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悪党選手権

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 そんなことは、今の時代ではありえない。何といっても、室内が禁煙だからだ。
 昔の取調室では、取り調べを受けている人間が、タバコを吸えるわけもない。吸えるとすれば、
「白状した後」
 ということで、刑事の恫喝や泣き落とし、さらには、暴力など、昔の取調室というと、
「本当に何でもあり」
 だったのではないか?
 と思わせるものだった。
 刑事というものが、どんなものなのかということを、今と昔の違いからも見ることができる。
 刑事や検察というのは、弁護士や容疑者を相手に、昔のような、
「力技」
 は通用しないということである。
 法曹界も、いろいろややこしいというものだ。
 警察が来ては見たが、どうも、
「ここは、簡単に入れる場所ではないようだ」
 と警察が言っていることもあって、電話でいろいろ許可を取っているようだったが、
「そんなことを悠長にしていて大丈夫なのか?」
 というのが、先生の率直な気持ちだった。
 それでも、警察は必至になってあちこちに連絡を取り、確認していたのだが、そのうちの一人が、先生のそばによってきて、事情を聴こうということだった。
 先生の方も、何も目新しい情報を知っているわけではない。
「生徒たちが、何か変だといって、あのあたりに集まっていたので、とりあえず事情も分からないまま、私が通報しました」
 ということだった。
「他の人は気づかなかったのに、生徒たちはよく気づきましたね?」
 と言われたので、
「ええ、何か眩しいものが見えたというのが、生徒たちから聞いた話です。私が見ても、何か真っ白いい、そう帽子のようなものが見えたので、それで警察に急いで通報したというわけです」
 と先生は、
「急いで」
 という言葉を強調しながら言ったつもりだった。
 警察は先生に対して、
「そうですか。時間的にはどれくらい前だったんですか?」
 と言われて、
「そうですね、私がいつもこのあたりを通りかかる5分前くらいを生徒が通り過ぎていますので、たいだい、今から30分くらい前じゃないでしょうかね?」
 というと、
「すると、8時ちょっとすぎくらいということになりますかね?」
 と言われたので、
「はい、そうです」
 と答えておいた。
「先生は、この異常をまったく意識していなかったんですか?」
 と言われて、
「はい、私は元々が高所恐怖症なので、なるべく発掘現場は見ようとは思わなかったんですよ。いくらラミネート版が貼ってあるとはいえ、気持ち悪いものは、気持ち悪いだけですからね」
 と先生は言った。
「なるほど、分かりました」
 と話をしている間に、連絡を取っていた他の刑事に、
「迫田刑事、連絡が取れて、中に入ってもいいということになりました。ただ、中に入るにはカギが必要だということで、大至急、カギを持って来られるそうです」
 というのだった。
「どれくらいで来ると?」
 と聞くと、
「ハッキリしたことは分かりませんが、大体、15分くらいではないかということでした。大学から来るということでしたので、ラッシュの時間も過ぎてるので、やはり15分くらいで到着すると思います」
 と、伝えてきた刑事が、自分の意見を言った。
 迫田と呼ばれた刑事も、そのあたりのことは承知しているようで、
「よし、わかった」
 と答えただけで、少し考えているようだったが、
「あ、先生ありがとうございました」
 といって、踵を返すように、迫田刑事は、他の刑事のところに向かった。
 先生の方は、
「お役御免」
 ということで、このまま、学校に向かった。
 すでに、一時限目の授業は始まっていて、先生のクラスは、当然のごとく、
「自習の時間」
 となっていたのだった。
 警察の方では、現場にて、カギを使って中に入った。明かりはラミネートなので、しっかり入ってくる。確かに見てみると、底には白い帽子が置いてあり、
「ジャングルへの探検隊」
 と思しき人が入っていくような時にかぶる、白い帽子がそこにはあった.。
「まるで、ヘルメットのようだ」
 ということで、カギを持ってきた人に聞いてみたが、
「私は、発掘調査には、直接かかわっている者ではないので、ハッキリしたことは分かりませんが、たぶん、発掘関係で使うヘルメットとは違うと思います。うちで扱っているものは、特注で、大学の名前も入っているものなのですが、これは大学の名前が入っていない。ひょっとするとですが、これもどこかの特注で、ということは、このようなヘルメットを常時使っているという、こういうことには詳しい人なのではないでしょうか?」
 というのだった。
「なるほど、まずは、行ってみましょう」
 ということで、刑事が中に入ってその帽子を取ると、
「わっ」
 という声が聞こえてきた。
 この場所を覗き込んでいるのは3人いたが、声を発したのは一人だった。
 それは、大学から来た人で、このような光景にはまったく慣れているはずのない人で、さすが刑事二人は、声を出すことはなかったが、それはあくまでも声を押し殺しているだけであった。
 帽子を取ったその先にあったのは、やはり真っ白い服を着た男性で、それこそ、
「何かの探検隊」
 の雰囲気になっていたのだ。
 刑事の顔に、さっと緊張が走った。
 見る限り、血の気が引いていて、まったく動く様子もない状態に、大学の人も、見た瞬間、
「死んでいる」
 ということが分かった。
「これはひどい」
 と思ったのは、何とも言えない嫌な臭いがしてきたからだった。

                 守秘義務

 刑事であれば、
「死臭だ」
 ということはすぐに分かったであろうが、さすがに大学関係者では、すぐにはピンとこないのだろうが、
「これは本当にひどいものだ」
 ということを刑事の口から聞いて、
「なるほど、やはり、これは死体だったんだ」
 と感じた。
 そして、刑事の鬼気迫る、表情になり、すでに、臨戦態勢に入った刑事を見て、
「ああ、これは殺人事件だ」
 と思うと、これから厄介なことになるということは、すでに想像がついていて、それは最初から覚悟していた、
「最悪のシナリオ」
 だったのだ。
 本当はすぐに大学に、
「殺人事件です」
 と連絡したかったが、さすがに、警察が許してくれるはずもない。
 ただ、大学関係者といえど、今日カギを持ってきた人は、今回の発掘調査に少し関わっている人間で、しかも、アルバイトの募集から面接なども行った人だったのだから、警察からいろいろ聞かれるというのも、当たり前のことのようだった、
 そんな状態になると、刑事の尋問も、
「自分が結構引き受けることになるのだろうな」
 と思っただけで、億劫になってきた。
 大学の細かい裏方のような仕事は、
「昔取った杵柄」
 ということで、結構、昔からやってきたことなので慣れているが、
「まさか、警察関係の人の尋問を受けることになろうとは」
 と、殺人事件が絡んでくるなと、思ってもみなかったのだ。
 それを考えると、
「しょうがないこと」
 ということで片付けられないと感じたのだった。
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次