悪党選手権
ということを聞いたことがあったのだ。
街まで行って、バスの時間を気にしなければいけないということを思えば、ショッピングセンターで23時まで貸し切ってもいいだろう。
実際に、和食の店や、鍋関係のお店などでは、宴会のお客さんを募集している。
それを思えば、
「なぜ、わざわざ街までいくのだろう?」
ということであった。
それを聞いて、もう一人の刑事が、
「裏を取る」
ということで、マンションの組長のところに話を聴きに行ったのだ。
幹事に関しては、期間を区切って、持ち回りであったが、実際の組長というのは、年間を通しているので、その人がその年は一番の決定権を持っているといってもいいに違いない。
実際に裏を取りに行っている間に、さらに話を聴いてみた。
「奥さんは、ご近所付き合いはいかがだったんですか?」
というと、旦那もビックリして、
「どうしてそんなことを聞くんですか?」
というので、
「いや、ただの聞き取りですよ。それによって、奥さんが、飲み会を楽しみにしていたかどうかというのも分かるじゃないですか? それによって、お酒に飲み方も分かってくる。実際に帰りかけに、ほとんどシラフ状態だったのか、ベロンベロンに酔っていたのかによって、事故の見えてき方も変わるというものですよね」
と刑事は言った。
「確かにそうですが、うちの奥さんは、そこまで無理に飲んだりはしないですね。近所づきあいも普通だったんじゃないですか?」
と、今度は、けんもほろろという感じで、旦那は答えた。
「あまり、この話には触れられたくない」
とでもいいたいのだろうか?
それを考えると、
「奥さんと旦那の関係というのも知っておくほうがいいかも知れないな」
と、刑事も思うのだった。
ただ、本当にただのひき逃げであれば、それらの考えはまったく無意味なことであり、どこにでもいるような夫婦の関係を疑って、余計な先入観を捜査に与えないようにしないといけないいということであろう。
それを思うと、奥さんのことをあまり気にするのはいけないとも思うのだが、旦那のあの様子を見ていると、
「深入りしないといけないのではないか?」
と思わせるのであった。
「旦那が、奥さんを恐れていた」
ということも考えられるが、もしそうだったら、死んでしまったのだから、恐れる心配はない。
そうなると、旦那としては、何にそんなに恐れているのか、それは、自分にも危険が及ぶというようなことであろうか?
もちろん、ただの交通事故でしかないように見えるだけに、こんな先入観は、捜査には邪魔なのかも知れないが、今回の事件は、数日前に、同じ場所で死体が見つかっているということもあって、
「ただの偶然では済まない」
ということなのではないかと思うのだった。
ただ、偶然というのが、どこまでのことをいうのだろう?
交通事故に妻が巻き込まれたというのであれば、それこそが偶然というものではないだろうか?
確かに、交通事故など、日常茶飯事であるが、ただ、ひき逃げということになると話は違う。
ひき逃げがあってから、思い返して、自首してくるという犯人も、実際に一定数いるというのも、紛れもない事実なのだ。
「なるほど、奥さんがご近所付き合いが悪くないとすれば、それでいいんですがね」
ということで、少し話が、そこで途切れてしまった。担当刑事はそこで一度話を切り上げて、もう一人の刑事に落ちあうかのように、組長さんのところに行ってみることにした。
被害者の衣笠夫婦の部屋は、5階にあったが、今年の組長さんというのは、2階にあるようで、エレベーターで下に降りた。
先にやった刑事はすでに聞き込みに入っているようで、担当刑事がそこで加わることになった。
「こちらは、坂崎刑事です」
と言って担当刑事が紹介されたので、坂崎刑事が頭を下げると、話の続きに入っていた。
「衣笠さんの奥さんのことですよね? 今回は実に気の毒なことで、御冥福をお祈りするというところですね」
と組長はそういったが、どうも、心から言っているとは思えなかった。
ただ、それも、組長という立場から言っているだけだということが分かったので、
「相手が誰であっても、態度は変わらないだろう」
ということであった。
組長というのは、元々そういうものであって、そこを掘り下げるということはしたくない。
「ところで、一つ気になったんですが、毎回、都心部で飲み会を開くんですか?」
と聞かれた組長だったが、
「いえいえ、そんなことはありませんよ。街まで行くのって、結構大変ですからね。だから、普段は、そこのショッピングセンターか、センターができる前によく利用していた居酒屋を予約することが多かったんです。でも、今回は、どちらも予約ができなかったと感じがいうので、仕方なく、都心部の方にしたわけなんですよ」
と組長は言った。
「ところで今回の幹事は誰だったんですか--?」
と坂崎刑事が聴くと、
「ああ、今回の幹事は、亡くなった衣笠さんだったんです。こんなことになると分かっていたのなら、させたりはしなかったんですがね」
と組長は言った。
次第に、坂崎刑事は苛立ちを覚えていた。
何と言っても、
「そんなことは分かっている」
と言いたいのだ。
言い訳なのか、いかにも当たり前のようなことを言って、それを相手に納得させることで、自分の正当性というものを保とうとしているのではないかと思うと、本人が必死になっていると思えば思うほど、苛立ってくるのであった。
坂崎刑事は、どこか、勧善懲悪なところがあり、そのくせ、
「あざとい行動をする人に対しては、イライラするタイプ」
だったのだ。
だから、坂崎刑事にとって、この組長のようなタイプは嫌いな相手であり、ただ、坂崎刑事のような人間は、結構なわりで、
「好きになれない相手」
というのが結構いるということになるであろう。
そういう意味では、組長よりも、むしろ旦那の方が嫌だった。
あからさまな態度を取るというわけではないのだが、それ以上に、時々見せる大げさにも感じられる態度にあざとさを感じるのだ。
「計算高いところがあるのか?」
と考えてしまうのだが、それが、
「木を隠すには森の中」
ということわざがあるように、
「ウソを隠すには、本当の中に紛れ込ませればいい」
という考えに近いといえるだろう。
だから、旦那が、
「大企業の、課長だ」
と聞いた時、最初から嫌な予感がしていたのだが、まさに、その予感が当たってしまったということになるのだろう。
今回の事故は、そもそも、運が悪く、
「近くの店が取れなかったことで、都会の店に変えてしまったことで交通事故が起こった。それがたまたま、幹事である奥さんになってしまった」
ということを、
「ただ運がなかっただけ」
といって片付けていいものだろうか?
とりあえず、このあたりも本当に奥さんの言う通り、このあたりのお店が皆満室だったのかということを確認する必要があるだろう。
そう思いながら、さりげなく、亡くなった奥さんのことを聞いてみた。
組長は、最初こそ、警察に質問されて、
「面倒くさいな」