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血の臭いの女

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「運営費だって、自治体から出ているが、そんなものは、正直雀の涙にもならない」
 ということであった。
 そういう意味で、自治体に対しても文句があった。
「あいつらは、ほんの少しでも、金を出せば、それで俺たちが喜ぶとでも思ってやがるんだ。これっぽちの金で何ができるっていうんだ。しょせんは、金をやっているということで、マウントを取りたいだけじゃないか。こんなあざといこと、俺たちが見抜けないとでも思っているのか、そのバカさ加減が、情けないのさ」
 ということであった。
 それでも、
「敵を警察」
 ということにしておかないといけないことから、どうしても、自治体に逆らうことはできない。
 それを思うと、どこかやり切れない気分にさせられるのだった。
 そんな状態で、警備をするようになってから、5年が経っていた。
 その間に、
「世界的なパンデミック」
 というものが起こり、警備隊も休業を余儀なくされた時期があった。
「この時期は自治体も金が出せない」
 ということもあって、
「それよりも、外出を控えるようにしてくれないだろうか?」
 ということもあって、しばらく様子を見ることにした。
 そもそも、第一の目的である、
「家族を、暴漢から守る」
 ということも、家族の外出がなくなったことで、国が発令した、
「緊急事態宣言」
 の間は、こちらも自粛していたのだ。
 そこから、約2年間ほどは、伝染病の蔓延ということもあったが、それ以上に、
「政府の迷走」
 というものがひどく、安定しないようだった。
 ただ、蔓延が落ち着いてきたわけでもない状況で、政府が、
「経済を回す」
 という理由で、
「行動制限はしない」
 あるいは、
「マスクも外していい」
 あるいは、
「特定伝声病」
 という指定から外す。
 などと言い出したのだ。
 ハッキリいって、それらすべてにおいて、
「政府が何をしたいのか?」
 あるいは、
「大っぴらには言えないが、本当は……」
 ということが、喉から出かかっているのではないだろうか?
 要するに、
「金がない」
 いや、もっと正確にいえば、
「俺たちが懐に入れる金がなくなるのが怖い」
 という私利私欲に塗れた政治家が考えていることであり、
 喉から出るほどに言いたいことは、
「お前ら国民なんか知らない。俺たちは金が儲かればそれでいいんだ。誰が死のうが生きようが関係ない。自分の命は自分で守れ」
 と言っているのと同じではないだろうか?
 もちろん、これを大っぴらに言えるわけはない。しかし、明らかに、政府や自治体は、
「金を出したくない」
 ということは、見ていれば露骨なほどに分かるのだ。
 そんな様子を見ていて、
「今の政府や警察は、本当にあてにならない」
 と感じたことで、
「この施設団体の意義が、今こそ試されるのではないだろうか?」
 と、考えるようになった。
 実際、最近では、警察も何も言わなくなった。
 というのも、実際に、彼ら、
「私設警備隊」
 というものができて、確実に、犯罪件数は減ってきている。
 警察の見回り程度では決して減ることはなかった。よほど、私設警備隊というものを恐れているのかも知れない。
 一つ考えられることとして、
「私設警備隊が、非公式である」
 ということだ。
 何といっても、彼らは、警察のような、公的な施設ではない。
 ということは、逆にいえば、
「何をするか分からない」
 ということだ。
 もし、警察に捕まれば、確かに刑務所に行かされたり、前科がついたりすることは間違いないが、だからといって、
「私設警備隊」
 というものを舐めるわけにはいかない。
 彼らは、
「法律によって動いているわけではない」
 ということだ。
 警察であれば、個人情報保護や、刑法、刑事訴訟法で守られて、特に、個人のことを、必要以上に曝け出したりはしないだろう。
 完全に、
「犯人だ」
 ということにならない限りは、重要参考人といっても、逮捕されない限りは、その人を糾弾することはできないだろう。
 しかし、施設警備隊に、
「現行犯」
 として捕まったら、そこで、個人情報は完全にバラされるかも知れない。
 警察だったら、
「冤罪になったら」
 ということで、逮捕状でも出ない限りは、その情報は守秘義務で守られることだろう。
 しかし、法律の抑えが利かない、民間であれば、
「俺たちが断罪するだけだ」
 といって、いきり立っている連中を抑えるのも難しいかも知れない。
 何といっても、団体に所属している人たちは、家族や大切な人を守れなかったという後ろめたさがあるから、いまさら、悪に対して容赦をする気などまったくない。
 というわけである。
 そんな状態において、犯人たちも、相手を、
「まるでやくざを相手にするようなものだ」
 と思うことで、恐ろしくなって、何もしようとしないのだろう。
 それでも、
「相手が何であれ、自分の欲求を満たさないと我慢できない」
 というような人たちは一定数いるわけで、それらに対しての使節警備隊がどこまでの力を発揮できるかというのが、大きな問題だった。
 確かに、
「警察だけだったら、何とかなる」
 と思っていた連中が引きこもっているとはいえ、中には、
「団体で行動している犯罪組織」
 のようなものもあるかも知れない。
 それらの存在を、施設警備隊が、失念しているのは、恐ろしいといってもいいのではないだろうか。
 それでも、今のところ、鳴りを潜めていることから、問題はないといえるが、行動を始めると、警察でも、容易に検挙できない相手なので、民間にとっては危ない存在であろう。
 しかし、それを彼らに忠告することは難しい。
 もしそんな忠告をしようものなら、
「お前ら警察が何もできないから俺たちがやっている」
 という、
「実にその通り」
 のことを言われて、またしても、ぐうの音が出なくなるということになってしまうのであろう。
 そんな私設警備隊が、まさか、
「殺人事件」
 の第一発見者になろうとは、誰が想像しただろうか?
 警備隊は、ほとんどは、日没から、日付が変わるまでというのがその行動パターンであったが、
「世界的なパンデミック」
 の影響で、警備は、早朝にも行っているのだった。
 時間的には、午前4時から6時くらいまでということで、その時間に、空き巣や強盗まがいのことが、他の町で多いということからだった。他の街では、警察が動いていたが、この頃にはすっかり、私設警備隊が、警察よりも、街の治安を守っているという状況になっていたのだった。
 そんな状態だったので、ちょうど、
「新聞配達の人」
 と変わらないくらいの状態でのパトロールが続いたのだ。
 というのも、ここ数か月の間で、4、5件という、無人のところを狙う強盗事件が発生したのだ。
 それも、たぶん、犯人は、
「素人ではない」
 と警察は思ったことだろう。
 入念に計画されたところでの犯行であり、防犯カメラで写ったとしても、それが、犯人逮捕に必ずつながるというわけではないということであった。
作品名:血の臭いの女 作家名:森本晃次