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血の臭いの女

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「なるほど、確かに、この臭いだった」
 と感じたが、
「自分では、感じたことがなかったのにな」
 と感じるのは、やはり、自分でけがをし、出血した時には、それほど血の臭いを感じないという感覚に似ているのだろう。
 それを思うと、相手が男であり、
「こちらのことを何でも知っている」
 という感覚になると、気持ち悪さしか感じなくなった。
 その思いがあるからか、自慰行為をしているように感じたのだが、あくまでも、妄想でしかないと思うと、妄想に振り回される自分に嫌気が差していたのだった。
 だが、自慰行為は錯覚であるということが分かってくると、今度は、自分の身体から、想像以上の出血があるのを感じていた。
「意識が遠のいているような気がする」
 と思うと、完全に貧血状態になっていた。
 普段であれば、何とか耐えられるというもの、今回は、簡単に耐えられるものではなかった。
「今回の血の臭いが、貧血を誘発し、抑えの利かない気分の悪さ」
 になっていた。
 本来なら、薬を飲むのだろうが、それすら億劫になっていて、このまま、眠ってしまった方が楽だと自分なりに判断したのだろう。
 そう思うと、前を向いているだけでもきつくなってくるのを感じ、瞼が重たくなってくる。
 いつもであれば、瞼が閉じるまでに意識を失っているのだろうが、今回は、完全に瞼を閉じてしまっても、意識はまだあるようだった。
「今日の私は、どうかしてる」
 と感じ、目を閉じた状態で、目の前を見ていると、その瞼の裏が真っ赤に見えていたのだ。
 真っ暗な中で目を閉じたはずのに、まるで目の前に日が差している中で、そのまま目を閉じたという感覚だった。
 それを思うと、
「電話の声が、自分をおかしくしているのではないか?」
 としか思えなくなっていた。

                 近隣マンションの死体

 美穂が、
「寝苦しい夜」
 を過ごしたその翌日、近隣のマンションで、一人の死体が発見されたという。
 そのマンションというのは、美穂が住んでいるマンションから、一つ筋を入ったところから、奥まったところにあった、いわゆる、
「閑静な住宅街」
 への入り口になるところだったのだ。
 その場所に入ると、夜になると、極端に人通りが少なくなり、大きな通りであるにも関わらず、バスも通っていないというところであった。
 それだけ、大きな通りは、このあたりには乱立しているようで、どうやら、昔の武家屋敷の名残からか、
「大きな通りと、少し入ったところでの、差というものは、想像以上のものだったのである」
 といってもいいだろう。
 さすがに、
「眠らない街」
 というほどのものではないが、夜になっても、若干の人通りがあった。
 元々、閑静な住宅街ということで、痴漢やひったくりなどの犯罪が慢性化しているということで、いつの頃からか、有志が集まって、
「見まわり隊」
 のようなものを組織しているのだった。
 見回り隊といっても、さすがに、
「新選組」
 のような、剣豪集団なわけもなく、当然、今の時代に、民間の組織で、護身用の武器などを保持しておくわけにもいかず、警察からは、
「危険ですから、やめてください」
 と言われていたのだが、民間人も黙っていない。
「何を言いやがる、警察が無能だから俺たちがやってるんだろうが、お前たちの無能を棚にあげて、俺たちに物申すつもりか? 何様のつもりだ。この税金泥棒が」
 と、口調は悪いが、一言一句間違ったことを言っているわけではない。
 完全に当然のことを言っているわけで、さすがに警察もここまで言われると、腹が立つというのもあるだろうが、それ以前に、ぐうの音も出ないので、言い返せないのであった。
 そんな状態では、警察も何もできない。
 実際に、街の警備もさることながら、この市民有志の団体も、危険にさらされることになるわけで、苛立ちもあるが、彼らも気にしておかなければいけない。
 正直に言って、
「もう、余計な手間は掛けさせないでほしい」
 と言いたいのだろう。
 しかし、市民団体からすれば、それどころではない。
「警察が無能だから俺たちが」
 というのは、もっともなことで、本当は警察が無能というよりも、
「決まり切ったことしかできない警察組織」
 というものが、
「本来の目的で機能していない」
 というのが、問題なのだろう。
 つまりは、
「防犯をいくつかの団体で行えば、抑止にはなるかも知れないが、何かが起こった時、収拾がつかないことになるかも知れない」
 ということも考えられるということである。
 そんなことを考えていると、どうしても、警察と市民団体の確執から、
「何かよからぬことが起こらないか?」
 ということが、問題だったのだ。
 その、
「悪い予感」
 が本当に当たってしまうとは、そして、
「それが、このタイミング」
 ということを誰が予測したというのだろう。
 このタイミングというのは、ちょうど、
「市民団体の団長が、交替した」
 というタイミングだった。
 基本的には、団体の団長は、選挙のようなもので選ばれる。普通の区や組で、自治体傘下としての団体であれば、
「公平に、持ち回り」
 というのが、多いのだろうが、彼らの場合は、そもそも、
「有志を募っていての、自治体傘下ではない、独自の団体」
 ということで、選挙制となっているのだった。
 ただ、公式ではないということだったが、市から、
「団体登録」
 ということで、団体運営費のようなものがもらえるのだった。
 他の自治体にそんな制度があるのかどうかわからないが、
「公式ではないが、警察も自治体もできない警備を、彼らが代行してくれているということであれば、運営費をあげるのは、当たり前だ」
 ということで、多数決でも、賛成多数で、
「運営費の支給」
 が決定したのだ。
 これは、ある意味、
「警察に対しての自治体の挑戦」
 でもあった。
 ここの自治体は、基本的に、管轄となっている警察が嫌いだった。
 というよりも、
「警察全体が大嫌いだ」
 という人がほとんどで、それは、同じ公務員ということで、却って、相手のことがよく分かるのか、それだけに、相手がムカつくという感覚に間違いはなかったのだった。
「どうせ警察だって、俺たちを嫌っているさ」
 ということで、一触即発という様相を呈していたのが、ずっと続いてきたのだった。
 そんな警察と自治体の間に割って入った。
「私設警備隊」
 は、完全に、自治体寄りに見えるが、内情は、
「それほど自治体に期待しているわけではない」
 ということであった。
 自治体というものが、いかにいい加減なものかというのも分かっていて、
「警察と同じ穴のムジナ」
 というくらいに感じていたのだ、
「しょせんは、どちらも公務員」
 と思っていて、ただ、
「どちらがひどいか?」
 と言われると、
「満場一致で、警察だ」
 というに違いない。
 なぜなら、この警備を始めたのだって、実際に被害に遭った人が一向に減らず、団体に所属している人の家族が被害者だったりすることが多いからだった。
 それを考えると、
「私設警備隊」
 を築くのは当たり前で、本当であれば、
作品名:血の臭いの女 作家名:森本晃次