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悪党選手権

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「だから、谷口店長は、表から見れば、優柔不断で、何も決められないというところが前面に出ているんですが、一部の主婦から、なぜか人気があるんですよ。店内では、ちょくちょく客に店のスタッフや雰囲気のアンケートを行っているんですが、店長に対しては悪くいう人はいないですね。どちらかというと、本当に無難な意見が多かったんですが、たまに誹謗中傷をいう人がいるかと思えば、相当褒める客もいてですね。時々、どっちなのか皆分からなくなることが結構あったりします」
 と、主任はいうのだった。
「なるほど、ほどんどは無難な感じの人なんですね? じゃあ、おやめになったのは、何か理由があるんですか?」
 と聞くと。
「辞めた理由は、ハッキリとは公表されていません。だけど、これは私が仕入れた話なので、私としては自信のあるネタですが、刑事さんは刑事さんでちゃんと捜査をしてほしいんですが、どうやら、どこかの主婦と不倫をしているということでした」
 と主任がいうので。
「え? 不倫をしている?」
 といって田村刑事は少しビックリした。
 そのビックリというのは、
「店長が不倫をしている」
 ということではなく、
「不倫が事実でも、それと彼が店を辞めることと何か関係があるというのか?」
 ということであった。
「別に不倫が本当であっても、店に何か関係がなければ、辞める必要などないということのはずなんだけどな」
 と、普通なら思うだろう。
「何か、その不倫が、店にとって、何か問題でもあるんですか?」
 と田村刑事が聴くと、それまで口が滑らかだった浅川主任の声が急に止まって、明らかに、同様しているようだった。
「ここまで話をしておいて、いまさら何を気にしているというのか?」
 ということを田村刑事は考えたが、
「その相手というのがですね」
 と一言いうと、それだけで、その場の雰囲気が固まってしまった感覚があり、
「なるほど、これでは、室内で作業をしながら簡単に言えることではないだろう」
 と言える。
 確かに、今は店長を辞めていて、新しい店長がやってきていて、表から見る限りでは、それなりに流行っているようで、別に問題がないようだった。
「実は、その不倫相手というのが、実は、一度こちらで万引きを働いた人なんですよ」
 とひそひそ声をさらにか細くして、話してくれた。
 どうやら、この主任というのは、こういう話に慣れているのか、ヒソヒソ話は得意のようだった。
 それを考えると、
「このお店の店員も店長も、それぞれに、一癖も二癖もある人たちなのではないだろうか?」
 ということを感じた。
 ただ、この主任が何を恐れているというのか?
「定期的に万引きがある店だと思うのが怖い」
 というのか、それとも、
「万引きを捕まえる立場の店長が、万引きをネタに、脅迫して自分の女にでもするというようなことが、まかり通っている店だというのが、当たり前だというのが、怖いということであろうか?」
 ということが問題だったのだろうか?
 とにかく、事実として、
「万引きをした女が、元店長と不倫をしていた」
 ということが本当だとすれば、これは店にとっても由々しきことであろう。
「これが本当に事実だとすると、会社が店長を首にするのは当たり前のことであり、問題はその後ではなかったか」
 ということである。
 店長が首になっただけで済んだのかどうかである。
 ただ、本当に事実だったとしても、それは、今の段階でウワサでしかないのであれば、今のところ、
「事なきを得ている」
 ということになるだろう。
 これが、奥さんの旦那にでもバレたりすれば、会社が訴えられないとも限らないからだ。
「この話は、本当のことなんですか?」
 と、話してくれた奥さんに聴いた。
 人によっては、
「私のいうことが信用できないの?」
 ということで、逆上されて、さらに激情の状態になるかも知れない。
 特に、女によるこの手のウワサ話は、
「デリケートな部分が潜んでいる」
 といってもいいだろう。
 ただ、主任は、冷静に、
「本当のことのようですね。絶対に間違いないことかどうかということは私には分かりませんが、ウワサとしての信憑性はあると思っています。だから、刑事さんにお話ししたわけですが、信用されないのであれば、それは仕方がないことだと思います」
 というではないか。
 今までの刑事事件における捜査での聞き込みの経験からして、
「この人の話は、信用してもいいかも知れない」
 と思った。
 そのつもりで、他の人に話を聴いていくうちに、
「何となくではあるが、主任の話を裏付けるような話も聞かれることがあった」
 といってもよかった。
 話の中で、
「ああ、前の店長ね。あの人私好きじゃなかったわ。女性を見る目が、明らかに違ったんですよ。それが好みの女性なのかどうかは分かりませんでしたけどね」
 という人の話が聴けたり、
「前の店長って、どうも私たちの中で、贔屓できる人を探していたようなんです。何か、自分の味方になりそうな人を探していたのかも知れないわね」
 ということも話していた。
 どちらも、
「前の店長が、不倫をしていた」
 ということの裏付けになるような証言であり、最初に、不倫という証言を得た感覚で聞いているから、余計にその信憑性が高まっていった。
 しかし、だからといって、
「自分がそれを全面的には信じてはいけない」
 という思いもあった。
 自分が信じ切って、それをまるで事実だとでもいうように、捜査本部に進言すれば、きっと、捜査はまったく違った方向に流れてしまうかも知れない。
 だから、あくまでも、
「参考意見」
 ということで、具申しないと、誤った捜査方針に向かってしまうといいかねないであろう。
 それを考えると、田村刑事は、
「できるだけ、ここで話を聴いておこう」
 と考えたのだ。
 もちろん、現在の店長と話をしている迫田刑事が、同じ情報を得てくれていれば、この話の信憑性は、
「ウワサから、真実に変わるのではないか?」
 と思えるのだが、そこまでうまくいくこともないだろう。
 何と言っても、店長は、辞めた羽黒店の後がまとして、他からやってきた店長だからである。
 ただ、ここからが難しいもので、さすがに、今回のことが、
「殺人事件だ」
 ということになったとしても、
「その相手が誰なのか?」
 ということまで、調べるのは、なかなか難しいということである。
 確かに以前なら、
「これは殺人事件なんですよ」
 と言えば、すぐに分かったのだろうが、現代の場合は、
「プライバシーの保護」
 であったり、
「コンプライアンスの問題」
 であったりと、厳しいところがあるので、そのために、いくら殺人事件とはいえ、聞き込みを行っても、正直なところを、どこまで話してくれるかというのが難しい。
 だから、確かに、
「防犯カメラ」
 であったり、ドライブレコーダーのようなものが、
「動かぬ証拠」
 として、どこまで証明されるのかということと合せて、
「いかに、証言が得られるか?」
 ということも、大きな問題となるかということであった。
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次