扉が閉まった状態の応接室であるにも関わらず、さらに用心深くというか、ヒソヒソ声になって、顔を近づけての、あたかもの内緒話を始めようとしているのであった。
「実は、谷口店長には、少し気になるウワサがあったんですよ」
 と羽黒店長は言った。
「どういうことですか?」
 と、いかにも興味深げに、迫田刑事は聞き直した。
 いかにも、この部屋の雰囲気には、異様な様子が垣間見えてきて、二人だけの部屋がさらに、広い部屋になっていくのだった。
 ちょうどその頃、もう一人の刑事が、パートの人たちで、それほど忙しくしていないような人を呼び止めて、事情聴取を行っていた。
 本来であれば、
「迫田刑事にくっついていくのが普通なのだろうが、これは迫田刑事の独特の捜査方針で、普通は、やってはいけないことだと言われるのだが、迫田刑事だけは、本部長直々に許しているところがある」
 というのだ。
 もう一人の刑事は、
「田村刑事」
 という。
 田村刑事が、まず訊ねてみたのが、フロア主任のような人だった。ちょうど、発注の時間のようで、店内を、ハンディターミナルを持って中腰の状態で歩き回っていた。
「すみません」
 といって、田村刑事が呼び止めると、呼び止められた主婦のような主任さんは、一瞬ビックリして振り返ったが、振り返る瞬間、ニコッとした笑顔になる様子が見て取れたので、
「さすがだ」
 と感じた。
 これができるのは、
「刑事という職業による芸当」
 だと思っているので、
「きっと、他の一般客には、今の主任の一瞬の代わり身に気が付くはずもないだろう」
 と思ったのだった。
 田村刑事は、声を掛けながら警察手帳を見せると、今度は主任は安心したかの様子に、もう一度、ニッコリと笑うと、
「ああ、刑事さんでしたか」
 といって、二人は、主任さんの勧めで、表に出た。
 この時、田村刑事は、
「この人はいろいろ話してくれそうだな」
 と感じたのだった。
 というのも、そもそも、店内で話せないというのは、
「誰に聞かれるか分からない」
 ということで、表に出たのだ。
 もちろん、殺人事件の聞き込みなのであり、しかも、いくら前にいたといっても、すでに退職している元店長の話なのだから、別に今の店からは関係のないことである。
 それをわざわざ仕事をおいて、表まで出てくるというのだから、当然、彼女の方に何か言いたいことがあるに違いない。
 ということであった。
 表には、児童公園のようなものがあり、Kが丘というところが、
「なるほど、新興住宅街と呼ばれるようなところに店を構えるのか?」
 というのが分かった気がした。
「余裕が見られる優雅で閑静なところで、子供を育てるというのは、これ以上の環境はない」
 ということであろう。
 それを考えると、主任に導かれた田村刑事も、何か、落ち着いた気分になった。
 殺伐とした警察や、立った今起こった殺人事件の捜査をするという息苦しさから、少しでも解放されるという気持ちは、結構ありがたかったのだ。
 主婦の人たちも、真剣に買い物をしているのだが、どこか、気持ちに余裕があるそうだ。
 レジで並んでいる時というのも、イライラしている人は一人もいない。最近では、
「セルフレジ」
 というものが主流になってきて、慣れない買い物客が、トロトロしている状態であれば、後ろに並んでいる客も、イライラしてくるのも当然だが、客にやり方を指導する店員の教育が行き届いているのか、非常に手際よく買い物ができていた。
「ありがとう、よくわかりました。次からはてきぱきできます」
 ということで礼を言われているのを見ると、
「説明の内容というよりも、信頼関係のようなものが育まれているのかな?」
 と考えられるのであった。
 そんな状態を見ていると、田村刑事は、
「このお店は、主任さんか、店長がよほどしっかりしているか、店舗経営をしっかり見ているということになるんだろうな」
 と感じたのだ。
「このお店においての、谷口さんというのは、どうだったんですか?」
 と聞かれて、
「ああ、谷口店長ですね。あの人は、普通であれば、可もなく不可もなくというような無難な店長さんでしたね」
 というのを聞いて、田村刑事も初めて、
「谷口が店長だ」
 ということを初めて知ったのだった。
 主任さんは、名前を浅川主任というが、
「浅川さんは、普通であればということでしたが、普通じゃなかったということでしょうか?」
 と浅川主任に田村刑事が聴くと、
「そうですね。可もなく不可もなくと言いましたが、正直、本当はそこがまずおかしいんですよ。額面通りに受け取ると、無難に何でもこなす店長さんという風に聞こえるかも知れないが、店の店長というと、それじゃあ、済まされないところがある。可もなく不可もなくというのは、それを皮肉った言い方なんですよ」
 というのだった、
「なるほど」
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次