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悪党選手権

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 最初の頃は、道の横にある、発掘現場のその場所を、気にしながら歩いていた。
 なぜなら、そこは、結構急な断崖外絶壁のようなところになっていて、手すりを持って歩かないと、危ないと思えるくらいであった。
 本当に最初の頃は、
「こんな怖い道、まともに歩くのはきつい」
 と言われていたのだ。
 だから、子供たちは反対側の道を歩いていたのだが、そちらは、今度は人通りが多くて、却って危ないということで、発掘現場を危険のないようにシールドを貼り巡らせることで、安全を図ったのだった。
 シールドなので透明になっていて、
「下は見えるが、危険はない」
 というところであった
 そんな道なので、最初こそ、違和感があった子供もいたが、今は誰も気にもしていない。そんな怖い場所だなどという意識もなく、横目には見えているが、それを発掘現場だとわざわざ意識している子供もいなかったのだ。
 だが、あまりにも慣れてくると、たまに、意識することもあるようで、その日は一人の男の子が、気が付けばそこから、崖になっているところを覗き込んだのだ。
 その子にしてみれば、
「最初から、意識をしていたも知れないな」
 と思ったのだが。後から思えば、どうやらその時、
「断崖絶壁の下の方から、光が差してきた気がした」
 というのだった。
 もちろん、下が光を発するなどなんだろうから、
「朝日が反射した」
 ということになるのだろうが、そのことを後になって思い出すと、意外と、他の子供たちも、
「俺も俺も」
 と言い出したのだ。
 やはり、意識らしいものはあったということか。
 そんな下を見ると、その子が急に歩くのを辞めた。
 他の子は、その様子を違和感だとは思っていないようで、ただ、もう一人が彼の目線の先を無意識に見ると、
「あっ、あれは」
 といって、何かを見つけたようだった。
 最初は、何かが光ったような気がしたのだ。
 その光り方というのが、一瞬光っただけで、後は、それほど感じなかったのだ。
 しかも、直視した時に見えた光ではなく、見えた瞬間には、明後日の方向をみていたのだった。
 だから、
「あっ」
 と気が付いた見た瞬間には、すでに遅く、
「気のせいだったのか?」
 と思っていると、
「今のは何だったんだ?」
 と一人の少年が、そういうのだった。
「気のせいだったわけではない」
 と一人が感じたが、すぐには声を出すことはできなかった。
 しかし、気がつけば、まわりの皆、ある一点を明らかに眺めている。その様子を見ているのだが、見るからに、
「凍り付いた様子であり、決して止まっているわけではないのに、その様子が、色を失っているということから、凍り付いているように見える」
 というようなものであった。
 そんな様子を見ていると、
「誰かが何かを言わないと、このまま凍り付いたままになる」
 と思った。
 かといって、言い出しっぺが自分になることを恐れている。
 つまり、
「その場の雰囲気を壊すことを恐れている」
 ということであった。
 壊してしまうと、何かの怨念がのしかかるかのように感じるのだった。
 もちろん、そんなことはないはずだし、もしその呪縛を受けるとすれば、
「最初に発見した人だ」
 と言えるだろう。
 だか、それが誰なのかというのが、この中で分かるはずもない。だから、皆それぞれ怖がっていることで、
「最初」
 になりたくないということであろう。
 そんな中において、勇気を出して一人の男の子が、
「警察」
 と言い出したのだ。
 きっと、その子が一番最初に、金縛り状態から脱することができたのだろう。
 それを思うと、皆、
「最初に抜けたのが俺だったら、俺が声を出していることになるんだろうな」
 と感じたが、そう思うと、それまで感じていた、
「呪縛」
 というものが、
「夢幻のようなものであった」
 と言えるのであろう。
 それを考えると、警察にさっさと電話をした少年、
「彼がこの中でのリーダー格だ」
 といってもいいだろう。
 敢えて、リーダー格というものを決めていなかった。一応班長を決めないといけなかったが、
「不公平になる」
 ということで、恨みっこなしの、じゃんけんで決めたのだった。
 ただ、そのことを言い出したのも、その子であり、
「最初から、彼にしておけば、何も問題なかったんだろうな」
 と思えたのだった。
 それが、不公平というものを作るという意味では、本当に、
「恨みっこなしだった」
 といってもいいだろう。
 実際には違う子がリーダーにされたが、ここまでの決定の時にはいつも、この子だったということを、後になって気づかされるということが多かったのだ。
「まあ、これでいいだろう」
 というのが、彼らの班だったのだ。
 彼らが見つけた時、まわりには、数人の人たちが、通勤通学に勤しんでいた。その人数は、そんなに多くなかったような気がする。そもそも、このあたりを通るのは、学生が多く、駅に向かうバス停とは、少し離れたところに位置していたのだ。
 だから、少し少年たちの様子がおかしいということに気づく大人は少なかった。
 いや、気付いたかも知れないが、その様子を横目に見ながら、
「俺には関係ない」
 と思って、余計なことを考えずに、足早に学校に向かったのかも知れない。
 彼らが狼狽えはじめて少ししてのことだった。ちょうど通りかかったのが、学校の先生だったのだ。
 先生は、生徒の様子がおかしいことに気づいた。
「おい、お前たち、どうしたんだ?」
 と、後ろから声を掛けられ、それぞれに振り替えると、皆それぞれに、何とも言えない不思議な表情をしていた。
 しかし、実際に感じたのは、
「皆、何か普段は見ることのないような何かを見つけたような気がする」
 というものであり、その直感を、後で刑事に聞かれた時も、そう答えたのだった。
「先生、あそこ」
 といって、生徒の一人がラミネート版の向こうを指さした。
 先生は、覗き込むようにしたが、すぐには、暗くて、よくわからなかった。しかも先生は、高所恐怖症の気もあるので、余計にそう感じたのだろう。完全に腰が引けていて、下を覗き込んでいるつもりでも、半分は視線だけを向けているだけで、顔は明後日の方向を向いていたのだ。
 ただ、確かに言われてみれば、何か白いものが、薄暗いその場から見えたのだ。それが、帽子のようなものだというのが分かったのは、少ししてからだった。
 そう、白くて丸いものが、そこには落ちている。
「とりあえず、警察に通報だ」
 ということで、先生はスマホを取り出して、警察に通報した。
 先生はとりあえず、
「警察には通報しておいたので、君たちが学校へ行きなさい」
 ということで、生徒を学校に行かせて、警察の到着を待つことにした。
 もちろん、簡単にであるが、生徒には発見した時の様子と、発見した大まかな時間を聴いておいた。
 とにかく驚きで時間的な感覚など覚えているわけではないだろうが、生徒たちが、
「大体いつも何時頃にここを通るか?」
 ということくらいは、分かるだろうということ、聞いておいた。
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次