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悪党選手権

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 捕まってから、改心し、罪の償いとしての刑期を終えてきたことで、忘れてしまいかけた思いが、またよみがえってくるのだった。
「しょせん、自分は、この思いでしか生きられないんだ」
 と思い、
「警察も皆、そんな、ぬるま湯に浸かっている連中だけを救うという考え方で、俺たちのような、生きるということを真剣に考えている人間を悪と決めつけ、改心させようとしたって、結局、どこも受け入れてはくれない世の中を思い知らされるだけでしかないのではないか?」
 と感じさせられるしかないのだ。
 そうなると、
「世の中なんて、しょせんは、信じられない」
 と思いながら、またしても、再犯に走り、また、警察から逃げることになってしまうのだ。
 そんな、
「負のスパイラル」
 というものを、田村刑事も、迫田刑事も、感じている。
 それを感じないと、
「刑事は、事件に向き合えない」
 とも思っているが、実際に事件が起こってしまうと、犯人を突き止めて、真実を明らかにし、事件を解決しなければいけない。
 そんなことは分かっているのだが、ここからが、理不尽との闘いであった。
 警察には、
「守秘義務」
 というものがある。
 もちろん、警察だけにいえることではなく、他の職業にも大なり小なり守秘義務というものがあるだろう。
 特に警察は、
「事件の捜査において知りえた個人情報を、むやみに人に話してはならない」
 ということである。
 事件の捜査の真っただ中にいて、そのたびに、個人情報が漏洩してしまうと、それこそ事件の捜査ところではない。漏洩した個人情報で、容疑者が誹謗中傷を受けかねない。まだ、真犯人かどうか決まったわけでもないのにである。
 そんな状況において、事件解決どころか、一歩間違えれば、混乱の中で、一つの、
「冤罪事件」
 を引き起こしてしまいかねない。
 事件を解決したつもりで、解決もされていないうえに、さらに、
「二次災害」
 として、冤罪というものがもたげてくるのだとすれば、やはり、
「守秘義務」
 というものは、絶対に守られなければならないものだといえるのであないだろうか?
 そんなことを考えていると、捜査においても、一つ一つの情報を、大切にしなければいけない。
 真意を確かめることも大切だが、守秘義務というものをしっかりしておかなければならないということだ。
 だから、基本的に、それだけ厳しい警察が、罪を償って出てきた人の悪いウワサを、就職先で流すわけはない。
「そんな、毎日のように、刑期を終えて出所してくる人のことを、いちいち覚えてなどいるわけはない」
 というのも、事実であり、昔の刑事ドラマなどでは、
「自分が捕まえた犯人のことが気になっているからと、たまに刑務所に面会に行ったり、出所後、就職の世話をしてやる」
 などというのを、よく見るが、
「本当にそんなことができるというのか?」
 というのが、本音である。
 ドラマを見ている時は、どうしても、ストーリーに嵌ってしまうと、そういう美談は、
「なるべくあってほしい」
 という思いがあるからなのか、ストーリーに嵌って見てしまう。
 それが、脚本家であったり、プロデューサーの狙いなのかも知れないが、その感情がドラマの骨子にあるとすれば、ストーリー展開が変化しても、そのままの路線で行ったとしても、最初に感じた、
「なるべくあってほしい」
 という思いは最後まで付きまとい。
「後味のいい悪い」
 のどちらであっても、結果、
「作品を作る側の術中に嵌ってしまった」
 ということになるのが、オチではないだろうか?
 とにかく、この事件の基礎となる部分で、
「守秘義務」
 というのが、どこかに働いているのではないか?
 と、田村刑事は、漠然とであるが、考えるようになっていたのだった。

                 交通事故

 そんな、
「守秘義務」
 というようなものが、警察側にとって、ネックとなっていることを、田村刑事が感じていると。主任さんからも、パートの人からも、それ以上のことを、情報として得ることはできなかったのだ。
 だが、
「羽黒という元店長が殺害された」
 というのは事実であり、それに関係があるかも知れないと思われる、
「不倫疑惑」
 が浮上してきたのも、事実だったのだ。
 今のところ、殺人の動機として考えられる有力なものとしては、
「不倫関係にある女がいた」
 ということと、さらに、その女が、
「万引きをしたことがあり、店長がその相手をした」
 ということは事実として残っているのだ。
「万引きをした女に対して、脅迫をしているのか、とにかく立場的には圧倒的に有利になっていることを利用し、不倫関係になった女がいる」
 ということであれば、その女には、
「被害者を殺す動機がある」
 ともいえるであろう。
「自分のことを脅迫しているのであれば、脅迫してくる相手を葬ってしまわないと、自分が助かる道はない」
 と思う、なぜなら、
「一度食いつかれて、金を取られたり、肉体関係を結んでしまうと、相手はさらに、何度も無心をしてくるはずで、そうあると、一生食いつかれてしまう」
 と思うと、それは、殺人の動機としては十分であり、普通に考えれば、
「被害者の方も、殺されて当然だ」
 と、どこか殺人者であったとしても、同情の余地は生まれてくる。
 だが、同情だけで片付けられない問題もあり、それを考えると、
「犯罪の多様化」
 あるいは、
「犯罪の特殊性」
 というものは、どんどん生まれてくるということが自裁に起こるものだということを感じさせられてしまうのだった。
 そんな今度の殺人事件が、明るみに出て、これから事件の全容を解明しようかとしているところで、ある一件の事件が起こった。
 いや、事件というか、
「事故が事件になった」
 ものであり、というのは、
「死体が発見されて、3日後に起こったことであるが、ちょうど被害者が見つかったあたりを歩いていた一人の主婦が、交通事故に遭った」
 というものであった。
 犯人は、ひき逃げをしていて、その場にはいなかったということだが、たまたま、その現場を見ていたサラリーマンが急いで救急車を呼んだことで、その女性は、一命をとりとめたということであった。
 事故ではあるが、犯人はその場から逃走しているということなので、
「殺人未遂事件の可能性もある」
 ということである。
 しかも、ちょうど3日前に、ほぼ同じ場所から、死体が発見されているということもあって、
「事件に直接関係あるとは言いにくいが」
 と言いながらも、簡単に切り離して考えることはできないだろう。
 そのことを刑事も分かっているのか、ひき逃げ犯を追いかける方も、それなりに注意して捜査に当たるということであった。
 ひき逃げというのは、実に悪質なものであり、もし、被害者が死んでしまったとすれば、本当の、
「殺人罪」
 というよりも、もっとたちが悪いものではないかと考えられるのだ。
「ひき逃げなどというのは、殺人事件に匹敵すると思うのは、ほとんどの場合に、情状酌量の余地はないといってもいいのではないか?」
 と考えるからであろう。
作品名:悪党選手権 作家名:森本晃次