小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

悪党選手権

INDEX|16ページ/21ページ|

次のページ前のページ
 

「出世欲がない」
 というよりも、出世をしたくないと言った方がいいだろう。
「下手に肩書がついて、責任ばかり負わされたら、やってられない。精神的に追い詰められて、身体を壊して会社を辞めなければならなくなっても、しょせん、会社が面倒見てくれるわけではない」
 ということを分かっているからだった。
「もし、給料を倍出す」
 と言われたとしても、彼は、
「いいです」
 と答えることだろう。
 もし、身体を壊して、立ち直るのに、養生のために、
「1年で、お金と時間がどれほどいるか?」
 ということを考えれば、もし、20歳代のうちに、身体を壊してしまえば、10年も働いていないにも関わらず、そこから、数年以上も、まともに働けない身体になれば、いくら、倍もらったとしても、40代になるまでに、その貯えをすべて食い尽くしてしまうだろう。
 しかも、ここから皆失念していると思うのだが、仕事に復帰して、今まで通り仕事ができるわけではない。なぜなら、20代の途中から、まったく成長をしていないからだ。もし、そこから、
「同年代に追いつく」
 ということまでに辿り着くまで、いくら死ぬ思いで覚えたとしても、そこから最低でも、15年はかかるだろう。
 なぜといって、自分が努力している間も止まってくれるわけではない。
「近づいた分、離れて行っているのだ」
 ということである。
 その間、リハビリのようなものだから、まったく給料もほとんどもらえないと見てもいいだろう。
 すでに、その時点で、給与面ではマイナスからのスタートになるのだ。
 給料、キャリア、精神面すべてを取っても、
「給料倍」
 くらいでは、まったくわりに合うわけもない、
 そもそも、倍の給料など貰えるはずもなく、結果、生涯にもらえる給料のどれだけを、そしてどれだけの期間を無駄にしてしまったというのか、ブラック企業というものの、罪は、そう簡単に許されるものではない。
 会社で、仕事ができなくなってしまったものの面倒を見るなど、そんなことをする会社というのは、本当にあるのであれば、教えてほしいと思うのだ。
「自分の身体は自分で守るしかない」
 という言葉は、まさにその通りだというしかないだろう。
 会社もバカである。そんなことをしても、会社も社員もロクなことにはならない。会社としても、変なウワサが流れて、どうすることもできなくなってしまって、下手をすれば、会社が破綻ということにもなりかねないのだ。
 要するに、
「目の前のことだけを考えて、いくらその時だけ何とかなっても、長い目で見れば、明らかに損になることを、どうして考えようとしないのか?」
 ということであろう。
 バブルの時代には、今では当たり前のこととして分かるような理屈を、誰も考えようとしなかったのだ。
 その教訓として、考えようとすると、どうしても、足元のことしか見えないということになるのか、それとも、長い計画を立てようとしても、結局は、
「まずは目の前のことから行っていく」
 という発想になってしまうのかということなのであろう。
 そんなことを考えていると、目の前のことの積み重ねになるのだろうが、会社の経営企画というと、
「五か年計画」
 などという、中長期ビジョンで考えられていることだってあるだろうが、それが、本当にいかされているのかどうか、実に疑問だ。
 なかなか、会社の経営陣に参加しなければ、このあたりのことは分からないのだろうが、中長期ビジョンというところでの計画としては、基本的に、売上関係の目指すところではないだろうか?
 まずは、売上と利益を概算で、ざっくり計画し、そこから、その計画に向かってのプランを立てるという考え方。
 もちろん、そこには、会社の今までの業績や実績から求めていく。事業拡大、営業努力による売上の向上、支出としては、人件費の増加、さらには、設備投資であったり、老朽化による建物の改修等などを考えた上で、出てきた試算に基づくものだろう。
 ただ、そこに、
「人間の限界」
 であったり、
「予期せぬできごとを考える余裕」
 などといった、それらの伸びしろ的な予算を、どこまで計画に入れていたかということであろう。
 その計画がなければ、とても、経営はうまくいくはずがなく、いずれは破綻の道を歩むことになるとは、夢にも思っていないのかも知れない。
 そんな状態において、谷口氏が店長としていた店は、あまりいい企業ではないといってもいいのかも知れない。どちらかというとブラックに近いというもので、もっとも、この業界自体が、全体的に、
「ブラックに近いのかも知れない」
 と、警察が聞きこみをしている間に感じたことだった。
 それだけ、アルバイトやパートの人ですら、社員の人たちをみていて、
「可愛そうに思えてくる」
 と感じているように思えてならないのだった。
 そんな中で、一人のパートから聞かれた話だったが、
「谷口店長ですか? そうですね、あの人は、最初の頃は結構、楽しそうにしていたんですよ。こんなブラックな企業で、あんなに楽しそうに仕事ができるなんて、羨ましいと、他の人とも話していたんですよ。やっぱり、他の人もおかしいと思っていたようで、どうしてなのかと、皆、心のどこかで、そんあな風に思っていたようなんですよ」
 というではないか。
「何か心当たりはありますか?」
 と言われたパートさんは、
「不倫をしているという話を聴いて、それで、うきうきしているのかなと最初は思っていたんですが、そのテンションがずっと変わらないんです。普通だったら、人間が相手なんだし、しかも不倫ということであれば、ただでさえ、精神的には不安定になるんじゃないかと思うんですが、そんなことはなく、テンションの方は、相変わらず高いままで、しかも、そのテンションの高さに、幅がほとんど少ないんです。これは、精神的にも安定しているのか、裕福なのかって思ったんですよ。そう思うと考えられることって一つじゃないですか?」
 という。
 それを聞いた坂崎刑事は、何となく言いたいことは分かった気がしたが、それを敢えて聴いて。
「というと、どういうことになるんですか?」
 と訊ねると、
「お金じゃないかと思ったんです。不倫をするにしても、何かの精神的な安定を得ようと思うと、お金が必要になるというのは、当たり前のことではないですか?」
 という。
「じゃあ、谷口さんは、何かお金には不自由はしていなかったということでしょうか?」
 と聞くと、
「ええ、私はそう思っているし、まわりの皆もウスウスは分かっているんじゃないかと思ったんですよ。そうこうしているうちに、谷口店長が、辞めていくことになったんですよ。私も最初はどうしてかな? と思ったんですが、どうも、ウワサとしては、解雇だということを聞いて、違和感がないわけではないですが、なるほどとも感じたんですよね」
 ということであった。
「それを、あなたは何が原因だと思われますか?」
 と坂崎が聞くと、
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次