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同一異常性癖の思考

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 と頷いていた。
 しかし、実は、この、
「時効」
 というものには、盲点があった。
 この盲点というのは、警察側にあるわけではなく、犯人側が、ちゃんと把握していなければいけないことであった。
 というのは、昔、時効があった時、刑事訴訟法の時効の項目で、
「殺人の時効は15年ということであるが、もし、犯人が、海外にいた時間は、時効の継続を停止する」
 というような文面があったのだ。
 つまり、15年を時効期間として、海外潜伏を、例えば、5年間だったとしよう。
 5年、海外に潜伏していて、日本に帰ってくれば、普通に考えれば、
「時効はあと10年だ」
 ということで、犯人が、ちょうど、そこから10年経ったことで、
「大っぴらに表を歩ける」
 などと言って、ノコノコと表に出てくると、指名手配にでもなっていると、捕まってしまうであろう。
 犯人が、
「時効の停止」
 というものを意識していなければ、当然、出てきた瞬間に、警察に捕まるというものだ。
 いくらそれまで、必死になって見つからないように注意していても、その瞬間に、すべてが無駄になるのだ。
 そういう意味で、時効があった場合、海外潜伏というのは、犯人側にも、一定のリスクがあるということであった。
 だから、若い刑事には、
「時効があった頃の考え方」
 というものが分からない。
 ということで、海外にいる方がいいという考え方がいまいち理解できないのだろう。
 若い刑事も、時効というものは分かっているはずだ。
「凶悪事件の時効は撤廃されたが、それ以外の事件に関しては、基本的に時効というのは、存在している」
 ということだからである。
 若い刑事にとって、凶悪事件にまだまだ出会っていないこともあって、
「時効がない」
 という方が、本当は馴染みがないのかも知れない。
 しかし、K警察署というところは、検挙率がいいことで有名なので、そもそも、
「時効というものを意識するということはない」
 といってもいいだろう。
 確かに、最近の事件は、殺人事件であっても、そんなに解決までに時間が掛かるというイメージはなかった。
 それは、桜井刑事や迫田刑事の活躍が眼を見張るからであり、若い刑事にとっては、彼らベテラン、中堅刑事の活躍は、お手本であり、目指すところでもあるのだった。
 特にこの二人の刑事は、
「目の付け所が違う」
 と言えばいいのか、誰もが思いもつかない突破口を、結構早い段階から見つけ出して、事件解決に結びつけているのだった。
 というのも、
「最近の犯人も、結構考えている」
 ということもあり、警察の通り一遍の捜査では、なかなか解決に結びつかないということも多いようだった。
 ただ、警察というところは、本当に縦割り社会で、
「上が決めたことには、従わなければいけない」
 ということもあり、そういう意味で、
「上がしっかりしていないと、犯罪捜査などおぼつかない」
 ということになる。
 そういう意味で検挙率の高いところは、
「よほど本部長クラスがしっかりしている考えを持っているか?」
 ということであったり、
「本部長を支える部下の考えが、上に通っているか?」
 ということであった。
 そういう意味で、桜井刑事や迫田刑事の発想は、天才的だといってもよく、本部長であっても、
「あの二人の意見を聞いてみよう」
 というほどに信頼を寄せているといってもいい。
 桜井刑事あたりは、
「影の本部長だ」
 と言われているくらいであった。
 だからと言って、本部長が無能だというわけではない、
 そもそも、桜井刑事や迫田刑事を育てたのは、本部長であり、本部長の考えが、皆に行き届いていなければならない時、そのパイプ役を担うのも、桜井刑事や迫田刑事であり、そういう意味でも、チームとしても、最高だということである。
 迫田刑事は、まだ若く、30代後半であったが、桜井刑事は、すでに40代に入っていた。
 警部補くらいになっていてもおかしくないのに、なぜか出世欲がないと言えばいいのだろうか。
「いや、今の方が、上と下の間でうまく機能できるので、こちらの方がありがたい」
 ということであった。
 桜井刑事はともかく、迫田刑事も、どちらかというと、出世欲はないようであった。
 そもそも、本部長も、刑事時代が長かったので、
「現場で培ったものが豊富なだけに、部下に慕われるのだ」
 ということをしっかりと分かっているのだった。
 迫田刑事は、いつも桜井刑事の背中を見ていて、その桜井刑事は、本部長の背中を見ている。
 それが、K警察刑事課の強いところであり、今の現場は、迫田刑事が中心になっていて、桜井刑事は、近い将来、警部補になることも分かっているので、一歩上の立場から捜査することになるであろう。
 そうなると、いよいよ、現場の中心は、
「迫田刑事だ」
 ということになるだろう。
 迫田刑事は、そういう意味で、現在起こっている事件以外でも、他に事件がない時は、
「未解決事件」
 つまり、
「お宮入りになった事件」
 を研究しているのだった。
 その中で一番気になっているのが、10年前に起こった、
「老夫婦強盗殺人事件」
 だったのだ。
 老夫婦が、最初のイメージと打って変わって、途中から、
「あの夫婦は守銭奴だったのではないか?」
 ということになった時、迫田刑事は、何か違和感のようなものがあった。
 考えれば考えるほど、憤りを感じるものであり、
「何かに騙されているような気がする」
 というものであったのだが、それが何か分からないだけに、イライラした感覚があったのだ。
 それまでの犯罪事件で、そんなことを感じたことはなかった。
 しかし、それを桜井刑事に打ち明けると、
「うーん、それが何かというのは、本人である君にしか分かることではないのだろうが、その気持ちだけはしっかり持っているといいかも知れないな。事件というのは、ちょっとした違和感から、案外と真実に辿り着くことがある、そのことをしっかりと自分で理解しておく必要があるからな」
 と、言われたのだ。
「はい、分かりました」
 と答えてはいたが、その時の桜井刑事の言いたかったことが何なのか、今でも分からない。
 それだけに、本当は聴きたいのも山々なのだが、ぶん、教えてくれないということは分かり切っているので、それ以上、言及することはなかった。
「桜井さんは、分かって言っているように思えてしょうがないんだけどな」
 と考えたが、自分でも分からない苛立ちを、桜井刑事に分かるわけもないと思い、それよりも、
「桜井刑事が分かっているような話をしたのは、桜井刑事にもかつて同じような思いがあったからに違いない」
 ということであった。
 ただ、それを桜井刑事が話してくれないということは、
「自分でその答えは見付けないといけない」
 ということを言っているのだと思うと、
「余計に聞けない」
 ということになるだろう。
「俺だって、桜井刑事や、それ以前に本部長が歩んできたものを、人から教えられるのではなく、身をもって感じるということに邁進しないといけないんだ」
 ということを、迫田刑事は感じていることだろう。
作品名:同一異常性癖の思考 作家名:森本晃次